202304_SomeLikeItHot

2023-04-28 / Some Like It HotあるいはZURI

午前中から外出、King’s Street Coffeeでノマド、午後は特別研究で短期滞在中の藤本由香里さんと待ち合わせ。センセイ付けろよデコ助野郎、という感じだが、私など足元にも及ばない雲の上の大先輩であるにもかかわらず、同時期にニューヨークで共に過ごした時間が長いというだけですっかりお友達のような気分でいる。おかげで待ち合わせにも遅刻して先に行列に並ばせといたりもする。それはダメだろデコ助野郎。

当日ソワレと翌土曜マチネの割引を売り出す金曜15時のtktsは大行列。1時間半くらい並びながら、ご無沙汰の期間を埋める怒涛のおしゃべり。オペラの新作を教わる代わり、今季観たおすすめブロードウェイ作品をいくつか挙げるが、結局「せっかくだから二人とも観てない新しいのにしよう!」と『Some Like It Hot』を取ることに。ブースはいつもの白髪を刈り込んだセルフレーム眼鏡のおじいちゃん。彼、名前なんてんだろ。うっすら私の顔も覚えられているようで、彼のブースにあたると「君はラッキーだ、今夜最高のチョイスだよ!」と毎回必ず超良席が来る。ということは、他の売り手にはナメられて意地悪されてるってこと? まぁそこは深く考えないでおこう。一階O列センター連番という神がかった配席。

『SOME LIKE IT HOT』は映画『お熱いのがお好き』を時代設定そのままに改変リメイクした作品。脚本はMatthew LópezとAmber Ruffin、作詞作曲はMarc Shaiman、作詞にScott Wittman。実際に観たオタクからの評判は極めて高いのだが、集客はちょっと苦戦している様子で、そんなこんなの理由がよくわかるウェルメイドな作品だった。シカゴで偶然マフィアの銃撃戦を目撃してしまったサックス奏者ジョーとベース奏者ジェリーが、逃亡のため女装して、メンバー全員女性がウリの楽団に紛れ込んでドサ周りの旅に出る。ジョセフィーン(=ジョー)は一座の団員シュガーに恋をして、ダフネ(=ジェリー)は巡業先で大富豪から一目惚れされる、そこへマフィアが追いかけてくる……という、大きなあらすじは原作通り。

変更点、まずはキャストの人種多様性。映画でマリリンモンローが演じたヒロインは、BW版『SIX』の初代キャサリンオブアラゴンことAdrianna Hicks!! 「1の妻」だった頃はあんな堂々たる姐御だったのに、映画しか娯楽がない田舎で育って銀幕の女優を夢見る若いお嬢さんを演じるとこんなにカワイイんだな、デレデレしてしまう。相手役のジョーは『Something Rotten!』のChristian Borle、これまた豪華、うめえなあ。いうて詐欺師の役なんだけど、女装しても、他人(ウィーンから来た脚本家)の肩書を盗んでも、ちゃっかりヨットを拝借してもなぜか憎めない、グイグイいくダメな男っぷりがよい。

もう一人、ダフネ役はJ. Harrison Ghee。未見だが『Kinky Boots』のローラを演じたと聞いて「でしょうねえ!」としか声が出ない。そしてWikipediaによると「東京ディズニーランドで働きながら東京でCrystal Demureとしてドラァグクィーンデビューした」そうです、マジか!! 「男性」のときは小柄で弁が立つジョーと凸凹コンビを組むおとなしいノッポ、「逃亡のためのトンチキな女装」もかわいいし「仲間にさえバレない板についた女装」も上手、そして、全人類がプロポーズ必至の二幕冒頭「Let’s Be Bad」の艶姿から「You Coulda Knocked Me Over With A Feather」でのガツーーーン!!!とショーストップを起こす迫力まで、いやはやお見事。まずは動画観てよ。

You Coulda Knocked Me Over With A Feather / Some Like It Hot
You Coulda Knocked Me Over With A Feather / Some Like It Hot

「私はジェリーでありダフネ、そしてダフネこそが私の最もイケてるところ」「今ありのままの私として生きていて最高に幸福、やっと自分自身を見つけた」「もう二度と『こうあるべき』なんて窮屈さには戻らない、胸の高鳴りに嘘はつかない、私は私の中にずっといたダフネが大好き」とたっぷり歌い上げるこのパフォーマンスの間、客席からは逐一「YES!!!!」と大声の合いの手が入るのがたまらない。「女装男が勘違い男から熱烈求愛されてドタバタ大爆笑」という旧い映画を題材に、時代に合わせて調理法を変え、「“ドレスを着た自分”がプロポーズされた今のファビュラスな気持ちを、“スーツを着た自分”の親友にカミングアウトするなら、大声で歌い踊りながらに派手にやろうぜ!!」と訴えるクィア・アンセムを書き上げてしまう。ああブロードウェイ。これぞブロードウェイ。

私が『お熱いのがお好き』を初めて知ったのは子供の頃、CLAMP『20面相におねがい!!』に「Nobody’s perfect」という名台詞が引用されてるのを読んだからなんだが(この台詞もうまいこと調理されてラストばっちり登場)、高度すぎる技術力で死ぬほどアホな動きして笑いを取りつつ深い愛を示すハッピーな大富豪オズグッドのKevin Del Aguilaもよかった。オールフィメール楽団もNaTasha Yvette WilliamsとAngie Schworerがツートップで率いていたり、絵ヅラの「今っぽさ」はほぼ完璧。かつ、みんな大好き禁酒法時代のセットと衣装、シカゴからサンディエゴまでの鉄道旅、国境超えたメキシコでの夜遊び、豪華客船ではないけど船室シーンもあって、最後の大捕物はホテルの廊下をキャスター付きのドア使った群舞とタップダンスで完全にマンガちっくに振り切って見せる。「古典的ミュージカルで観たいもの」全部盛り、最後はツーペアがハッピーエンドの大団円、そりゃもう満足度が高い。

