2024-06-13 / 北欧旅日記(03)オスロ3日目、ヘルシンキ1日目

起きてすぐ荷物をまとめ、チェックアウトを済ませてフロントに荷物を預ける。ここから8日間、三カ国を巡ってまた同じグランドホテルに戻ってくる予定。フライトは夕方なので時間はあるが、ヴィーゲラン公園やムンクゆかりの地などまで遠出するには少々慌ただしい。消去法で、オスロ屈指のオシャレ界隈と噂の、北側にあるグルーネロッカ地区を目指すことにした。

オスロ大聖堂をぐるっとお参りして、中央駅北側のTorgatta近辺を歩く。ビジネスホテルと多国籍の飲食店が並び、口コミ評価の高い日式ラーメン屋もあった。夜は賑わいそうだが朝は静かなもので、たまたま開いてた「Bake Me Up」で軽く菓子パンを食べる。推定インド系で推定ワンオペ学生バイトの女子が「うわー、日本から来たの、アリガトゴザイマス!」と接客してくれる。かわいい。本当は7時間しか飛行機に乗ってないが、以後「どこから来たの?」への回答は「日本」で通すぞ、という気分に。私だって日本で「北欧から来ました」って言われたら「はるばるそんなに遠くから!」って感激するもんね、タイから来るのとは有難味が違う。

中がライブスペースになっているらしきKulturkirken Jakob教会を抜け、小さな橋を渡り、Grünerhagen公園の坂を上る。昨日までは「フィヨルド辺」しか歩かなかったわけだが、「川辺」へ来ると途端にヨーロッパみが増す。街中に緑が多いベルリンの雰囲気など思い出した。同じ川のほとりにあるMathallenというフードコートが有名だが、開くのは昼からで、この日は素通り。その後、最終日に訪れて大変よかったです。

本日の我々のお目当て、まずは「Tim Wendelboe」というコーヒー屋である。バリスタ世界一に輝いたこともあるという店主が営むこだわりのエスプレッソバーとのこと、わざわざ遠方から訪れるマニアもいるそうな。どれだけ敷居高い高級店なんだろうと身構えていたが、オシャレでこぢんまりとした、良心的な価格の店だった。それがまたカッコよろしい。8時半開店で10時半には満員、店内に行列ができているが、常連客ほどサッと飲んで粋に去るので、待たされる感じもない。そうなんだよ、コーヒー屋ってのは本来そうあるべきだよ、本を読んでもいいけど読み終わるまで居るようなのは野暮なんだよ。と、急に昔修めた喫茶店学の蘊蓄が頭をもたげる。

カプチーノとドリップを一杯ずつ注文するつもりが、一つ前に並んだお客さんがやはりガイドブックに勧められて来たような旅行者で、店員がアイスバケツに冷やしてある壜を見せながら「本日のコールドブリュー」について熱弁を振るっている。つられて「同じのください」と言ってしまう。よく冷えたものが氷無しでワイングラスに注がれ、たしかに美味しい。浅煎りサードウェーブ系のアイスコーヒーをこんなに好きだと思ったの、私は初めてかもしれない。日本の喫茶店のどこで飲んでも同じ味に至るような冷コーも悪くないが、これならワインテイスティングのように味わいを飲み比べたい。豆を一袋買って、長居せずに去る。粋にね、粋に。

グルーネロッカ地区とは、Markveien通りが南北に走る一帯のこと。古着屋やアンティーク雑貨屋や、ローカルの新進気鋭デザイナーを抱えるブティックなどがひしめいているという。そんなの代官山とか裏原宿とかトゥーブリッジズとかマレ地区みたいな、すごいとこだと思うじゃん? あるいは北欧版Dover Street Marketみたいな店とかあるのかと期待するじゃん? ぜんぜん普通の商店街でした……。オシャレでないとは言わないが、今みたいになる以前の下北沢とか、昭和期の自由が丘とか、そのくらい。昔ながらの商店会に少しずつ若者が流入し、でも、ナニカが致命的に変わってしまう一歩手前、という風情だ。ただ、昨日まではピキピキにイケてる再開発地区と、銀座中央通りや五番街に相当するショッピング街と、あと桟橋付き高級低層タウンハウスなどがあるウォーターフロントしか見なかったので、まったりできてよかった。緑地を取り巻く飲食店もどこも美味しそう。

