2018-01-31 / 正月帰省日記

1/21、朝一番でJFK空港へ。荷物が多いので大型のUberを呼んだら、オンボロ車のトランクに孫の私物を載せているようなおじいさん運転手が来る。ほんの数年前までいつどこで誰を呼びつけてもピカピカに美しい車と最高のサービスが受けられて「タクシー価格でリムジン気分!」と大興奮していた、あの感動を返してほしいよ。スーツケースを運ぶにも「俺、too oldだからtoo heavyなの無理」と言われて、仕方ないので三人がかりで積み込む。かわいく言えば許されると思うなよ、じじい(許した)。チェックインカウンターでは「到着地の天候不良のため午後便は遅延」とアナウンスが出ていて、我々の便までがギリギリ飛ぶらしい。
セキュリティゲートに滑り込むと、夫のオットー氏(仮名)が通ったゲートでビービー警報が鳴っていて、何かと思ったら冷え対策で肩に貼っていた「蒸気の温熱シート」だった。金属探知機めっちゃ反応してるし、若くて無知な警備員たちみんな「この一見温厚そうな東洋人男性の左肩におかしな反応が」「ワッ、熱いぞ! ほら、触ってみろ!」「おお、衣服の下に奇妙な白い極薄のパッドを装着している、なんだこれは、剥がせ! 今すぐ!」と大慌てで、他の客まで騒然、先にくぐって靴履きながら振り返った私だけ瞬時に事態を把握して大爆笑。言われてみれば、使い捨てカイロって、こちらの人はあまり使わないよね。一応英語では「heat pad」と言うそうだが、鉄粉含有発熱体なんか服の下に貼りつけて持ち込もうとしたら、そりゃ爆発物と思われて当然である。公衆の面前で諸肌ひんむかれたオットー氏、覿面に弱っていた。乙女だからな。
今回もまた「夫の出張で貯まった家族マイルを利用しておJAL様に乗る」のだが、昨年は11月に乗って12月に帰り、今年は1月に乗って2月に帰るので、つまり、『スカイワード』のみんな大好き浅田次郎連載「つばさよつばさ」が、四回連続で読めてしまう……! これはさすがに我ながらブルジョワ旅すぎるのではないか……と震えつつ、前号の記憶が鮮明なうちに持ち主不明の革製スーツケースの話やら「ティファニーで朝食を」の話やらを読み、いたく豊かな気持ちになる。なお松浦弥太郎の連載は四号連続で読んでも毎号必ず「おい、これユニクロから莫大な広告料もらって、JALから膨大な原稿料もらって、その上まさか『服にまつわる私小説』みたいな書籍化して印税まで発生させるつもり!? すげーなおい、やっぱ発想が違うよね弥太郎は!!」しか感想がない。小西康陽の音楽連載は、空の上だとすぐポチれないのがつらい、か、買わせて。
機内では『キングスマン:ゴールデンサークル』と『バトルオブセクシーズ』を観る。どちらも素晴らしい映画なのでおすすめです。どうでもいいんだけど、あまりにも書評が苦手な自分に嫌気がさして、数年前に一度アカウント全削除した「MediaMarker」を復活させました。買ったもの、観た映画、読んだ本、ちゃんと記録つけるようにしたい。とか言ってるそばから『スカイワード』は除外。やっぱり雑誌パラパラめくるのなんか読んだうちにカウントしませんよね。腰を据えた読書の時間をとるぞ。
羽田空港に着くと22日夕方。滑走路除雪作業のため到着30分遅れ、と言われて窓の外を見るが、ニューヨークの降雪に慣れきっている私は、さほどの大雪とは思わずにいた。外に出てタクシーを拾い、東京都心へ向かうさなか、事の重大さを思い知る。そう、東京の民は、除雪をしないのだ。ロードヒーティングもないのに、融雪剤を撒かないのだ。そして、今夜は雪が降るかもと言われても、朝、傘を持たずハイヒールで出勤したりするのだ……「真っ白に埋もれた歩道を、軽装でヨチヨチ歩くサラリーマンやOLや高齢者」を見て心底ゾッとする。雪靴、履いてください。宿にチェックインして軽く夕食を摂り、事前に予約を入れていた徒歩圏内のネイルサロンへ行くと客が私しかいない。そりゃそうか。
23日、検便と採尿から始まる38歳の誕生日。今回の帰省の主たる目的は、人間ドック。会社勤めの頃はまだ若かったし定期健康診断で済ませていた。数年前から人間ドックに移行したけれど、今までのは健診の代替みたいなやつで、いわゆるフルコースでの受診は今回が初めて。自分の身体のことなのに「副脾」とか「遊走腎」とか初めて知ったよ。生まれて初めて内視鏡を呑むも、強力な麻酔が効いてスヤ〜と眠っているうちに終わってしまった。というか、MRIや胸部CTでも、別に麻酔はしていないのに薄暗い空間で横になっているだけで心地良くてスヤ〜と眠ってしまう。この時点で精密検査の結果を待つまでもなく健康優良児っぽい。これを書いている2月上旬にはもう結果が出ていて、だいたいA(異常なし)かB(軽度所見)。次のフルコース受診は何年後になるだろうか。
