ザ・インタビューズ転載日記(かっこいい)

街を歩いていました、すれ違いざまに見知らぬ人から「かっこいい」と言われました。そのときの行動描写を添えて、正直な気持ち教えてください。

 この老人(↑)と、『へうげもの』の丿貫を、足して二で割ったような顔でした。目はどこも見ていなかったです。


この老人(↑)と、『へうげもの』の丿貫を、足して二で割ったような顔でした。目はどこも見ていなかったです。



ああ、私、これ実際に言われたことあるんですよ!! すごく印象的な体験でした。そのときのこと、その場でTwitterにも書いたのですが、今ぐぐっても出て来なかったのでログが消えてしまったのかもしれません。

いま住んでいる町に引っ越してきたばかりの頃だったと思います。その日は取材か何かの仕事があったので、白い開襟ブラウスに黒のパンツスーツという、自分で言うのも何ですが、キリッと決めた感じのいでたちで出勤途中でした。少し遅刻気味でして、靴のかかとを鳴らしながら最寄駅へ向かって大股でガツガツ歩いていたのです。

そこへ、電動車椅子だか、電動三輪車だかに乗った、枯れ木のように痩せ細った老人が、モーター音を響かせながら道の向こうからすべるように近づいて来ました。ちらと視線の端に捉えたその表情は、矍鑠としているというよりは、やや恍惚の人に近い感じでした。自分のことを一瞥した見知らぬ私のことなど意に介さずといった様子で、いや、私だけでなくすべての外界から心を閉ざした感じで、ぼんやり虚空を見つめて、アスファルトの起伏にガタガタ揺らされながら、その電動車椅子に運ばれて私とすれ違った瞬間、

その枯れた老人が、抑揚のない乾いた声でぽつりと「かぁーっくいーい!」と呟いたのです。

私のほうへ目を合わそうとはせず、しかし、間違いなく、すれ違いざまに見知らぬ私だけに向かって、ささやきかけるようにそう言ったのです。その刹那、あまりにも驚いて、立ち止まることもできませんでした。むしろ、なぜだか、絶対に動揺を見せてはいけない、歩みを止めてはいけない、そんなことをすると絶対に取り返しのつかないことになる気がして、内心ドキドキしながらも、ガツガツ前へ前へ歩いていってすれ違いました。十分に距離を取ってから、冷や汗をかきながら振り返ると、やはりその老人は、自分で操作しているようには到底見えない電動車椅子に運ばれて、まっすぐの道をまっすぐに、ガタガタと揺れながら遠のいていきました。

「かぁーっくいーい!」……たった一言で、漫画『童夢』の世界に迷い込んだような気分でした。炎天下だったこともあり、本当に一瞬、あの大友克洋の描く白黒の平面世界に焼き付けられたような気持ちになりました。悪い白昼夢のような、しかし、現実です。ずっと同じ駅前に住んでいますが、その老人を、二度と見かけたことはありません。街を闊歩して男たちにヒューと口笛を吹かれたら「惚れんなよ!」と笑顔でウィンクの一つも返す、そんなイカした女でありたいな、なんて頭では思っていましたが、まさか、あんなに、SF的な意味でゾッとする体験として我が身に降りかかるとは……。あれはいったい、何だったのでしょうか。じつに忘れがたいです。実話なんですよ。

正直な気持ち、「え、なんでこの質問者は、あの出来事を知ってるの!?」と、今も過剰にドキッとしたくらいです。……偶然……ですよね……?