石川禅が第51回菊田一夫演劇賞を受賞した。誰って? 私の推しです。大変おめでたいニュースなので盛大に祝いたい。4月23日に発表され、6月10日には授賞式があり、6月21日には都内でファンクラブ会員向けのイベントも開催されるのだが、どちらにも参加が叶わないインターネット引きこもりのオタクは、記念に改めて推しの紹介記事を書く。
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主にはミュージカルの舞台を中心に活躍する舞台俳優である。2026年現在、日本国内の大劇場でかかる商業演劇、とくにグランドミュージカルに通い詰める観客で、その名を知らぬ者は無い。新作公演の情報解禁に名前が挙がるたび、「え、禅さんも出るんだ、豪華キャストだね〜!」と演目の品格や話題性がワンランク上がるような、超一流の実力派スター俳優だ。
ところがアイドルやタレントなどと違って、世間一般的な知名度は高いとは言い難い。ここのギャップが凄まじい。「鹿賀丈史や市村正親などの一世代下にあたるリビングレジェンドです」「石丸幹二はわかりますか、彼の主演作で親友やライバル役など助演しています」「帝国劇場の出演本数なら井上芳雄や森公美子などと同等だけど、テレビには滅多に出ないんですよね〜」と説明を重ねる。しかし、劇場に足を運ばない人たちには、どれだけ言葉を尽くしても、石川禅の輝きがまるで伝わらない。やきもきするけど、それこそが我が推しの最も崇高なところでもある。
とにかくその目で観てほしい。きっと生涯死ぬまで舞台に立ち続けるであろう石川禅の、その姿を初めて生で観てびっくりしてほしい。そして「こんな人がいたのか!」と興味を抱いて、検索窓にその名を打ち込んで辿り着いた先で、少しでも多くの情報が得られるとよい。そう思ってこの文章を書いている。おや、あなたも惚れ込みましたか。私も好きです。ずっと大好きなんです。同担大歓迎ですよ。
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石川禅は1964年生まれ、今月22日で62歳になる。もともとは青年座出身で、在団中の1992年、日本初演『ミス・サイゴン』のオーディションを経てミュージカルデビューを果たした。みずからルーツは新劇にあると語り、演技力に裏打ちされた歌唱力、表現力に定評がある。音楽大学の声楽科出身がひしめくミュージカル界において、譜面が読めず、歌は長らく独学だったという、異色の経歴の持ち主だ。現在はホリプロブッキングエージェンシーに所属している。
過去には『回転木馬』、『メトロに乗って』といった主演作もあるものの、よく知られているのは『レ・ミゼラブル』のマリウス役やジャベール役、『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフ役など、大人気演目の劇中でとびきりの難役を熱演する仕事ぶりのほうだろう。いわゆる叩き上げ、つまりアンサンブル級からプリンシパル級へと昇格した稀有な例で、数多の名作のクオリティを底支えしてきた超一流のバイプレイヤーだ。近年は『ハウトゥサクシード』、『キングアーサー』、『ミセン』など、青年主人公と対峙するラスボスのようなトメ役、一座の最年長を務めることも増えた。
個人的には、『パレード』、『タイタニック』、『カムフロムアウェイ』など、社会派の群像劇でくっきり爪痕を残す推しが大好きだ。主役でなくとも、ソロがなくとも、「あの作品といえば禅さんが忘れられない」「あの場面だけでもチケット代の元が取れた」と語り種になるような、劇場空間を支配する力が圧倒的である。TBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』やNHK連続テレビ小説『らんまん』など、テレビドラマの出演経験もあるとはいえ、映像越しではなかなかあの「生身」の存在感が活かされないのを残念に思う。
声優としても長年にわたり実績を誇っている。30代のときアニメーション映画『アナスタシア』で青年ディミトリ役の日本語吹替を担当、その十数年後に同作を舞台化した『アナスタシア』日本初演では、ディミトリの年長の相棒ヴラド役を務めた。そして還暦記念コンサートでは、衰えぬ美声で舞台版ディミトリの持ち歌を披露。「時間操作系能力者か」「今からでも若いほうのオーディションに受かるのでは」と会場一千人の観客をザワつかせた。『ダーウィン・ヤング 悪の起源』では、70代の老人役に起用されて同じ人物の16歳当時の回想もそのまま演じるという、オリジナル韓国版でも無かった日本独自演出を当てられたりもしている。
