2023_NHK_ranman

2023-05-29 / 『らんまん』視聴日記(随時更新)

我が推し俳優、石川禅が朝ドラに出るというので、5月末から視聴している。役柄は政府高官の佐伯遼太郎、東京編における鹿鳴館プロジェクト絡みの登場人物で、出演回は現時点で40話、43話、44話、55話。御本人が「ヤバ藤さま」こと伊礼彼方とクランクアップ風の記念写真を投稿していたので、おそらく55話以降は二度と登場しないのかもしれない。出番は少ないもののあちこちで「禅さん観ましたよ、歌わない役で残念ですね」「脇役なのに発声滑舌がよすぎる」「おヒゲ〜!」などと言われ評判がよく、やはり高視聴率の番組に出ると露出インパクトが高いのだなぁと感心する。今後とも何卒ご贔屓によろしくお願いいたします。

推しを目当てに40話から観始めてなかなか面白かったので、オンデマンド配信ならではのビンジウォッチをして初回から最新回まですぐ追いつき、推しの出番が終わった後も引き続き視聴している。今ちょうど折り返し地点。基本Blueskyに感想を書いているのだが、ほっとくと結構な量になりそうなので、後から読み返せるようにここにまとめエントリを作っておく。昔はこんなときTwitterに長い長いスレッドを立てていた、その代わりです。


NHK連続テレビ小説『らんまん』(6/7日記)

5月、私の推し舞台俳優である石川禅が、朝ドラにゲスト出演する!! というので、ブツブツ切れまくる低速VPNで視聴する。植物学者の牧野富太郎がモデル、推しの初登場である40話はちょうど物語に鹿鳴館が絡んでくるくだりで、久しぶりに浴びる時代物の朝ドラが懐かしく、第1週から遡って一気見することにした。いま第5週25話目。NHKオンデマンドはTVerと違って倍速視聴を許してくれず、長いシリーズドラマはファスト視聴が基本の私も珍しく等速で観ているのだが、毎話約13分×5回=週65分をワンセットとして毎週ダイジェスト版も組まれる朝ドラのこの、15分を二つ三つに割って山場を作り5〜6分に一度決め台詞を置くプロット、短い会話の掛け合いで多数の登場人物をどんどん捌いていく手法、脚本の教科書みたいだ。安心安定の黄金のテンプレートをなぞって幕末明治期から戦後昭和まで駆け抜ける偉人伝。この安心感よ。

「土佐編」は裕福な造り酒屋が舞台、みんながみんな「病弱な弟でなく仕事熱心な姉のほうが嫡男ならよかったのに」とあけすけに口にするなか、弟・万太郎(神木隆之介)の「大店のボンボンだからこそ家業を捨てて成し遂げられる学問の道がある」と、姉・綾(佐久間由衣)の「酒造職人にはなれずとも婿を取って大好きな家業を続けたい」とが、第5週まででちゃんと絡み合って「上京編」に達するのが素晴らしい。それにしても、第1週からいきなりディーンフジオカ演じる坂本龍馬が登場、第2週までで死ぬ広末涼子役には広末涼子、第4週には龍馬より龍馬っぽい宮野真守の植木枝盛と、島崎和歌子の楠瀬喜多aka民権ばあさんに、宇崎竜童のジョン万次郎……土佐は有名人が多くて盛り上がるなぁ!(広末涼子が土佐の偉人扱いなのですが)(だって土佐の偉人だろ)

綾の「私の夢、私の恋、私の人生は酒造りにある。異性愛にはない。それがわかったから、縁談で好きな男を選んで嫁に行くのは無し、代わりにこの家で婿を取らせてください、相手は誰でもいいです」という趣旨の発言がよかった。世が世なら性的少数者と呼ばれたかもしれない、フェミニストというよりワーカホリックな女。私が朝ドラのヒロインに求めるのはまさにこういう人物像なのだけど、男性主人公の姉というのは絶妙なポジションだ。かたや、病弱に加えて下戸で酒のことは全然わからない弟が、武家の子に混じって学問所に通い秀才と謳われ、高価な本を好きなだけ買い漁り、少年期から無限の金と時間と情熱を費やして若き在野研究者となった上で、銀の匙より重いものくわえたことがない口で「ワシは恵まれて生まれてきた、そのぶん、ワシにできることを果たしたいがよ」と言い、その道が「西洋人にはできなかった日本ならではの植物研究をする」なのも泣ける。女人禁制の酒蔵を守って女の手で世界一にさせたいお嬢さま・綾が望んだ「自由」と、踏まれるほど強くなる雑草たちの個性に目を留めることができるお坊ちゃま・万太郎が掴んだ「使命」。そうなんだよねえ、こういう高潔なCalling(天職)の話を観たいよね、朝ドラでは。庶民の子が夢を語ってシケた理由で苦境に立たされてゆく世知辛い現代物じゃなくて、「一生を捧げても終わらない仕事だが、それでも構わない」と言い切れる人の話が観たいのよ。