11時くらいから開店する店を一通りひやかす。ノスタルジックなかわいい服が多く、一軒一軒が得意とする年代やテイストも明確に棲み分けていて、ヨーロピアンヴィンテージ好きにはたまらないだろう。でも全体的にサイズが大きめだし、個人的にはパッと見て買えるものがない。一番好みだった「Frøken Dianas Salonger」という店で、うわー、なんかこのラックだけめっちゃ輝いてる、今シーズンの気分とされるレトロ柄のシアーブラウスがいっぱい、ここなら欲しいもの絶対あるよ〜! と駆け寄ったら、「Vintage Bluser From Japan 475NOK」とあって腰が砕ける。はいはいはいはい1960年代70年代のレナウンさん、21世紀の今も世界の古着愛好家が認める大変よい仕事なさってますね、イエイエ。状態すごくよかったし、オスロ在住で着るものに困ってるなら絶対に買いです。けど、これなら私も日本帰国時に古着屋で買うよ。てか同じ値段で帯とか正絹小紋とか買うよ。

他にやりたいことも無し、途方に暮れたところで、「トラムに……トラムに乗るという体験をするなら、今では……!?」と気づき、オスロ・パスでトラムに乗って大聖堂あたりまで戻る。別に、歩ける距離だけどね……何事も体験が大事です。他国の市電やバスのようには厳しく乗客管理がされておらず、後方ドアから乗り込んで電子チケットをかざす入鋏システムを、多くの人が堂々と無視して乗り込んでいた。これだけ税金が高いんだから公共交通機関はタダで当然だろ、という表情の地元市民たちである。ガイドブックになぜか赤字で「無賃乗車は高額の罰金を取られるぞ」と注意書きがあったのも納得。知らなければ、本当に運賃がタダなのかと錯覚する旅行者も出るだろう。

さきほど銀座や五番街に喩えた大聖堂からカールヨハンにかけてのブティック、靴のセレクトショップや、伝統民族衣装やノルディックセーターを扱う店、土産物屋なども、いくつか覗いて回る。H&M(スウェーデン)傘下のMONKIとWEEKDAYSが大型店舗を構えていてグッとくる。そういえば私、今回の旅に持参した寝間着は、2013年に原宿竹下通りのMONKIで買ったロングTシャツなのだった。なんでこんなに安くてかわいいんだと感心したものだが、その後、児童労働問題への不明瞭な対応に嫌気がさしてH&Mの不買歴が10年以上になる。懐かしさに引き寄せられてぐるっと見て回るも、33歳当時でも気恥ずかしかったMONKIの売場、40代の今はマジで身の置き場がなかった。なお、現在のH&Mグループは児童労働禁止宣言を出しているが、大量廃棄問題のほうは永遠に解決しないから、なかなか新品を買う気になれない。だったらやっぱりレナウンの古着を買っておけばよかったかな、と少し後悔する。

伝統民族衣装のお店は、夏至前の駆け込み需要なのかセミオーダーのカウンターが賑わっていた。結婚式などでも着るようだ。日本の呉服屋も外国人の目にはこんなふうに映るだろうか。こんなにトラディショナルな店でも、だからこそか、ウィンドウディスプレイにはプライドフラッグが掲げられている。日本の呉服屋も見習ってほしい。

昼食は「Kaffistova」へ。Hotell Bondeheimenのの一階と地階までを使った、おそろしく席数が多い軽食の店で、朝から晩まで開いてて半セルフ方式で適量の定食メニューがある。空港へ向かう前の半端な時間帯にサッと昼食を摂りたい我々のニーズに合致した、大変いい店を見つけた、と喜んでいたが、後から『地球の歩き方』を見たら初日の「Elias」や翌日の「Fiskeriet」と同じくらい大きく紹介されていた。赤面。『地球の歩き方』のグルメガイドは国によってはまるで使い物にならないときがあるが、こと北欧編に限っては以後も当たり続きでした。

