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ザ・インタビューズ転載日記(物書き志望)

物書きになりたいですか



わたし知ってるんですけどね、他人に対してこういう質問をする人は、じつに9割以上の確率で、ご自分が「なれるものなら物書きになりたい」という想いを持て余していらっしゃる人なんですよね。私が文筆を生業としたいかどうかなんていう文字通りのことはどうでもよくて、ただ相槌を聞いて「ほらやっぱり、あなただってそう想うでしょう?」と、ご自分を納得させたいのだと思います。とくに「どうして編集者なんかやってるんですか? 自分で小説を書かないんですか?」と訊いてくる人たちからは、ご自分が潜在的に小説家志望なんだろうな、という印象を受けることが多いです。そうでなければ出版業界内の暇潰しの雑談ですかね。採用面接で時間が余ったときとか。

これは昔ちょっと書いた喩えなんですが、週末の動物園の入口で今まさに入園しようとするお客さんたちを捕まえて「今日はどうしてディズニーランドに行かなかったんですか?」と質問しても、多くの人が「パンダとキリンを見たかったので」とか「子供たちとの前々からの約束でしたからね」とか答えると思います。そこであなたが「本当はディズニーランドに行きたかったんでしょ?」「だって、週末に遊びに出かけるなら動物園よりディズニーランドのほうが絶対いいに決まってますよね? こんな晴れた日曜日には、人間誰しも、ディズニーランドに行きたくないわけないですよね?」「今からでも行けばいいのに! ディズニーランドに!」と訊き続けても、ほとんどの人には「いや……?」と訝られるだけだと思います。

もちろん、ごく稀に「そうそう、ディズニーランドがあまりに混んでたので諦めて、こちらの動物園に来たんですよ」という人や、「じつは、次の休みには恋人からせがまれてディズニーランドへも行くんですよね、えへへ」と答える人もいると思います。「あんなところは大嫌いだから絶対に行きません」という人もいるでしょうが、大抵は「いやー、ディズニーランド、いいですよね、夢と魔法とアトラクションにパレード、どれも動物園にはないもので、楽しくて。行きたいなぁ。だけど今日は動物園に来ましたから、獣のウンコの臭いも含めて、めいっぱい動物園を楽しもうと思いますね」といった回答になるのではないでしょうか。だって、取材場所が動物園の前なんだもの。

さて、喩え話はこのくらいにして、実際の回答ですが、どこかで好きに文章を書いたらそれに対して原稿料がついて毎月お給料以外のお金が振り込まれてくる、というのが「物書き」の意味するところであるなら、いやー、とてもいいですよね、是非なりたいです。新聞記者や職業ライターには全然向いていないと思いますが……。たとえば同人活動が好きであれこれ続けているのだって結局は、自分が書いたり描いたりしたものをわざわざ代償を払ってまで能動的に読んでくれる人がいるのが嬉しい、すなわち、お金が嬉しい、ということだと思います……少なくとも、私はそうです。やっぱり時代は有料メルマガなんでしょうか?

しかし、そうと決まれば、嬉しいお金ももらえないのに、こんなところに無料で長文を載せている場合ではありませんね! すべての書き物をやめて、一文字一文字からお金を絞り取れる仕組みに切り換えましょう、何なら今、これを読んでいるあなたからだって、即、ケツの毛まで毟り取りたいくらいです。でも、たとえば今ここに投げ銭システムなどを設置したところで、こういう質問をしてくる人は、まず私の書いたものにお金を払ってくれることはないだろうな、とも想像がつきます。無料だから読んでいる。そんなあなたがたの財布の紐のかたさを鑑みると、なりたいと思うことの簡単さとは裏腹に、生業にするのはなかなか難しそうですね。がっかりです。