2017-11-11 / 今日の1800字「自分で作る」

これこれこういう書類立てが欲しいという要望がはっきりわかっているのに、BLICKに行ってもabc homeに行ってもMoMAデザインストアに行ってもぴったりの条件のものが売っていなかったので、自分で工作して作った。

こちらの整理整頓アイテムは、とにかくゴツい。生活の標準に設定されている家面積が広く、生活の標準に設定されている利用者の体格が大きい、というのが主な原因だろう。思い返せば引っ越して初めての買い物は折りたたみ式の脚立だった。新居のキッチンの一番上の戸棚に手が届かないからだ。本棚もでかい、引き出しもでかい、日本なら大中小とあるはずの商品ラインナップも大しか入荷がない。おまけに在庫もない。私よりずっと小柄でもっと狭い部屋に住む人たちもいるのに。やたらデコラティブな謎の容器や使途不明の壺などの室内装飾雑貨はたくさん売っているが、飽きたら捨てるモノなのだろう、つくりが粗い。機能的で精密で目の邪魔にならない収納用品は、探すのに苦労する。

MoMAで売っていた書類立ては、ぶっとい針金を四角く折り曲げて足を付けただけの代物だった。お値段50ドル近くするド迫力の「オブジェ」だが、素材はたかが針金である。箱なんか持ち帰ると同時に捨てるんだから包装がかわいいのも余計である。私が欲しいものとは微妙に違うんだよねー、机上でテンポラリな書類を横位置のまま立てて整理するだけの、コンパクトで素朴な衝立が欲しいんだ。A4もレターサイズも大きさを気にせずサクサク挿せるオープン型の、表面に特殊コーティングを施した耐性の強い和紙か何かをシンプルに折り曲げて自立する構造にしただけみたいな、まぁそれだけだと倒れやすいから横方向に細い支柱を渡して安定性を上げたような、……まで考えて、これは「作ったほうが早い」と気づき、店を後にした。

リビングにためこんでいたブロードウェイミュージカルのダイレクトメールの山が、折り目のしっかりついた観音開きで、ちょうどよい。キッチンにあった竹串を突き刺してテープで端を留め、10分で試作完了。とはいえ卓上で毎日毎日ジョンジョンブリオネス(『ミス・サイゴン』25周年版エンジニア役)の暑苦しい笑顔を見るのもアレなので、プレス機にかけるタブ穴まで開けたのにインクのノリが悪くて結局使わなかった高級版画用紙で作り直した。次に作るときは折り目をシンメトリにするとなお使いやすそう。やりすぎると「おかんアート」になりかねないけど。

常日頃、ミニマリストを標榜して「余計なモノのない、持たない暮らし」を実践したいと頭では思っている。とはいえ本当にミニマリスト的に暮らすと「家にちょうど具合のいい厚紙が余っている」この状況は生まれない。新しい書類立てが欲しければ、店へ出向いて既存の商品を買い求めるか、あるいは画材屋へ走って必要な工作資材を買い揃えねばならない。それはそれで窮屈な生活だ。「持たない」を突き詰めると、どんどん「買う」が増えていく。余らせたものはその場で捨てる。でも、そういう消費生活がダサいからミニマルに暮らすって話じゃなかったのか?

表面上の「持たない」追求のためにやたらと回りくどくなるくらいなら、私は何でも「話が早い」ほうがいい。こういう状況下で最短距離のソリューションを実現すべく熟考を重ねた上での合理的な備蓄なのだよ、「いま欲しいものを、廃物利用のありあわせで作れる」程度には、ごちゃごちゃとモノに囲まれて暮らすのも悪くないだろう。……というのが「捨てられない女」の言い訳なのですが、いかがでしょうかね。

渡米したとき、新居の間取り図を見ていろいろと頭を悩ませて、結局、大型の家具はほとんど船便で運び込んだ。どうしても使い道や置き場のないものは手放してきたけれど、今でもあの判断は正しかったと思う。こんなに省スペースなソファやキャビネット、こちらでは滅多に入手できないし、大きさも値段も数倍にはなる。船便輸送費のほうがずっと安いので、運ぶほうが「話が早い」。足りないものは、段ボール箱に布をかけるとか、間仕切りを追加するとか、自作で調達するのが「早い」。あるいは、まったく別用途の商品の使い方を工夫したり(今ヘアドライヤーを格納している容器は元はたしか花瓶だった)。イズムがどうだか知らんけど、「要らん買い物をせずに済む」のが一番だよなと思う次第です。



まぁ別に日曜大工をしたわけでもなし、他人様にお見せするほどの大した工作じゃないのだが、コレがなかった今までいったい何をどうしていたのか想像もつかないくらいストレスが軽減されたので、作ってよかったな、とは思っている。そういうもの、他にも結構あるんだけど、風呂場やらクローゼットやら見せて自慢できる場所にはないので、この程度のものがこの話を書く題材にちょうどいい。

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そういえば昨日も、「書類をくるくる丸めて運べる筒状キャリーケース」(建築設計士とかがよく小脇に抱えているやつ)が欲しくて、画材屋には26インチのプラスチック製しか売っていなかったので、郵送用の頑丈な紙筒を買ってきて、ノコギリでギコギコぶった切ってフタをつけ、カバンの中に入る12インチサイズのものを自作した。次に細めのラップかキッチンペーパーの芯を調達できたら、中央に貼り付けると絵筆や定規などを入れる収納ポケットになっていいんじゃないかと思っている。