そして9歳から若のお目付役を命ぜられて励んできた竹雄(志尊淳)が、大人になってから急に先代当主の大奥様ことおばあちゃんこと松坂慶子から「おまえのしたいようにすれば、えい」と言われて「そんなもんあるか!」と静かにブチ切れるのもよかった。あの憤りも超大事よ。インテリボンボンのお伴で名教館を見ても自由民権運動に触れても我関せず、小学校進学すら拒んだ忠僕の竹雄にとって「自由」とは……と考えていたら、上京前にいきなり綾様に「好きじゃ!!」と叫ぶ暴挙、使用人の分際であんなに思い悩んでいたのにむちゃくちゃイケメンだけどおそろしく不器用、この「天は二物を与えず」感はかわいい。男性主人公ものではあるが、昔ながらの女性主人公ものの朝ドラに欠かせない姫&騎士っぽい要素も入れつつ、乳兄弟のわちゃわちゃを混ぜつつ、ちょうど忘れた頃に第1・2週の子役の名演を回想に挟んでくるのでボロボロ泣いてしまった。あと、慶應年間から始まる話なのにちゃんとしっくりくる西洋音楽を流し続けている劇伴(阿部海太郎)が、民権運動にエレキギターを絡ませた上で鹿鳴館のエレガンスに繋がるのが本当に気持ちいい。俺の俺たちの佐伯遼太郎(石川禅)はおヒゲが最高です。早く続きが観たいぜ。もののついでに歌ってくれ!


ロングもショートも銀髪はサイコーもうずっと変に黒染めせず地毛のグレイを活かした白髪の役にシフトしていけばいいのに、と言っていた同じ口で言いますが……私、この世で一番好きな俳優が石川禅で、この世で一番好きな殿方のヘアスタイルが黒髪オールバックおでこ出しなんですよね……いや『らんまん』の話をしろよって感じですけど、推しがおでこを上げるたびに俺のメーターが振り切れてしまうので書かざるを得ない。ポマードもいいがフンワリもいい。

続)そして朝ドラ本編を観ているときには気づかなかったのですが、佐伯遼太郎、生え際ナチュラルにややグレイじゃないですか。最of高。歳相応の日本人の役を演じる推しからしか得られない栄養素がある、普段はクワガタとか皇帝とか騎士とかケルトの魔術師とか老年革命家とか少年革命家とか偽ロシア貴族とかなので……そしてオフショットはいつも男子大学生かと二度見するような前髪なので。

2023-06-15 https://bsky.app/profile/okadaic.bsky.social/post/3jyavxuikki2q

突然の朝ドラ話だが、私はやはり『らんまん』が描いてる槙野万太郎(≒牧野富太郎)の造形は素晴らしいし、朝からみんな観たほうがいいと思うのよ。ボンボンだから学問ができたしボンボンだから才能が爆発した、在野でも在野だからこそ住むところは超大事、学歴も大事だけどカネで解決できることは全部やれ、同じ研究室にいても横入りなら別の時間の使い方をしろ、けど太い実家は若様の財布ではないし、カネで買えない技術を習得するには下積みで働くしかない、とはいえ学会誌刊行の打ち上げ慰労会もどう見ても万太郎のポケットマネーでみんなが牛鍋食ってる、というの、同時代のお仕事ものでも女性主人公だとなかなか描けない「真実」ですよね。