チキンを盛ったシーザーサラダと、Raspeballという郷土料理を注文。後者は横に英語でPotato Dumplingの塩蔵Pork添えだと説明が書いてあり、芋団子と豚ハム? そんなものが主菜になるのか? と訝っていたら、骨付きの塩茹で豚肉がどっさり、ポテトだんごにはカリカリのベーコンみじん切り、だんごとは別の味付けが施されたマッシュポテトの上に、ソーセージまで載っており、「疑ってサーセンした!」と屈伏する。ありとあらゆる種類の豚肉からそれぞれに溢れ出て黄金色のプールのようになっている脂のしょっぱさに、イモをひたしてからめながら食べる、こんなん不味いはずがないだろ……。脂質と炭水化物と塩分の狂想曲、栄養学的分類図を書いたら、とんこつラーメンなどとも近い配置になるはずだ。脳天に来る。二人前の片方をサラダにして大正解。

14時半にホテルへ戻り、荷物を受け取って、タクシーで国際空港へ。17時15分オスロ発、19時40分ヘルシンキ着のFINNAIR。チェックインカウンターの職員も推定インド系の女性だった。地元の生まれ育ちだろうか、短い時間に三カ国語くらい使い分けて他の職員と談笑してのち我々に英語で微笑みかけてくる。小さな飛行機だったが、離着陸時にとくに写真を撮ってないということは、隣客や乗務員の奇行に悩まされることもなく、スムースなフライトだった様子。

ヘルシンキのヴァンター国際空港、降り立って英語の案内表示を見ているだけだと、ノルウェーとまるで違いがわからない。スマホにはAirAloのユーロリンクを挿れてあるため、二国間の時差も到着と同時に勝手に修正してくれてあってスムースだし……と、突然ムーミンショップが! でっかいニョロニョロとモランのオブジェが! いきなり大興奮、周囲の利用者たちから「ああ……なんだ、いつものよくいるムーミン大好きアジアンおばさんか……」と飽き飽きしたような目で見られる。こんにちは、ムーミン大好きアジアンおばさんです。普段は写真撮影を拒絶し続ける夫のオットー氏(仮名)も妻の挙動に呆れ果て、「ハイハイそこ立って、一緒に撮ったげる」と珍しく自発的に撮影係をかって出る。こうして旅の写真がパジャマみたいな飛行機ウエアで寝起きすぐの姿とかばかりになるのだった。顔がむくみすぎ。

いやあ、羽田空港国際ターミナルでもね、税関出口にある何の変哲もない、巨大なハローキティが「Welcome To Tokyo」って言ってるだけの看板に大はしゃぎして、スーツケース積み上げたワゴンカートを放り出してまで、年甲斐もなくキャッキャ騒いでバシバシ記念写真を撮ってる外国人旅行客、いっぱい居るじゃないですか。ああなんだ、カワイイ大好き観光客か、ハローキティなんざ我が国どこにでも掃いて捨てるほどおるわいな、逃げてかないよ、落ち着け、って笑うじゃないですか。完全にアレと同じことをやりました。

ヘルシンキの滞在先は、中心街の南側にあるホテル・リラロバーツ。夫婦で旅行する場合、宿選びはすべて夫のオットー氏(仮名、乙女男子、愛読書はことりっぷ)に任せきりである。モロッコで魅惑のリヤドを手配してもらって以来、宿選びには口を出さないと決めている。今回も一人旅ならまず泊まらないランクのホテルをガンガン攻めてて有難い。オスロのグランドホテルは東京で言うなら帝国ホテルみたいな老舗の風格だったが、こちらはアールデコがコンセプトの個性派ブティックホテル。バスタブ無しの部屋だけど水回りも使いやすかった。ただ、一つしかない便器の脇に、ものものしいビデシャワーホースだけがデデンと設置されており、欧州だなぁ、という感想。