実年齢相応の渋い中高年の役のみならず、声音一つで老いも若きも男も女も歌い分けられる、この「声の芝居」の巧みさこそが、特筆すべき魅力である。2015年から回を重ねる単独公演「石川禅ソロコンサート」ではこの他にも、『エリザベート』の男女デュエット曲「夜のボート」を一人二役で歌い上げる、『ジキル&ハイド』のタイトルロールついでに相手役の女性ソロもメドレーに盛り込む、16歳の人魚姫になりきった『リトルマーメイド』のナンバーに再演リクエストが殺到する、などなど、普段の活躍を凌駕する逸話に事欠かない。できるからやる。一人で全部やる。やりたい放題である。
劇場でこそ最大限発揮されるこのほとばしる才能を、演劇の神様(とガメツい興行主)が掴んで離さない。つねに年間複数本の舞台に出演し、何かの公演期間中でなければどれかの稽古期間中、コロナ禍ロックダウン期間中を除いて長期休暇を取るのを見たことがない。私が人生をサボる日も、推しはずっと板の上に立って芝居を続けている。そう想うだけで背筋が伸びる、驚異的な演劇人である。
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そんな私の推し俳優、みんな大好き石川禅、日本ミュージカル界の至宝、ミュージカルに世界選手権があれば日本代表団の精神的支柱、宇宙に誇る地球規模の重要無形文化財が、現在に至るまで「無冠の帝王」であったことに、続々と驚きの声があがる2026年の初夏である。「エッ、菊田賞ごとき、まだ獲ってなかったの、なんで!?」とどよめく観劇仲間からの連絡に、「遅い」「遅すぎる」「トニー賞方式の選考基準なら毎年連続受賞してる」「過小評価されすぎ」「彼奴等の目は節穴」「人類は愚か」「ついでに世界遺産に認定しろ」と呪いの相槌を打ち返すのに忙しい。
それでも返信の最後は必ず、「今期の受賞には、長年のファンとしても大いに納得する」と締め括っていた。受賞理由となった2025/2026シーズンの四作品は以下の通り。すべてミュージカルで、二つは続演続投の当たり役、一つは新作再演の初役、もう一つは続演の役替わり初役。共通するのは、「下手すると主演を喰ってしまうほどの、物語の進行に欠かせない、作品そのものを体現するような」役である。なんという惑星直列!
- 『ダンス・オブ・ヴァンパイア』アブロンシウス教授役
- 『ジェイミー』ヒューゴ/ ロコ・シャネル役
- 『サムシング・ロッテン!』ノストラダムス役
- 『レイディ・ベス』ロジャー・アスカム役

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』では、「欲望」を司る吸血鬼クロロック伯爵(山口祐一郎)の妖艶な美と対をなし、全人類の「理性」を代表するコミカルかつ超人的なアブロンシウス教授を演じた。打倒ヴァンパイアに燃える白髪に白髭の老学者だが、2009年に初めて演じた際には中の人はまだ40代前半。以来、衰えぬ若さと安定の老け演技が好評を博し、還暦過ぎて五度目の続投である。最新2025年版では新たにダブルキャスト制が敷かれたが、TdVといえば長らく祐様&禅ちゃん二枚看板が不動の人気を誇る。節目の年の受賞は当然だろう。
2021年日本初演の『ジェイミー』では、進路に悩む男子高校生ジェイミーを教え導く伝説のドラァグクイーン、ロコ・シャネル様が当たり役となった。世を忍ぶ仮の姿であるヒューゴからのドラマチックな早替わりは、長年「ミラクルメイク」と称賛を浴びてきた舞台化粧テクニックと表現力の集大成とも言える。単に女装が美しいだけではない。『我は、おばさん』著者として言わせてもらえば、これほど見事に「おばさん」を、つまり、迷える若者に愛を与えて未来を指し示す「父でも母でもない」大人の姿を演じられるシス男性は、そう居ない。古今東西、性的少数者を扱うミュージカルは多々あれど、日本のロコ様は石川禅であるべきなのだ。絶対に。