続)いや別に、私は楠瀬喜多を朝ドラのヒロインにしてくれていいんだけどさ、できないんだろ……。だったら「病弱で下戸で大店の当主には向かない嫡男が、実家と縁は切りつつボンボンならではのスーパーパワー(給料貰ってそれで食ってる労働者なら初手から暴動起こすレベルの作業量を無償だからこそ情熱とやりがいで一点突破する馬力や、もしスタミナが切れたら牛鍋でもオムレツでも毎週食って滋養を蓄えればよいし今やってることにはそんな出費を凌ぐ価値があると強く信じられる、その日暮らしの長屋の住民には到底真似できない圧倒的に正しい未来志向のカネの遣い方)で大成する」は、現代視聴者にとってかなり夢のある話だと思うんだよなー。

続)私は朝ドラだと『あぐり』が大好きで、「どうしようもなく甲斐性無い男と好き合って妊娠で女学校から追い出されたら? 当代最先端の業界に飛び込んで女だてらに手に職つけて夫子を養えばいい! 実家に泣きついて晴れ着を質に入れ続けるよりずっといいよ!」というあの苦し紛れの「好きを仕事に」ストーリーに(就職氷河期突入と同時に大学進学したような10代の)当時とても励まされたのだけど、今の日本はもっとずっと暗い時代なので、朝一番で観るなら「万葉集を諳んじつつ持ち前の交渉術で自主プロジェクト完遂できる小学校中退」が「一生を賭ける仕事」を見つける姿に、同僚も近隣住民も想い人も好意的、という話のほうがいいな……。

関係無いけど、『らんまん』は男性主人公なのに、しかも相当しっかりした従者とボンボン秀才の男二人組なのに、ちゃんとコレ(朝ドラ中盤の上京編で田舎から出てきた世間知らずの清純派ヒロインがたまたま声かけてきた都会の詐欺師に身ぐるみ剥がされるエピソード)をやったのもポイント高かったですね。そりゃ朝ドラ上京編の冒頭つったら「命より大切なもの(※ただし朝のNHKなので貞操の類いではない)」を奪われかける展開は必須であるし、窃盗が縁で盗んだ相手と同じ長屋に入居して和睦するという無茶苦茶な展開により、長屋住まい設定そのものの無茶苦茶さの中和にも成功していた、私は朝ドラならではのこういう太い無茶苦茶さが大好き!
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続)女性主人公ものだと通りすがりの詐欺に遭って泣き寝入りのまま続く展開も少なくないなか、今春観たミュージカル『マリーキュリー』では「たまたま同じ車両し乗り合わせた同世代女子が物理的に撃退してくれて、そちらと仲良くなる」をやっていて「朝ドラか〜!!」と狂喜乱舞したし、『らんまん』では大店のボンボンが「百? 金ならなんぼでも払いますきィ、お納めください、そして明日からワシらはお隣さんじゃあ!」をやっていて「朝ドラだ〜!!」と狂喜乱舞した。少年漫画でいう「子供が道端で遊んでいたらその道のプロに見初められた、その見初めたプロが後に生涯のライバルとなる」などと同様、無茶苦茶でもいい、うまくやってほしい。

続)第12週もボロボロに泣いてしまった。想い合って一緒になろうとする口下手な男女に「それって万ちゃんの勝手な都合だよね?」とツッコミ入れる役割が、ヘタな色男でなく志高すぎて非モテ童貞こじらせそうな文学青年オタクなのがいい。完結至上主義のエンタメ女オタクと「馬琴?好きだよ!だからこそ俺が潰す!」とやり合うのもいいし、話についてけない異分野オタクの婚約者相手に最初に突きつける条件が「俺を嫁に〜、貰う前に〜、『八犬伝』だけは全巻読め〜♪」なのもいい、私も同じオタク関白宣言を『ポーの一族』でやったよ! あと竹雄がどんなにイケメンだろうと綾様は綾様なのがいい。恋情が無くても家族愛があれば結婚できるよ。

続)でもあたしゃ牧瀬里穂おっかさんの振る舞いだけは納得いかねえよ! 元芸者の経験からあれだけ娘に「男に依存しない生き方をしろ」と言ってきたからには自分が引き抜いた菓子職人ともずっとビジネスパートナーに徹してほしかったし、田舎帰るってんなら退職金出してやりゃ十分だろうに、相手が自分をほんのり想ってるのわかってて強い立場から急に再婚をちらつかせるなんて、私が丈之助だったら「それっておまつさんの勝手な都合だよね?」とツッコミ必至だし、私が綾様なら「あーもー結局は色恋オチかいな、おまんのせいで酔いが醒めたわ、酒じゃ酒ェー!!」となる。文太さんも文太さんで急にデレデレしてんじゃないよ! かわいいけども!

