2023-04-10 / 復活できない春もある

認知行動日記について訊かれたので、少し。基本的にはメモアプリにチェックリストを作って潰すだけ。毎日同じテンプレートに加えて、前日からの仕事と遊びの積み残しをコピー&ペーストして長大な「その日できればやりたいこと」一覧を作成する。日によって時間帯によって、できるできないの浮き沈みが激しい私には、強制力の強い既存アプリのプログラムより、ゆるい自作が向いていたようだ。

テンプレートは、歯を磨く顔を洗う服を着替える風呂に入る洗濯物をたたむ、など毎日のごくごく簡単な(しかし鬱の初期症状にはそれこそが困難にもなると経験済みの)動作ばかり。リスト化すると、やるべきやりたくないことも、やりたかったことのように錯覚できる。潰せなかった項目より潰した項目の達成感で気分が上向きになる。積み残しのハードルが低いぶん、やりたくないことは(やるべきことでも)永遠に積み残せてしまうのが問題なんだけど。まぁ必要なのは「自分を上手に騙す方法」であって、マインドフルネス/リラクゼーション系プログラムは(私は)そんなに要らんのだとわかってきた。瞑想より合気道がいいですよ。

作り始めの頃は「XXX個あるすべての○○を全部□□にする!」といった壮大なチェック項目を作っては、数ヶ月経っても一度もチェックできず、その作業に着手すらできずに、思い悩んでいた。しかし無理矢理にでも継続すると次第に自分自身への命令文の書き方も会得してくる。今は「一日一個は○○を□□にする」と書いて可能な限りチェックを潰し、だいたいXXX日後にはいつの間にか目的を達成している、というゆるやかなゴール設定ができるようになった。「仕事机の周辺を完璧にきれいに物の無い状態にする」というタスクは大掃除をせねば終わらないが、「仕事机の周辺で使った物を元の位置に戻す」という項目ならば、夜寝る前にペンをペン立てに挿すだけでも達成できる。そして「あれ、今日はやることがない」と気づいたりもする。つまりそれは一日きれいな机で過ごせていたということ。

私は「毎日決められた分量の薬を服用する」といった行動が大の苦手で、挫折しかしたことがない。これさえなければ過去にかかった病気全部もっとずっと早く治せたと思うし、何か大病したらこのせいで死ぬんじゃないかと今から不安で仕方ない。ただ、最近はリスト式日記のおかげで毎日せっせと市販のビタミン剤を服用できている。最初に書いた命令文は「消費期限の切れたサプリを瓶ごと捨てる」で、何週間も達成できずにいた。でも一日24時間のうちどこかで数錠を飲んで「サプリを飲む」チェックを潰すことならできるし、どうせ効能も疑わしい(※厚生労働省のサイト参照)のだから消費期限なんか(医薬品ほどは)気にならないし、飲み忘れても死なないし、月に百錠ペースで消費すればいつかはなくなるし、空いた瓶は空き瓶になった途端に捨てることができた。そう、これがしたかったんだよ。プラシーボ以上の効果はなくとも毎日のチェック項目としては「使える」代物なんだな、サプリ。みんなの健康の秘訣も、含有成分じゃなくて習慣化のほうが本体だよ、きっと。

また、私は「毎日XX時XX分になったら△△をする」といった時間割も大の苦手であることが判明した。代わりに、「X日間のうちにX回は△△する」くらいの長いストロークならば達成可能性が格段に上がることもわかった。毎朝7時に必ず運動する、ではダメでも、昇級試験までは月10回ペースで道場に行く、などと決めれば、勢い余って15回も通えたりする。Duolingoも「streak(皆勤賞チャレンジ)スコアは気にしない」と考えた途端ずいぶん気楽に起動できる。そりゃそうよ。小学校上がった6歳当時から「皆勤賞表彰で喜ぶ奴は管理教育の奴隷」とか言ってた子供が、四十過ぎていきなり改心するわけねーのよ。できることの少ない人間には、毎日「やれることはやった」と思って就寝できる心の平安のほうがよっぽど大事。

さて、これにて本日のテンプレート項目「一日一つは公開日記を書く」+イレギュラータスク項目「認知行動療法について詳しく教えてくださいという質問に(ド素人が他人の健康に害を及ぼさない程度に)応える」が同時に終了。不要な人には不要なものだろうし、その筋の専門家ならもっと効率よく報酬系を刺激できるのだろう。後のことは私ではなく医療機関に相談してください。あと、こういう話だけで一冊本書いてるので買って読んでください。↓

40歳までにコレをやめる

What I’ve Quit Before 40
2019 _ JP

4月9日は日曜日、完全に日付を勘違いして取ってしまったチケットを手に『猟銃 THE HUNTING GUN』観劇。朝からおめかししておでかけして優雅にブランチを摂って、終わったら普段は行かないエリアまで足を伸ばしてお茶でもしながら感想を書いて、夕暮れのハイラインを散歩して帰るのもいいわね……と思っていたのは休日午後を想定していたからで、日曜日だけどまるで予定が違うので文字通りの直行直帰となる。感想はまた書きます。中谷美紀はマジで中谷美紀だった。久しぶりに観たけど全然ブレないな。

会場のBaryshnikov Arts Centerは37丁目、リンカーントンネル出入口の真上にあたる場所で、最近ちょっと運動不足なので徒歩で向かう。スプリングコートを着たり脱いだりしながら小一時間、ぽかぽかよく晴れた、けどまだちょっと寒い、結構なペースで競歩しても汗をかかない春の陽気の中をゆく。パステルカラーのダウンジャケットなど着てカラフルなバスケットを持った子供たちとすれ違い、「えっ、先週から過越ってことは今日イースターサンデーじゃん!?」と初めて気づく。毎年思うけど、ハロウィンやサンクスギビングやクリスマスに比べて断然地味な季節行事だ。芝生がないと映えないし、お金持ちの家族はみんな郊外の別荘なぞに集まってエッグハントするんだろう。そこいくとハロウィンは街の空気がゴッサムであればあるほど装飾が絵になるので、この街に向いてるよね、と頷きながら、ガラス壁が盛大に割られて歩道いっぱいに破片が飛び散り、中に貼られた広告ポスターがべろんと飛び出しているバス停の横を通り過ぎる。この街の公道に公共交通機関が設置するのは強化ガラス壁、割られても破片が丸く粉々になる。割れた酒瓶が放置される通りは治安が悪いが、バス停が割れてるだけなら治安がよい(麻痺)。

夕飯は我が家の1Aveの食堂ことUpStateで、エビフライ、ウニパスタ、本日の魚。帰り道、Kindred跡地の前を通ったら内装工事の灯りが点いていた。どこかが居抜きで入るのかもしれない。私が隣店のオーナーなら買い取って拡張するよなぁと思う(実際Kindredの車道テラス席は真っ先に撤去されて今は隣店の車道テラス席になっている)。我が家のヘルズキッチンの食堂ことCasellulaが今冬、留守中に閉店してしまっており、昨年9月にVin Sur Vingtのオーナーに買われてからスタッフ解雇があって現在は係争中とのこと。双方言い分はあるだろうが、少なくとも記事を読んだ限り今後Vin Sur Vingtには行きたくなくなるわな。Casellulaみたいな店、一度失われたら二度と誰にも取り戻せない。Vin Sur Vingtも悪い店じゃないけど絶対に代わりにはならない。コロナ禍を生き残ったのにこの結末は悲しすぎる。もう喪に服して禁酒しようかなぁ、と言いながら自棄酒を呷る。