夜は実家に帰省、先日亡くなった伊賀の祖母への香典を渡し、秘技「香典その場返し」として伊賀肉すき焼きをご馳走になる。訃報だけを聞いて神妙な気持ちになっていたのだが、家族でせーので忌引を取得し、曽孫を連れての弾丸関西家族旅行、義務を果たした後はうまいもん食って観光名所回って、ずいぶん楽しかったようだ。故人も浮かばれるであろう。石川禅主演の音楽座ミュージカル『メトロに乗って』TV放送も無事に録画されていたのでDVDで受け取る。超のつく個人主義で互いの領域を侵さない我が家、普段はこうした依頼をしないのがルールだが、今回ばかりは拝み倒してゲットした……我ながら最高の誕生日プレゼントじゃない……?(自画自賛) 定番中の定番、トップスのチョコレートケーキに「38」の蝋燭が立ち(さまざまな意味で重い)、人間ドック直後だというのにべろんべろんに酔っ払い、時差ボケで夫婦二人ぐらんぐらんに船を漕ぎながら、メトロに乗って、宿へ帰投。治安のいい街って素敵ね。
 
24日、新書館の吉野さんと打ち合わせと称して「洋菓子舗ウエスト」でお茶。敏腕漫画編集者から「岡田さんは、漫画は描かないんですか?」と言われたので笑った。買うか、クリスタ……。あとこれは単なる耳寄り情報なんですけど、バレエと韓流とフィギュアスケートとBLでおなじみの新書館が、「その他」カテゴリにおいて洋画DVDの販売を始めたのだそうで、「へえ、どんなジャンルですか?」「平たく言うと、若き日のマッツミケルセンとかです」「御社編集長の模索する趣味と実益、歪みねえな……!!!」というのに大変感銘を受けたので記しておきます。ブツも有難く頂戴したので拝見してから感想など書きます。
午後は「Twiggy」で髪を切る。かかるのは2ヶ月ぶり、次はいつになるかわからないのでなるべくキープしやすい髪型にしてもらう。夜は永世七冠達成のお祝いで羽生善治さんと会食。ワインを飲んでエゾジカを食べる。何を話したかはナイショなのさ。改めましておめでとうございます。
25日、乙女美肌室、世界堂、焼魚定食、歯科健診、読売新聞社大手小町編集部で打ち合わせして、同じ建物の中央公論新社へ顔を出す。軽い気持ちで「『手酌』の元上司にもご挨拶できたら……」と言ったら、新聞社の厳重なセキュリティの都合上、各方面へものすごく手間をかけてしまった。ともかく大変お世話になりました。夜は森内俊之さん&佐藤康光さんの紫綬褒章受章記念パーティ、だがもろもろ雑事を片付けているうちに移動時間的に断念せざるを得なくなる。12月にお目にかかれたからよいか、と思いつつ、トークショー聴きたかったよ……。本や雑貨など買い物。長宗我部で鰹のたたき。カウンターに女一人客で座ったら、全ての皿をハーフで出してくれた。神対応か。未来の自分のためにメモしておく。
26日、午前中はkobeniさんとお茶。海を越えてはるばるやって来て、堺雅人と石川禅と小沢健二とそれぞれのファンコミュニティの話しかしていない。虎屋の羊羹、玉木屋のふりかけ、その他ツボを心得た日本土産を頂戴する。海外在住者へ贈る食品は何がいいか? とわざわざリサーチしてくれたのだそうだ、有難い。基本的に「羊羹、ふりかけ、だしパック」を与えておけば間違いがない。地域によると思うけど、NYは割とスナック菓子は入手できてしまうし、包装の凝ったものや嵩のあるものは、帰国時の荷造りで取り回しに困ったりもするので。あと「便利な文房具」と「小ぶりなコスメ」ですかね、これは自分でも大量に買って帰るんですけど。
午後、担当医の都合で二日制になってしまった人間ドックの後半を済ませる。夜は中村太地新王座と会食。またワインを飲んでまたエゾジカを食べる。一日置きにタイトルホルダーとごはんしてしまった……こっちも何を話したかはナイショ。北海道産か何かの百合根がめちゃくちゃ美味しかった。こんなもの英語圏にはないわな、と辞書を開いたら「lily bulb」と書いてあって、何なの、そのまるで食指をそそられない直訳は。しかしこりゃちょっと贅沢すぎ、前日のパーティーは遠慮して大正解でしたよね、と帰国後いつまでも「1月」のまま壁にかけてある日本将棋連盟カレンダーのみっくん会長に語りかける。
