『我は、おばさん』

女の人生、中間地点がけっこう面白い。

『更級日記』から『マッドマックス』まで、古今東西の文学・エンタメ作品をひもとき、ポジティブに「おばさん」を再定義する、カルチャー・エッセイ。ジェーン・スーさんとの特別対談も収録!
2nd Edition
書題
Title
我は、おばさん
Becoming Obasan
著者
Author
岡田育
Iku Okada
発売日
Date of Issue
2024/09/20
出版社
Publisher
集英社
Shueisha
仕様
Format
文庫
Bunkobon Soft Cover
価格
Price
825円(税込)
825 JPY including tax
アートワーク
Cover Artwork
Margaret Glinski-Oomen
装幀
Book Design
坂野公一(welle design)
Kouichi Sakano
ISBN978-4-08-744699-9
版元ドットコム
Purchasing Portal
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784087446999
1st Edition
書題
Title
我は、おばさん
Becoming Obasan
著者
Author
岡田育
Iku Okada
発売日
Date of Issue
2021/06/04
出版社
Publisher
集英社
Shueisha
仕様
Format
四六判ソフトカバー
Tankobon Soft Cover
価格
Price
1600円+税
1600 JPY + tax
装幀
Book Design
鈴木千佳子
Chikako Suzuki
ISBN978-4-08-771747-1
版元ドットコム
Purchasing Portal
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784087717471

『我は、おばさん』は、文芸誌「すばる」での同名連載(2019〜2020年)をまとめた単行本です。40歳前後から「おばさん」を自称し始めた著者が、行く先々で激しい抵抗に遭ったことが執筆のきっかけでした。「まだ早いでしょ」と笑われ、「自分を卑下しちゃいけないよ」と諭され、「私は絶対に名乗りたくないわ」と拒まれて、日本語圏においてこの言葉がすっかり蔑称となっていることに気づきました。

辞書の上では「おばさん」には「中年の女性」という意味しかありません。ミドルエイジは本来ならば人生のド真ん中。幼少期や老年期と比べて、最も自由で、最も面白い時間のはずです。甥や姪が生まれ、年下の友人を作り、社会的責任が重くなるぶん、できることも増えてくる。男だったら「おじさん」を名乗ってダンディな渋さを磨いてもよい年齢です。なのに、どうして女性は「おばさん」を合言葉に連帯し、このお年頃を好きに謳歌することが難しいのでしょうか。

国民的美少女とかわいいおばあちゃんしか愛でられない国で、家にあてがわれ、苗字を奪われて、最低三人産んだ聖母でなければ生産性の低さを詰られる、用済みになったら姨捨山に棄てられる、それが当たり前とされる国で、「その他」の生き方を選んだ私たちは、そろそろこの「おばさん」という呼び名を、自分たちの手に取り戻さなければいけません。つよく、やさしく、しぶとく、自由に。中年期を生きるために、私たちには、この名乗りが必要なのです。

お手本にしたい憧れの年配の女性、お世話になった同性の大先輩はたくさんいるはずなのに、彼女たちを「おばさん」と呼んでいいものか、ついためらってしまう。そんな人にこそ手に取っていただきたい本です。あるいは早々にエイジズムに囚われて、老けるのが怖くて仕方ないと怯えているような若い世代にも、予習がてら読んでもらいたい本です。あなたの人生をここまで支え導いてくれた、あなたにアメちゃんを差し出してくれた、大好きな「おばさん」は、誰ですか? みんなで彼女たちの話をしましょう。

こんなにおばさんがたくさん出てきて、ここまで深掘りしたものは今までなかったと思う。

ジェーン・スー(コラムニスト)

多くの女性が抱えてきたモヤモヤを、これでもかというほど明確に言語化してくれる本書は、どこから読んでもスカッとすること請け合いだ。40~50代にとって懐かしい作品や人物がたくさん登場するので、カルチャー史としても楽しめる。

BOOKウォッチ

掻き抱くようにして読んだ。背筋が伸びる。

末次由紀

岡田育の文章は、着色されているかのように、すぐにわかる。まるで頭上からレンガが落下してきたように、どすんと音がしそう。
#育のレンガが落下

村井理子

差別語に堕ちた私たちの呼び名を救済する、圧巻の文化考察!