続)竹雄がどれだけイケメンだろうと綾様には「竹雄の想いなんか知らんわ、うちの恋人は酒だけじゃき!」とフり続けてほしい、たとえこのまま夫婦になったとしても竹雄を生涯失恋させ続けてほしいし、二度目の告白前にスーハー呼吸を整えてるあの厨二病ポーズ見ただけで「なんぼ顔と気立てが良いか知らんし槙野姉弟にとっては大変都合もいい話であるが、しかし、やっぱり槙野姉弟と同じくらい狂ってるし、くっそめんどくせえ男だな……逆にご褒美になるとわかっていても反射的に鞭をくれてしまう綾様のお気持ちもわかる、対等にはなり得ない……」と思わせるので、控えめに言って姫騎士ものとして最高の部類ですよ。騎士はキモくてなんぼですよ!

続)こんなキモいノリで姉様を想う従者を平然と側に置き続けられる万太郎も十分怖いし、嫁が来た途端「助手の仕事をあなたに引き継ぎます(ワシはこれで綾様専任やき)」と言いだす助手も怖い。「潤沢な資本力に裏打ちされて一生賭ける仕事を見つけたボンとお嬢(恋愛能低め)」「自分自身のやりたいことは無いが三歩下がってついていく忠実な伴侶(冒険心と恋愛能高め)」のコンビ、男女&女男の2組が同時進行で進めばそんなに嫌な感じがしないのは発見だ。あと『海底二万里』の博物学者&従者にあたる鉄板の萌えを以後「主従」でなく「夫婦」で見られるなら、その前任に竹雄というコンセイユを配したのもこれから効いてくるのだろうと思える。

続)「先週までさんざん若い男二人のボーイズラブわちゃわちゃで引っ張ってきてたのに、週が明けたらいきなり片方ないし両方が手近な女と異性婚をして以後はすっぱり縁が切れ、次に出てくるときにはお互い異様に子沢山になっていたりしつつ『ほらほらこれで腐女子の視聴率取れるんだろ』みたいなノリで青年期の回想が美化フィルタかけられてほんの5秒だけ挟まれる」みたいな、そういいうドラマには、我々、マジでうんざりしているのでな! 一応は評伝物だし誰と誰が夫婦になってもならなくても文句言わんけど、昔からずっとあるそういうアレとは一味違うんだぜって手腕を見せてほしいところですよ! 2023年ですから!

続)綾様が竹雄と何かしら契約関係を交わして「やっぱこの男を選んで失敗したな」と思ったら竹雄を離縁して槙野本家から追い出せばいいので、いいぞいいぞ強いぞ綾様どんどん好きにやれ、と安心して観てられけど、おまつさんが文太さんについて文太さんの田舎の温泉宿で要介護老人の世話する女房になってから「やっぱこの男を選んで失敗したな」と思うような出来事が一つでもあったらそれはマジでやりきれない話になるので、ハラハラしてしまう、現代なら「そんなの文太さんが働きながら通える範囲の施設でも見繕って老親入れて面倒看ろよ、おかみさんも悪いようにはしないよ、晩飯のおかずの心配はすんなよ」と言えるけど、時代が違うので……。

2023-06-19 https://bsky.app/profile/okadaic.bsky.social/post/3jyk5hjubwi25

『らんまん』第13週まで。いやぁ綺麗な前半着地でした。祝言までで半期使うとは思ってなかったが青春物として終えるにはいいペースか。松坂慶子の老け演技も素晴らしく広末涼子が全部持ってった。あと竹雄の既視感は『エリザベート』でしたな、「闇酒? 作ればいい! 滅ぶなら滅べばいい!」「おまえの選択肢奪う代わり活きた女蔵元のおまえに欲しがられたいんだ~」こ、これはめんどくせえ婿……!と私は思うが大好物の視聴者も多かろうことはドル箱ミュージカルが証明済。NHKでここまで反・血統主義をやってくれると清々しいね。「まだ病の出ていない若い枝を接木して時代遅れの老木には天寿を全うさせましょ」人類もコレでいきたいよ。