ミュージカル発祥の「偽史」を描くパロディ満載のコメディ『サムシング・ロッテン!』では、その中核たるビッグナンバー「A Musical」をものする予言者の役。大衆にウケる興行をかけて何が悪い! と居直るブロードウェイ謹製エンタメ讃歌で、速報を聞いた際には「本物のシェイクスピアや本物の『レ・ミゼラブル』に出てる俳優にやらせる役じゃないだろ……」とドン引きしたものの、幕が開いて実際この目で観れば簡単に手のひらを返し、抱腹絶倒のち多幸感に包まれて大号泣。「日本ミュージカル界に石川禅がいてくれてよかった〜!!」と何度でも拍手喝采ショーストップする見事なクオリティであった。
『レイディ・ベス』は英国女王エリザベス一世の少女時代を描く歴史物で、2014年に世界初演された『レディ・ベス』の改訂版である。旧版ではベスの暗殺を目論む宿敵・ガーディナーを演じた石川禅が、新版ではベスの最大の理解者である家庭教師・アスカム先生に転生。あいにく新版を未見の私は、今なお「中の人の振れ幅どうなってんの!?」と戸惑いしかないが、キャスト一新により新たに演目にハマッた若手俳優ファンたちが「イケメンだらけの作品だが結局、禅さんが一番メロい!」と続々と沼に叩き落とされる様子をホクホク眺めている。それはそうだろうよ。
四者四様、どれもが新規性と円熟味を併せ持ち、カッコよくてかわいくて笑えて泣ける、石川禅にしか成し得ないキャラクター造形と言える。大事なことなのでもう一度言おう。四役いずれも、「下手すると主演を喰ってしまうほどの、物語の進行に欠かせない、作品そのものを体現するような」役ばかりである。各作品がクリームソーダで、主演俳優がトップのバニラアイスならば、石川禅が真っ赤なチェリー。主人公ではないが、主役以上に重要。そんな仕事ぶりである。
「いくら禅ちゃんでもここまでのロイヤルストレートフラッシュが揃うことは滅多に無いよ!」と書いてから、ロイヤルストレートフラッシュは札五枚で作る役だと気づいたが、ならばこの四作に、2025年3月の新国立劇場中劇場での二回公演を大入満員にした「石川禅6thソロコンサート」を加えてもよいだろう。選考委員が「いま授賞させんで、いつ授賞させるんだ」と感じるタイミングがちょうど今年だったことには、まったく異論の余地がない。
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界隈で推しの名を告げると、「禅さん!」「お目が高い!」「私も大好きです!」「めっちゃいい人!」「共演させていただいた自担が心の師と仰いでます!」などと会話が弾む。着実で堅牢な芸歴、重鎮とは思えぬ軽やかな物腰、あらゆる取引先の信頼厚く、先輩からはかわいがられ、後輩からは慕われて、私生活の不祥事やSNS炎上もなく、アンチもまったく見かけない。シアタービジネスの表でも裏でも、高く評価され、こよなく愛されている。この人望は確かだろう。
私がこの人を「推し」に定めたのは2011年5月11日、帝国劇場『レ・ミゼラブル』がきっかけだった。以来15年、ただの一度も幻滅したことがない。ずっと好き。ずっと目が離せない。まったく飽きない。普段はニューヨークで暮らしているのだけれど、ブロードウェイにだってこんなに継続的にこれだけの情熱をもって推せる役者はそうそういない。千の仮面を持つ北島マヤのような推しに月影千草よろしく「恐ろしい子!」と何度でも白目を剥き、速水真澄よろしくありったけの紫のバラを贈り続けたい。

奇しくも先週末、我が街では第79回トニー賞受賞式が生中継された直後。演劇とミュージカルの祭典、オープニングアクト「Leading Lady Marmalade」で高らかに歌われた「We don’t do it for the awards!(賞が欲しくてやってるんじゃないぜ)」という言葉を、何度も反芻している。きっと禅ちゃんだって受賞スピーチで同じようなことを言うんでしょうよ、今から想像に難くない。でも、それでも、客席の我々は「You deserve it(あなたにはその価値がある)」と、しつこく言って言いすぎることもないのだ。SAY YES
(符牒)。
石川禅が日本演劇界に欠かせない素晴らしい舞台俳優であること、劇場で一度でも観たことがある人ならば、誰もが知っている。だけどまだまだ足りないので、もっとずっと多くの人たちに、そのことを知ってもらいたい。是非ともこの看板を目がけて劇場へ足を運んでいただきたい。今回の受賞を機に、そんな新しいうねりが生まれるとよいなと願っている。やっと時代が追いついた。本当に本当におめでとうございます! この人です→ @zenishikawa