山内マリコ(作家)

「おばさん」という言葉に付着している侮蔑の意味合いと向き合いつつ、さっぱりと負のイメージを取り除いて、小説や漫画、映画からバラエティー豊かな中年女性像を提示してくれる。

サイゾーウーマン

緻密にロジックを積み上げていく学術論文のようでありながら、大衆に向けた刺激的なアジテーションのようでもあり、とにかく熱量が凄まじい。

清田隆之

はじめに

Preface

 よき娘であるように、と教え諭されて我々は育った。男たちに負けず勉学に勤しみ、家庭では大人たちを助けよ。どこへ出しても恥ずかしくない、よき姉であれ、よき妹であれ。花の命を恋と生き、時代に抱かれて夢を孕み、しかし、どんな朝も少しだけ早く眠りから目醒めよ。己が女であることを、ゆめゆめ忘れてはならない。いずれ来るべき日には、よき妻となれるように、よき母となれるように、よき祖母となれるように。私たち女の子の周囲には、つねにそんな言葉があふれていた。

 ところが「おばさん」になる方法については、誰も教えてくれなかった。短いようで案外長い女の一生のうち、最も長く呼び掛けられるその称号について、見聞きし、読み解き、考える機会は、極めて限られていた。奪われていた、とさえ言えるのかもしれない。

 おばさんという言葉の意味は「中年の女性」である。明確な年齢制限があるわけではない。きょうだいのところに甥や姪が生まれたら、女は何歳でも「伯母さん」「叔母さん」と呼ばれる。つまり、おばさんか否かを決めるのは年齢ではなく、下世代の有無だと言える。街中で見知らぬ人から「小母さん」と呼ばれる場合もある。こちらについては、呼んだ人にとって母でも妻でも娘でもなく、少女にも老婆にも見えない、「よその女性」「その他の女性」といったニュアンスだ。

 女が中年にさしかかると、ほぼ自動的におばさんと呼ばれるようになる。けれども、長く生きた女が皆それだけでおばさんになれるわけでもない。そのあたりが難しい。たとえば、私のことをおばさんだなんて呼ぶのはやめてちょうだい、と言う女性たちがいる。自分を(まだ)おばさんだとは認識していないので、他称のほうを変えてもらいたがるというわけだ。伯母か叔母か小母か、という自動的な振り分けと、自分自身の「心構え」とが掛け合わさって初めて、人は「おばさん的なる人生」を歩むことになる。そのタイミングは、早ければ十代、時代背景によっては二十代、人によっては七十代以上まで訪れなかったりする。

 さしたる理由はないけれど、私はだいたい四十歳あたりを境に「おばさん」を名乗ることにした。甥が生まれ、姪が生まれ、自分では子供を持つ予定のない私は、よその子供に話しかけるときなど「おばさんに御用かしら?」なんて自称している。私たちは自分の意思で好きなときにおばさんに「なる」ことができる。「絶対ならない!」と決めて永遠にお嬢さんとして生きるのと同じくらい自由に、「絶対なる!」と決めて「我は、おばさん」と宣言することもできるのだ。

 おばさんとは、女として女のまま、みずからの加齢を引き受けた者。護られる側から護る側へ、与えられる側から与える側へと、一歩階段を上がった者。世代を超えて縦方向へ脈々と受け継がれるシスターフッド(女性同士の連帯)の中間地点に位置して、悪しき過去を断ち切り、次世代へ未来を紡ぐ力を授ける者である。カッコよくて頼もしくて、社会に必要とされ、みんなから憧れられる存在であっても全然おかしくない。それがどうしてこんなにネガティブな響きを持つようになってしまったのだろうか。少なくない女性が「呼ばれたくない」「なりたくない」と怯えるほどに。

 誰がお手本で、誰が反面教師なのか。小説の中に、漫画の中に、映画の中に、歌詞の中に、街中に、堂々たる素敵な先輩おばさんの姿を見つけるたび、私は少しずつ心強さを取り戻す。こんな中高年になりたい、と感じられる女性像を見つけて増やしていくと、世界の解像度が上がり、暗黒のように思われていた人生後半戦を、ポジティブに捉えて進んでいくこともできるようになる。「おばさん」的人生のスタート地点に立ち、私なりに考えた、よりよき「おばさん」になるための条件が、やっと掴めたような、またはぐらかされてしまったような。まだまだ迷子の状態で、極めて主観的な物言いになってしまうから、学術論文を書くようには結論が出せない。  

 こんなにたくさん息づいていて、かなりの存在感もあるというのに、まるで居ないもののように扱われている群体、そして個体。本書はそんな古今東西の「おばさん」たちについての随想であり、これから「おばさん」の時代を生きる筆者の所信表明である。読んだあなたの「おばさん」を見る目が、誰かを「おばさん」と呼ぶときの心持ちが、ちょっと変わるといいなと思っている。あるいは今後、あなたが「おばさん」になるとき、先を往く数多の女性たちの歩みと同じようにこの本も、迷子の道標、暗闇の小さな灯り、ポケットの中の非常食、このまま進むぞと確信を持つ手助けの一つになれたなら、それほど嬉しいことはない。

集英社のサイトにて、さらなる試し読みコンテンツが掲載中です。

関連投稿

Archives

※本書に関するお問い合わせ、取材依頼等は、集英社へご連絡ください。
For inquiries of the book will be answered by Shueisha Inc .