荷解きを済ませると21時前になっていた。とはいえ外は白夜(仮)、まだ夕方のように明るい。だったら夕飯を食べに出ますかね……? と、これなのだ。この感じが、じわじわと、旅人の体内時計を狂わせていくのである。普段は19時台までに夕飯を終えて半日ファスティングを実践している我々、同じ21時であっても戸外が真っ暗な日没後なら、早々に寝て、翌日早起きして朝食を重めに摂るはずである。でも白夜(仮)の夕方(仮)だから……フライト短かったし、そんなに疲れてもいないから……着いたばっかりですぐ寝るのも、もったいないしね……? と、宿からふらふら彷徨い出てしまう。そんなこんなを13日間繰り返すと、最終的にはさすがにちょっと体調を崩しました。白夜(仮)、おそろしい。太陽の光に導かれ、長すぎる日照の言いなりにうろうろ夜更かしする明るいゾンビを量産する。

ところで、北欧といえば「BASTARD BURGERS」である。スウェーデン発のハンバーガーチェーンで、おそらく日本上陸はしていないだろうから読者諸氏には馴染みが薄いかもしれないが、我々夫婦には馴染みがありまくる。というのも、ニューヨークに三店舗ある支店のうち、イーストヴィレッジ店が我が家のめちゃくちゃご近所なのだ。普通に美味しいバーガー屋として重宝しており、私はいつも「Helsinki」という青唐辛子入りのやつを注文する。「フィンランド着いた記念にバスタードバーガーでヘルシンキ食おうぜ! ネタとして!」と盛り上がる。大事なことなので二度言うと、フィンランドでなくスウェーデンの店なんですけどね。でもヴァンター空港にも入ってたし。

最寄りのバスタードを目指して宿からまっすぐ北上すると、ヘルシンキの中央公園にあたるエスプラナーディを縦断するかたちになる。明日以降の街歩きの予習にもぴったりだ。ところがBASTARD BURGERSは22時閉店で、21時台はテイクアウトしか受けないという。ええー、座って食いたい。並びにあるFriends&Brgrsに飛び込むと、こちらはアルコールを提供していないという。ええー、酒は飲みたい。どうする、宿に帰る……? でも口がすっかりビール&バーガーなんですけど……? と途方に暮れてGoogleマップに「Helsinki Beer」などと頭悪い検索語をぶちこむと、徒歩圏内に「Helsinki Bryggeri Brewhouse」がある! えー絶対行くー! 

※21時半のヘルシンキ大聖堂
※22時過ぎて食うもんじゃねえだろ

ヘルシンキブリッゲリはヘルシンキ大聖堂に近いエリアにあり、ひたすらビールが飲みたい一心で、エスプラナーディ公園周辺を西から東へぐいっと横断してしまった。オスロに引き続き、ヘルシンキも市街中心地がおそろしくコンパクトにまとまっていることが判明する。西日に照らされた大聖堂の大階段はとっても美しい、のだが、今は登っている暇はない、俺たちは日没までに絶対に、街の名を冠したブルワリーの中庭の、Googleマップに掲載されてるこのテラス席で、IPAとサワーセゾンかなんか飲んで、そんでハンバーガーとフィッシュ&チップスをキメるのだ……!! と、固く心に誓った通りの念願の注文をキメた。そろそろお気づきかと思いますが、今回の北欧旅はご当地ビール三昧です。私はね、瞬間最大で2.5キロ太って帰りましたね。明るいからって22時23時にハッピーアワー感覚で肉肉イモイモ飲み食いしてたら当然なんだよ。毎日2万歩近く歩いてても筋肉量や基礎代謝に変化なし、純粋に体脂肪だけが増えていた。ピュア脂肪。いっそすがすがしい。

ビアガーデンはほぼほぼ満席で、他の客とテーブルを譲り合うような大賑わい。仕事帰りなのか、ビジネスカジュアル姿の団体などいて、ビールも食べ物もどしどしやっつけている。そして、海が近いとはいえ建物の中庭なのに、ここでもカモメがのさばって我が物顔で残飯を狙っている。何度でも驚くが、カモメ本当にすごいよな。日本でもお魚くわえたドラ猫とかとんと見かけなくなったし、ニューヨークのネズミやリスがいくら凶暴でも大きさで負ける気がしないし、食事中の人類にとってここまで脅威となる半野生動物と久しぶりに対峙した気がする。地元の人々はまだまだハナモクを満喫している23時頃、我々は宿に帰ってまっすぐベッドに直行した。