続)ゴメンで済むなら本家分家の確執も要らんやろと思わんではないのだが、しかし土佐みたいな土地柄のああいう大店のお家柄(偏見)を舞台に型破りな若様を主人公とした新時代へのお家リニューアルのクロージャーを誰に務めさせるかって、やっぱり男の家長が考えを改めて手打ちにするわけにはいかず、女の大奥様が分家の男どもを組み伏せるためにあれほど頭を下げんと朝ドラでさえ話がまとまらんのだなと絶望もしたし、そこからヤマザクラが爛漫に咲くまではここから百年以上つまり現在までかかる、この展開でリアリティがどうとか文句言う年配の現代視聴者にはもう滅んでもらうしかねーな、と思えるよい話でしたね。まだ病んでいない若い接木。

続)綾様におかれましては今後も「飲んだくれるときはー! 選んだ相手と! 飲んだくれたいときに! 好きな盃で! 飲んだくれるならー! 命果てるその刹那も! 独り飲む、竹雄の前でー!」とやっててほしい。デレるのは臨終直前だけで大丈夫です。「本当は木登りしてた幼い頃から竹雄が好きだった」とかそういう設定は全然要らんので、生まれてくる時代が早すぎたアロマンティックアセクシュアル女蔵元 with 闇の中から見つめている最強ストーカーというトップコンビのままでフィナーレ迎えてほしい。
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続)お寿恵ちゃんも「実家と縁切って二人きりの家族になるからにはごはんだけは一緒に食わにゃあ! ごはんをおろそかにする奴とは家族になれねえ!」という、え、もしかしてわたくしのエッセイを読んでくださいましたか……? となるようなエピソードを新婚早々に挟んでくれて素晴らしい。東大植物学研究室の面々に「ここまで寝食忘れるようなワーカホリックでないと世界レベルの研究は成し得ないんだ、自分にできるのか?」というあの金言を吐かせた後、お寿恵と竹雄と綾が「なんぼ秀才の学者様か知らんが睡眠時間と食事を削る働き方はバカの所業、長期的視野では命縮める愚策、ダメ絶対!」と強烈なメッセージを放つという順番もよかったよ。

続)書いても通じない視聴者も多かろうが。おまつとお寿恵が「嫁いだら他家の者」「私は一生おっかさんの娘」と言い交わすも、その根拠は血縁の有無でなく「毎日欠かさず一緒にごはんを食べてきたから」で、その理屈なら養女だった綾もとっくに槙野本家の娘。かつて姉様とは結婚できないと拒んだ万太郎も寿恵と同じ家族観を共有している。新郎祖母は「お武家のお嬢様を頂戴するとは」と旧式の礼を尽くすが、妾だった新婦母は「これだけの大店を捨てた男は持たざる者とは別の苦労をするだろう」と案じつつ門出を祝う。「生涯の同志と家族を作る」二人を自由にすべく、13週かけてイエを捨てさせ、血統主義に明確にNOと言ったんですよ、本作は。

続)あ、また血統主義って書いちゃった。まぁいいや。より正確には「純血主義」でしょうけど口に出すのも嫌な言葉って頭がつい避けてしまいがちですよな。伝統と格式を重んじる造り酒屋の「滅ぼしたくない」よき側面だけを取り出して、祖母から孫娘へと一足飛びに譲り渡すついでに強制的に時代を変えさせる、変わった先に我々視聴者が居るのだからしのごの言うな、と組み伏せるいいプロットだと私は思ったのだけど、まぁ日本全国が観てるドラマですから、神話の時代から天皇家が一度も絶えたことがないと信じてるような人らは別の感想も抱くんでしょうな、無視無視。NHK、ニュースとドキュメンタリーが虫の息でもドラマ班は頑張ってほしいね。