27日、資生堂フォトスタジオで写真を撮る。昼食は油そばのようなもの。GINZA SIXの「蔦屋書店」へ行ったら必要な買い物にやたら時間を奪われてキレる、キレた様子をつぶやいたら、バズる。東京在住の頃に内蔵されていたジャイロコンパスをすっかり失った感じ、と言おうか、一日のうちにもっとあれこれ予定を詰め込めるのにな、と思いつつも、こうやってちょっとしたトラップに嵌まってしまって、あれもしたいこれもしたいと思うToDoリストをまるで消化できない。角川書店(といまだに言ってしまう)の編集者Kさん、二村ヒトシさんと『オトコのカラダはキモチいい』関連、その他、今後の打ち合わせ。帰投、爆睡。
28日、夫のオットー氏(仮名)体調不良につき、鎌倉行きをキャンセルする。沼田元氣伯父とはまた今度。安静にホテル朝食。その後も安静に、本当に何をしていたのかまったく記憶にない一日だった。たぶん、NHKオンデマンドでプルカレーテ版『リチャード三世』を観たのはここ。傑作すぎる。あと、このほどめでたく再入会させていただいた石川禅後援会「Z-Angle」から届いた会報をまとめて受け取り咽び泣きながら読んだのもここ。推しに萌え転がりながら肌ツヤがよくなり、下手な『通販生活』よりいろんな商品を購入したくなるこのシステムすごい、読む麻薬か。みんなで健康になろう。ちなみに届けてくれた人が郵送物の差出人を「ゼット・エンジェル」と読んだね。すなわち天使。
夕方、受け月で本間拓也くんと「MOFi」の三谷匠衡くんと会う。夫のオットー氏(仮名)がちょっとケヴィンスペイシーに似ているという話になり、「そんなん人類を二種類に分けたら私だってロビンライトに激似だわ!」とキレる。本当に惜しい人を亡くしましたよね、死んでないけど……。で、『攻殻機動隊』の次にハリウッド実写映画化すべき日本漫画は? という話になって「そこは『ファイブスター物語』だろ! あと私、『ワールドトリガー』同時上映『あげくの果てのカノン』、というセットもいいと思うんだよね!」など無責任発言を多々。その後、米代恭さんと金城さん、たらればさんと四人で飲む。いったいどういう取り合わせだ、何が目的の会合なんだ、とみなさま不思議に思われるでしょうが、とくに他意はなく、たまに一時帰国をするとスケジュールの都合で二つの宴会が一つにドッキングしたり、一つの宴会が三つに分裂したり、ということが起こるのです、あるある。というわけで、二次会はたらればさんとハトコさんと三人で飲む。たっぷり小室哲哉と永野護の話をした。あと、前世に高僧だったというTwitter民の話を信じるか信じないかとか。婚外恋愛は有罪だがかのんは無罪だみたいな話とか。新連載の、話とか。いやー、これもナイショですね、ナイショ!
29日、朝8時台の新幹線に乗って新大阪経由で宝塚大劇場へ、花組公演『ポーの一族』観劇。素晴らしかったです。ちょっと言葉がない。ただの原作信者なのに、ここまで幸福な気持ちになっていいんだろうか、とさえ思った。そのうち別項目を立てて感想を書く。隣に座った客にちょっと不快な目に遭わされたりもしたのだが、それを差し引いても夢心地のまま、終演と同時にサッと電車に乗って帰京。車中で何があったかとかもよく思い出せない、気がついたら東京に着いていた、これ『レディ・ベス』遠征のときも同じこと書いたな私。東京駅から直行で、夜は新しくなった井雪へ。着々と次世代が育っていた。
30日、「腐女子座談会」の編集Rことひらりささんの新しい職場へ訪ねてランチをごちそうになる。彼女にとっては新しい職場だが、私はじつは以前にも伺ったことがあり、行くととてもよく見知った顔とばったり会ったりして、なんだか不思議な気持ちに。そそくさと移動して、次は金田淳子さんたちと打ち合わせ。「おみやげが!」と言われて渡されたのがカレー沢薫メシアの日めくりと、『HIGH&LOW』シリーズのファンムックだった。仕事の話の五倍くらいの尺を取って「ハイローにも中高年俳優は出ている」という貴重な情報を伝授される。そ、そ、それを先に言え!! おっさんが出てるなら話は別だ、と勢い込んでみたものの、我が家の環境では日本版「Hulu」観られなかったよ……私はいつハイローの民になれるのだろうか。こちらからは「鹿賀丈史が『アカギ』に出ている」「大竹まことの在籍するシティボーイズは三人組なので、実質T・M・Nですよ!!!(※男二人組の性的関係性を意味するBLに対抗して編み出された、男三人組の萌えを指す言葉、特定の人物団体等には関係ない)」という貴重な情報を伝授したところで時間切れ。のち、文藝春秋で武田さんと、こちらは真面目な仕事の打ち合わせ。気持ちが穏やかになる。うまくいくといいな。
