ザ・インタビューズ転載日記(美術館)

おすすめの美術館を教えてください



まずはじめに、美術館というのは、さまざまな要素が組み合わさって出来上がっている存在だと思います。展示内容やキュレーション、積み重ねられてきた歴史、建物そのものが持つ雰囲気や居心地のよさなど……。総合的に判断して具体的に選ぶのって、ものすごく難しいですね。残念ながら即答できないので、思いつくまま列挙します。

キュレーションで挙げるなら、東京都写真美術館でしょうか。高校生のときワークショップに参加して以来、一時期スタッフの皆さんになつきまくって学芸員室に潜り込んだりしていました。いや、別に、だから言うわけではないんですけれども……。学芸員や広報が具体的にどんな仕事をするものなのか知ったのはこの美術館を通してです。写真一つにテーマを限定しても発想次第で無限に展示を架け替えられるし、歴史を繙く展示と現代作家の展示をバランスよく配していて、時に資料館や画廊のようでもある。ここに通いつめることでいろいろなアイディアをもらった、特別な場所ですね。

積み重ねられてきた歴史、ということで言えば上野の森ですかね。東京に生まれ育って今も昔もずっと「世界にふれる窓」のような場所です。東京都美術館があるし、国立西洋美術館や上野の森美術館もあるし、いや、でもじつは東京国立博物館と国立科学博物館のほうが好き……。そうなんですよ、ルーブル美術館にしろ、ヴァチカン美術館にしろ、スミソニアン博物館群にしろ、まだ行ったことないけどいつかそのためだけにあの国へ行きたい大英博物館にしろ、常設展示の規模と物量で圧倒する大博物館が好きで、どれも所謂アートミュージアムじゃない。我ながら旧時代的で片腹痛いのですが、「世界中のカッコイイものを集めるのはヒーローの義務なんだぞ!」(※『ヘタリア』のアルフレッド君の声でお読みください)的なノリの博物館のほうが好きです。本当すみません。

建物そのものが持つ雰囲気、というのは、東京都庭園美術館や、原美術館や、根津美術館のように、ぶっちゃけ企画展示に何かかってたって行きたくなったら行くタイプの場所ですね。あとグッゲンハイム美術館の、美術鑑賞しようにも建物自体の個性がうるさくて落ち着かない感じとか。ライトたんギザモエス。それから、幼い頃、砧公園でどろんこになって遊んだ後に親に連れられて出来たてホヤホヤの世田谷美術館へ入って、ひんやりした空間で「ここでだけは居ずまいを正さねばならない」と強烈なテンションかけられながら展示品を見ているときの感じなども、「美術館」なる言葉から想起されるとても強いイメージです。子供を美術館へ連れて行くって大事なことですねぇ。

個人美術館の類いで思い出すのは、人に薦められて行ったギュスターヴモロー美術館。自宅をそのまま使って遺言通りに作品を展示してある、そのアホみたいな完璧主義っぷりが素敵でした。でも作品の一つ一つが熱烈に好きかというとそうでもない。一方、同じパリのピカソ美術館などは単にピカソ作品が好きなだけで、館そのものが面白かったわけではない。あ、川崎市藤子・F・不二雄ミュージアムは、そのへんのバランスが素晴らしいですよ。一見アミューズメントパークのようなんだけれど、遺族たちの故人とその作品への愛が細部に至るまでひしひし伝わってきました。もっと作家本人の所蔵品が見たいとか贅沢を言うとキリがないですが、時代に合わせてリニューアルしながら存続していったら素晴らしいよなぁ。他にもあんな美術館があったら、訪ねて行きたいです。

最後に、全部ひっくり返すようなこと書きます。ローマを旅行中どうしても「聖テレジアの法悦」がこの目で見たくて、そのためだけに行程をねじまげてサンタマリアデッラヴィットーリア教会へ行ったんですが、あれは同じ時間を使ってどんな美術館をツアーするよりもずっと贅沢な体験でした。あのときのことを思い出すと、画廊や美術館というのは、あくまでただの箱なんだなぁ、と考えてしまいます。もちろん、美しい箱そのものがお気に入りになる、箱を手がけた人に惚れ込む、ということもあるだろうけれど……少なくとも私は「美術館そのものが」好きで熱烈におすすめしたいってことは、ないのかもしれないですね。結局、選べませんでした、はい。