2023-07-01 https://bsky.app/profile/okadaic.bsky.social/post/3jzhsoiman22x

改めて考えると『あぐり』との共通点が多い。時代風俗が大きく変わる様子を地方と東京のコントラストも交えて群像劇として描くのは鉄板だし、万太郎&寿恵子の造形は「エイスケ&あぐりからあの無駄にハラハラさせられるダメなとこを全部取り除いた」カップルとして、推せる作りなのであるなと思う。苦労もするけど基本的に小さな困難はお金で解決できて、学歴は無くとも文化資本と教養は身についていて、だからこそ夢を追うことができる、という。そういう朝ドラが好きなんですよ私は。

その理由について1997年当時に考察した結果をそのまま書くのだけれど、実在の人物をモデルにした歴史物ドラマは何をどう足掻いても変えられない史実というのがある。「あぐりは女学校中退」「マキノは小学校中退」などだ。ここから「しかし大成した。この主人公は一般論を超越しているから学歴は関係ないのだ」という結末に繋げるために、どれだけ架空のエピソードを盛り込めるかがドラマ脚色の腕の見せどころ、「二次創作脳」の発揮しどころ。視聴者もそこを見極めながら、上手いと喝采を送ったりマズいと批判したりする。『あぐり』においては「他の内弟子に比べて英語が堪能で裕福な外国人得意客を握れること」がちゃんと独立起業の顛末に絡められていたし、『らんまん』では「ワシには(今から東大に入学し直す)時間が無い!」というあの天才特有の異様な焦燥感を、幼少期の「母の臨終に間に合わなかった」エピソードの強烈さで納得させている。

冷静に考えたら植物学者になるためには学歴はあったほうがいいに決まっているし、大店の当主なら普通は大奥様が小学校くらい卒業させるはずだし、「大図鑑が作りたいから」だけでは筋が通らないのだが、しかし、創作子役の名演技に泣かされた身としては「母はバイカオウレンの名も知らずに死んだのだ」「標本作れて論文書ける神童なら文句ないだろ」と言われたらその狂気描写には黙るしかない。妻は妻で「きゃー、どうしよう、馬琴先生(みたい)だー!」で片付けるオタクなのもすごい。てか、実際に実在するんですよね、ああいう天才とその伴侶。私も大人になるまで見たことなかったんだけど。

かたや、ただ勉強ができて英語が得意だからと東大進学した波多野が「万さんを見てたら、怖くて」「人生って思っていたよりずっと濃くて、たくさんのものが入る器なんだな。その器をパンパンにしていくことが生きるってことなのかなって」「探したいな、僕の一生をぱんぱんにできる仕事」と言う回も素晴らしかった。君こそが俺たちの感情移入装置だ。結局この朝ドラは、小学校中退の主人公を使って現代視聴者に「学歴は大事、だけど、学歴だけあってもダメなのよ」……ではなくて、むしろその逆……「このままでは自分は何者にもなれないかもしれないという焦燥を抱くに足る豊かな想像力を身につけるためにも、天才でははない我々凡人には高等教育が要る、つまり学歴はめちゃ大事!!」と説いている、と思う。少なくとも私が小学生なら「やっぱり小学校くらいは出ておかねーと将来どこ行ってもクソめんどくせーことになるんだなー」との教訓を持ち帰って、登校日数ギリギリくらいは稼ぐと思う。教育効果が高い。

女性描写についても得点高いですよね。「ただ知らない世界を見たいだけなのに、なんで男の人の話になるの?」とか「自分の機嫌は自分でとる、男に縋りつかなくとも生きていける女になる」とか、朝ドラでこそ言ってほしい台詞が満遍なくちりばめられた上で、クララ先生の「今ここにいない人、でも、心(ここ)にいる」という言葉から空想世界で踊りはじめるトップコンビ二人に泣いてしまった(トップコンビ?)。あの場面の「寿恵子という冒険心旺盛な若い女性がひとりで夢に描く、現実よりもちょっとだけ美化された、黙って笑って一緒に踊ってくれる万太郎」の姿。あれが、女性主人公設定の朝ドラではなかなか描きにくい、朝ドラで観たい「夢」の主人公像なんだよな。史実や現実と乖離しすぎててもいけないけど、フィクションだからこそ、その夢への架け橋が実現できる。私が朝から観たいのは、そんな二次創作の「橋」なのだ。


2023_NHK_Ranman