ここ数日で立て続けに遭ったちょっとイヤなことについて(特定可能なほどの正確性は重要でないと考え、詳細を少しぼかして面白おかしく)まとめて書く。
一つは、「厳正なるリサーチの結果、あなたは某番組の出演者に選ばれました! 収録日はX月X日です」という連絡。「往復交通費が出るなら検討します」と返信したら「交通費が出ない企画なのであなたを出演候補者から外しました! また呼びます!」と折り返しが来た。書き送った人間は最後まで私の居住地について何も調べてはおらず、ただ単にめんどくさい奴だと感じて切っただけだろうが、だったら最初から「素性を調べた」なんて言わなければいいのに、と思う。
一つは、献本などの送付先住所を教えると、時としてそれが関係企業の全部署で共有されること。手間が省けて便利な反面、ある種の企業からはいきなり新刊や商品サンプルがどしどし届いたり、黙って受け取ると次の2個3個と続いたりするので厄介だ。問題は送料である。日本から大きな箱が届き、開けてみると定価数百円の(発売日に電子書籍を購入済の)コミックスの途中巻が一つきり入っている。伝票を見ると4000円近い送料が計上されており、会ったことのない誰かがそれに承認の署名をしている。完結まで続刊が届くのだろうか。そして後日、まったく同じ企業体に属する知った相手からこう言われる。「あなたの既刊を重版するにはコストが見合いません、うちも慈善事業じゃないんですよ」。違うんかい。
一つは、「Aの応援団長・鈴木はなこ(仮名)」といった活動名のインフルエンサーを見かけたこと。そのAというニッチな分野には「鈴木花子(仮名)」という実績ある先達がおり、存命で大きな仕事もどしどし手がけている。後発のほうは同時代に大先生がいると当然知った上で、ギリギリ怒られない紛らわしさの屋号をシャレと言い張り、かつ、「Aの魅力を伝えたい、Aに関するお仕事募集中です!」と営業をかけている。アランケイと安蘭けい、香山リカと香山リカならよくても、アイドルの岡田奈々とアイドルの岡田奈々、兵庫の西村しのぶと兵庫の西村しのぶはダメだろ、というあの話の最新版である。
似たような怒りがふつふつ沸いてきて、気を鎮めるために本稿を書いている。基本的にどれも「考え無し」が起こした行動で、かつ、本人はその振る舞いを熟慮の結果かのように提示し、そこに発生する不毛さで、私の心を逆撫でしている。常識があれば相手がどこ在住かは調べて連絡してくるし、経費カツカツの弱小出版社ほど献本の儀を厳かに神聖に捉えつつ別の涙ぐましい方法で渡してくるし、特定分野で成果を上げる人は己の名乗りと活動形態にもっとずっと強い責任感を持つ。
一つ目はメールの返信のために私の時間が実際に削られた。二つ目は無駄なコストが巡り巡って私の予算や純益を削るかもしれない。三つ目はとくに被害は無いように見えるが、今後、日本国内のA領域で駆け出しの「鈴木はなこ(仮名)」がそこそこ重宝される未来が透けて見え、その理由が「大先生の鈴木花子と違ってギャラも安くて交通費なんかも出さなくて済むし、サンプルをバラ撒けば必ず食いついて勝手にプロモーションSNS動画とか作ってバズらせてくれるから」だったりすることが、秒で想像できてしまう。本当によくない。
「邪悪なものから距離を置く」をテーマにTwitter断ちを始めて一週間以上が過ぎた。毎日Twitterを見には行くし、行けば面白い話題が流れていて、つい習い性で自分も言及したくなるのをグッと堪える。宣伝告知以外は新規投稿しない。みんながいつまでもTwitterを訪れ続ける動機となるような「そこでしか読めない何か新しいこと」は書かない。そう決めると、タイムラインがすりガラス一枚隔てた光景のように感じられる。いつの間にか三つ四つの投稿に一つの頻度でプロモーション広告が挟まれるようになっていたなんて気づきもしなかった。多すぎる。数週間前までの私なら、鈴木はなこ(仮名)を見かけた瞬間に「これはマズいだろ改名しろよ?」と当事者に通知のいく引用RTで凸ってバズッて結果フォロワーも増え、それで何か「正義」を成した気になったかもしれない。でも今は見てるだけ。見て、時間と距離を置いて、すりガラス一枚隔てて、あとで書くだけ。
最近とある大企業から身に覚えのないニュースレターが届く。冒頭に毎回「これは弊社社員が名刺交換した大切な方たちにお送りするものです」とあるので、まぁ東京滞在中に誰かと会ったのか、と読まずに放置していた。しかし年度が変わって日に複数通も届くようになり、さすがにしんどいので配信解除手続きの画面に、名刺記載のメールアドレス(X)を打ち込むと、何度もエラーが出る。確認すると送信先は、このウェブサイトで一般公開しているメールアドレス(Y)だった。つまり私の名前が彼らのメーリングリストに載ったのは、名刺交換ではなく、「SDGsネタとかに食いつきそうな文化人とか集めて」と命じられた末端バイトのコピペノルマ達成の結果であろう。そら来た、四つ目だ。
嘘をつくなよ、と思う。なんでもあけすけに言う必要もないが、あなたがたに対する私の好感度は、もっとずっと高く置くことができたはずなのだ。たとえ考え無しでも、嘘さえつかなければいい。本当によくない。
「岡田さんさー、いくら急にイーロンマスクのこと嫌いになったからって、せっかく数万単位のフォロワーがいて、そのおかげで出版社から本出したりもした影響力ある人間なのに、そのリーチ力をみすみすドブに捨てるなんて、もったいないですよ。ついカッとなってTwitterやめるつもりかなんか知らんけどさ、もっとよくよく『考えて』賢く立ち回らないとー?」と言われた。フォロワーとは自由意志により勝手に私をフォローした人々、ただそれだけであって、私は彼らを顧客として囲い込む名簿は作らない、無いものを有ると水増しもしないし、一括送信の自動化もしない。今までに費やしたコストを回収しようと躍起になって、未来のための大事な物事を切り捨てたりもしない。そして、よくないと思う気持ちのほうが強いから、嘘はつかない。なるべくね。
「TwitterやめてSubstackやらないんですか?」と訊かれたら「えー、ソコが本業でもないのにめんどくさい、ワイがnoteやRevueすら続かなかったの知っとるやろ? 何もしないで寝てる間に投げ銭がじゃぶじゃぶ降ってくる仕組みなら開設しといてやらんでもないわー」と正直に答える。