でもじゃあなんで不人気みたいな言われようなの? と考えるに、一つは既視感。21世紀の鑑賞に耐えうる時代劇、毎年どしどし作られているので、「すごくいいけど、またこれか」とは思う。とくにジョー&シュガーの「最高の同性の親友と思ってたら大嘘つきの女装の男だった、原作のマリリンが許してもあたしゃ許さないよ」という展開は数年前『Tootsie』でたっぷり観たしな。当然『お熱いのがお好き』のほうが古いんだが、リメイクが後出しになったので分が悪い。鳴らない楽器を手に踊り狂うアンサンブルも素敵だけど『The Music Man』でも観たしな。マリポーサはスペイン語で蝶って意味だよ、という歌も『Life Of Pi』など観た後だと「一晩メキシコ行っただけで異国情緒が出せると思うなよ?」となるし、「ミュージカルあるあるをメタなギャグに変える」新作『Shucked』を観た同じシーズンだと、正攻法でツボを押さえるこちらは少々退屈に感じる。

あと多分、アメリカの観客の中には原作の『お熱いのがお好き』が大大大好きで、あれと同じものが観られると思ってウキウキ劇場に来たら、「大昔と違う2023年はもう同性婚だって可能ですからね!! イェーイ!!」というノリに、コレジャナイ……と感じる人もいるかもしれない。楽曲も、時代がかったオーケストレーションに酔いつつも旋律のキャッチーさに欠け、帰り道に口ずさめるような作りではない。これで『& Juliet』あたりと張り合うのはつらかろう。一番キャッチーなはずの「Let’s Be Bad」がモロに「Let’s Misbehave」を連想させたり、既視感が過去の名作との比較に向いてしまう。「みんなが褒めてて全然悪い作品じゃないのに賞レースにおける得点は低い」不幸な作品ってある。『FUNNY GIRL』もそうかな。誰も悪くない、みんなバーブラストライザンドが好きすぎるだけなんや。

ちなみに、日本版をやるなら『Anastasia』同様に、宝塚歌劇団に買い付けてもらうのがよさげ。悲しいかな、日本ミュージカル界でシュガー役やダフネ役に見合う俳優が思い浮かばない。だったらいっそ、トップ男役がジョー&ジョセフィーン(タキシード姿でデュエットダンスも披露)、歌唱力自慢のトップ娘役がシュガー、性別不問系の二番手男役がジェリー&ダフネを演じて、マフィアと楽団長は組長と副組長、「僕たちは、男と女と男と男にして女だけど、女で女で女で女でもあり、どっちにせよ愛こそすべてだよね」とやるのが正解なのでは?と夢想したり。大詰めのあのタップダンス捕物帳を組子80名総出で観たい!

あっでもオズグッドは石川禅がいいです! 女子群舞に混ざれるトップ娘役おじさん! 問題は誰が私のかわいい推しをリフトしたままぐるぐる回してくれるダフネ役者かですよ、これはちょっとヅカの男役以外に思いつかない、はっ、もしかしてミュージカル輪廻した森崎ウィンとかなのか!?(そういうのは『ジェイミー』再演でやれ)(お待ちしてます)

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ところでBlueskyとInstagramにも書いたZURIの話。観劇前、ヘルズキッチンの人気店「BEA」のハイトップで2時間以上だらだら飲み食いして(開演ギリギリに駆け込む羽目になっ)たら、同じバーにZURIのワンピースを着た人が入ってきて、「わ! ちょっと! あなたもZURI着てるのね! OMG、私その柄も持ってる!」と話しかけられ、Facebookのファンコミュニティを教わって、「ハグしていい?」「もちろん!」というわけで、きゃいきゃいツーショット写真を撮って相互フォローになって別れた。私が知る限り、ZURIの服を好きな人たちみんなこの調子で大変アガる。

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超かわいいCamille。藤本先生、撮影ありがとうございます

ZURIはニューヨークとサンフランシスコに実店舗を構えるインディペンデントなブランドで、主にケニアやガーナから仕入れたアフリカンプリントの布を、「Just One Dress」というコンセプトの下、まったく同じ形状(袖有りワンピース・袖無しワンピース・シャツの三種)で展開している。新しく創られ続ける伝統的な布を、あえてシンプルな単一フォーマット、同一価格に落とし込むことで、布柄本来が持つ個性を際立たせつつ、タイムレスで、ジェンダーレスで、体型不問で、着こなし自由自在で、カタログコレクション的な中毒性もある服に仕立てて、オタクを沼に沈める……。おわかりいただけるだろうか、これは「洋服のかたちをした木綿単衣の着物」「着物感覚で着られるコットンワンピース」なんですよ!

エシカルでトレーサブルでサステイナブルなハンドメイド、女性二人による起業経営で、モデル選びもボディポジティブかつプロエイジング、ヒラリークリントンもご愛用、居るだけでガチャガチャうるせえ三歩下がらねえ全然わきまえねえアタシら、という「思想を着る」意味合いもあるため、街中で見かけると、着物同士とか、ゴスロリ同士とか、そのくらいの強い強い連帯感がある。褒められたので嬉しくなって帰宅するなりもう一着ポチッちゃったぜ。着物と同じく、一度マイサイズがわかれば試着不要で無限にネット通販できるのもおそろしい沼です。在NY日本人の間でもじわじわ愛好家が増えているらしい。流行ってほしい。地球全土で送料一律10ドル、日本からも買えるよ、最小XXSサイズが9号くらいかな。以上、回し者でした!
https://shopzuri.com