※23時前のヘルシンキ大聖堂

今回の旅程で時差が生じるのはフィンランドだけである。今の今まで、スカンディナヴィア半島に縦に並んだ三カ国くらいが「北欧」かねという雑な誤認識でいたのだけれど、無知の極み。「スカンディナヴィア」という言葉は、厳密にはスウェーデン・ノルウェー・デンマークの三君主国を指す。フィンランドやアイスランドは広義でないと含まれないのだ。そしてこの三君主国が、同じ中央ヨーロッパ時間を採っている。このタイムゾーンは戦時中ドイツ占領下の名残もあって範囲が広い。スペインやフランスなんか今からでも変えりゃいいのにね、と思うが、言うなれば各国が「ベルリンに時計を合わせている」状態である。

フィンランドだけは東ヨーロッパ時間で、これはバルト三国をはじめ、ウクライナなどとも同じ。え、ウクライナって相当遠くない? と調べると、ロシアの西側も2011年まではみんな同じタイムゾーンだったことを思い出す。つい最近、夏時間を廃したことで今現在のモスクワ標準時が生まれたのだ。逆に言えば、2010年までのフィンランドは「ヨーロッパロシアに時計を合わせていた」とも言える。半島の東側で国境を接しているため当然といえば当然だが、実際に来てみるとつくづく実感する、フィンランドは、すごくロシアっぽい。まぁ、そもそも私はロシアへ行ったことがないし、ヘルシンキ市内に2、3時間滞在してビール飲んだだけで何がわかると言われたらそれまでだが、しかし、ここはやはりオスロとはまるで違う。何がって、えーと、えーっと……と言葉を探し、最初に口をついて出たのが「女の子の化粧!」だった。

ホテルから市街中心部までの下り坂の途中に、何軒か有名なナイトクラブがある。木曜日の夜21時台に通りかかると、めいっぱいオシャレした老若男女がたむろして、年齢証明とドレスコードの関門を突破すべく入店順番待ちをしていた。すらっと背が高く色白で金髪を長くなびかせたミニスカートのギャルたちがナイトライフを満喫する様子、その中に、俗に言う「ロシア美女」系のあのキツくて濃ゆいメイクをしている子が何割か含まれていた。エスプラナーディ界隈やビアガーデンでは、湯婆婆みたいなルックスの中高年女性も見かけた。もちろん全員がそうだというわけではないが、少なくともオスロでは、この手の化粧をする女性をまるで見かけなかったのだ。

私にとってフィンランドといえば、ムーミンとマリメッコの国。だが、それはあくまで個人的な趣味嗜好と合致するところをなぞっているだけである。改めて地図を見返して、「うわー、サンクトペテルブルク、近ッ……!」と驚いた。ヘルシンキ旅行のエクスカーションには、湾を挟んですぐお向かい、エストニアの首都タリンを薦められがちだが、サンクトペテルブルクだって、ストックホルムより近いのだ。「下手するとほとんどロシア」&「その割には、ずいぶん他の北欧諸国のほうに寄り添えている」というのが、この首都の文化的第一印象である。

昔『ヘタリア』を熱心に読んでいた頃、北欧諸国のキャラの区別がつかず、「北関東三県みたいに並び順を覚えるコツがないのかな」と文句を垂れたものである。しかし旅行後に見返すと、わ、わかる、超わかる、もう間違えない、へええ、日丸屋秀和先生めっちゃうまいな擬人化、と感心する(今更か)。マーくんとスーさんが解釈一致すぎるし、フィンちゃんは、かわいい顔して独りだけそこはかとなくロシア似なのだ。サンタ組、完全に把握したわ(今更か)。なお、各国それぞれの激動の歴史については各自おぐぐりいただきたい。私だって愛国心強いフィンランド人に向かって「ほとんどロシア」などとは口が裂けても言えない。ただ、「地図で勉強したこと」を「この目で実際に見たもの」が凌駕していく瞬間はあって、これぞ旅の醍醐味と言えよう。BUCK-TICKのファンになったり宇都宮で餃子を食べたり合気神社の場所をぐぐったりするたび、北関東三県の区別がつくようになるのと同じである。いや、どうかな。