夜はジョーリノイエさんを訪ね、鮨と麦焼酎をごちそうになる。ジョーさんと私の馴れ初めを語ると三日三晩では足りないが、早い話、サシのファンミーティングですね。「切手を貼らないファンレターを所属事務所まで徒歩で届けて関係各位を震撼ドン引きさせた中学生ストーカー」が25年後にはこうなる、ということで……自分で書いてて自分が怖いわ……。何が怖いって対象こそ変わりつつ25年後も「美声の男に目が眩むと常軌を逸した行動力を発揮する」という己の本質が全然変わっていない点であるよ。近況報告がてら、時には仕事の話も、と思ったのだが、若き日の無茶苦茶な武勇伝を聞いてるだけで面白くていけない。出てくる出てくる、書けない話。いつも通り、遊んでるだけで時間切れ。
31日、キノノキの担当編集Wさんと打ち合わせ、明月庵と樹の花。この後も何をしていたか記憶がない、宿に戻って帰りの荷造りなどしていただろうか。あちこちに本を抱えていって合間の時間に読んでいると、行く先々でまた紙の書籍をいただく、ということが重なって興味深い。わらしべ長者みたいな気分になる。反対に、どういうわけだか今回は、ミラーレスカメラをほとんど持ち歩かなかった。写真を撮りたくないわけではないのだけど、本を読んでいる時間のほうが長かった。書店もあちこち覗いてみたのだが、リアル書店のいったいどこに自分の新刊が置かれるのか、まるでイメージが湧かない。最近はKindleで電子書籍をポチッてばかりなのだから当然である。しかし、ほんの数年前まで、企画に悩んだときも私生活に行き詰まったときも、本屋にさえ行けば解決策が見つかると、そんな暮らしをしていたはずなのにな。あっという間に変わってしまったな。件の「蔦屋書店」ショックもまだまだ抜けず、新しく本を書くという行為、何か途方も無い世間からズレたことをしようとしているんじゃないかと錯覚してはそれを振り切る。
夜はマームとジプシー&川上未映子「みえるわ」@渋谷WWW、初日。これまた本当にとても良くて、二年半ぶりに観たマーム、いろいろ込み上げてしまった。生着替えと、第四の壁と、まっすぐ届く音と、まるで翻訳文学のような再演。また書くね。打ち上げで手持ちの『オカキモチ』を献本し尽くし、藤田くんに「今なら刺されても大丈夫」と言われたのが可笑しかった。焼肉食べてカラオケ行って深夜にべろんべろんで帰宅。気がつくとずっと肉を焼き続けている私。音声をオフにして一人静かにエロい映像を撮り続けている森さん。ちょっと信じられないくらい歌が上手い斎藤さん。未映子さんがジムで一曲目に何聴いて気分アゲるか、という話。誕生日の晩にワイングラスを割ってしまったのを思い出す光景。私がいない間も東京はずっと続いていて、今夜も充さんの手元のビールはちょっと目を離した隙に瞬殺されている。からげたドレスの裾、上下するジッパー、内側から発光する雪螢。なんだこの喜ばしい気持ちは。
1日、二日酔いに苦しみながらもつつがなく帰国。そういえば取り置きまで頼んでいたのに穂村さんと名久井さんの本を買いそびれた、と気づいたのは空港で。帰りの機内で観たのは『スリービルボード』、あとはずっと寝ていた。そこから一週間以上ずっと時差ボケに苦しむことになる。ほとんどめったに家から出ずに、東京の電源をオンにするのは一瞬で、オフにするのは大変で、でもだから遠くから眺める渦中にいてはわからないあの光が綺麗なのよね、と考えたりする。同じような感傷が、時差ボケに苦しみながら一気見した『マスターオブゼロ』の中ではニューヨークを舞台に描かれていた。日がなカウチでドラマ観る気力しかない……いや、これ優雅に聞こえるけど本当に苦しんでいるんですよ! 翌日からスッキリ元気なときもあるのに、今回は気圧のせいもあるのだろうか、今まだ出力40%くらい。
最近「短く要点を書く」ことを求められてそればかりしていたので、今回は「10000字くらいだらだら長く書いてあるのだが、中身がないから、誰も読まない」というのを目指してみた。といってもまだ8000字もない。前回は「何をしに来たんですか?」「なんにも」という会話を繰り返していた。今回は「元気で生きてる?」「ぼちぼち」という会話が何度も何度も続いた気がする。実際に言われた回数じゃなくて、自分自身の胸に刺さった回数なんでしょうな、こういうものは。