ザ・インタビューズ転載日記(好きな映画)

好きな映画を教えてください

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■『五線譜のラブレター(De-Lovely)』
http://www.youtube.com/watch?v=2Ro-SJF-C5k

私が今までの人生で出会った中では一番好きな作品、作曲家コールポーターの伝記映画です。試写会で仕事を忘れてぼろぼろに号泣してしまい、その後、劇場で観てDVDを買って、今でも事あるごとに見返しています。所謂「泣ける映画」とは違うのですが、私にとっては感情が行き場を無くしたときに部屋を暗くしてこの映画を観て、いとおしさに一人でわんわん泣く、というのがもはや生活の一部。大好きなコールポーターの音楽をちりばめて、大好きな大好きなテーマを描いたこの映画は、ちょっと好きすぎて冷静に評価できないというのが正直なところですね……。

最晩年のコールポーターの元に、ゲイブという名の男が「お迎え」にやって来て、小さな芝居小屋で彼のそれまでの生涯をジュークボックス・ミュージカルに仕立てて見せる……という、ただそれだけの話です。あふれる才能を持て余していたお坊ちゃん育ちのコールと、彼を作曲家としてデビューさせ成功を支え続けたリンダ、二人のパートナーシップの物語。日本での劇場公開時はさも甘ったるいラブロマンスであるかのように宣伝されてたんだけど、全然違うんだよなー。暴力を振るう前夫に飽き飽きして、同性愛者と知った上で年下男と再婚するリンダが、「You don’t have to love me the way I love you, Cole, just love me.」と言うシーンがすごく好き。世間体として妻も必要だよね、というノリで絶世の美女を引っかけたコールが、さんざん好き放題しながらも最終的にはリンダをミューズとして「愛して」いる様子も好き。ラストシーン、夢の枕辺で一つになる彼らの姿には、恋愛とか夫婦愛というより「魂の双子」みたいな言葉のほうがしっくり来ます。

主演のケヴィンクラインとアシュレイジャッドの美しさはもちろん、一曲ずつ歌を披露するためだけに集結した豪華すぎる出演陣、徹頭徹尾ダンディでシックなアルマーニの衣装、なんでもないシーンで無駄に凝ってるカメラワークなどを駆使して、二つの大戦をまたいだ旧き佳き時代をちゃんと現代風にアレンジして描いているのがいい。まぁ戦争は見事にスッ飛ばしてるし場面転換はブツ切れだし、初見だと話の筋が見えづらい、要は長く撮りすぎたものを慌てて尺におさめたのが素人目にもバレバレなんだけど、それすらもスタッフの作品への愛に感じられて萌えます。まずはただただ、シーンごとに流れてくる素敵な音楽に溺れればいいですよ。人気作曲家を演じるケヴィンクラインのお世辞にも上手とは言えない歌が、本当に、本当に素晴らしいんです。そしてそれがエンドロールでコールポーターの肉声に引き継がれ……。筋なんてあってないようなもの、「人は一度きりの人生を、ただ生きて、死ぬだけだ」という、それだけの話。悲しくて泣くんじゃない。この映画を観ると、嬉しくて泣けてくるんですよね。

他にも好きな映画はたくさんありますが、そんなにたくさん本数を観ているわけではないし、わりと普通です……。なんというのでしょう、大半は「世間的によいと言われている作品を、もちろん私も好きだよ」というものだったり、監督の作風が好きだから新作がかかるととりあえず観る、というものだったりします。『五線譜のラブレター』については、国内外でどのくらい興行的に成功したかしなかったかも知らないし、監督やスタッフを追いかけて別作品をハシゴして観ることもしていません。でも、一時期流行ったミュージカル仕立ての伝記映画の中では群を抜いて素晴らしいと思うし、私にとってこの作品は、そんなこと心底どうでもいいくらい好きな、たった一つの映画です。