ザ・インタビューズ転載日記(得意料理)

得意料理を教えてください



自炊はほとんどしないので、自分で食べるための料理は作れても、他人様にふるまう類の料理はからきしダメです。ましてや得意料理などと豪語できるものなどありません。「電子レンジでさつまいも蒸かすの超得意!」とか「肉抜きでも肉じゃがっぽい味を出すの超得意!」とか、あるいは「カレー! あたしのカレー超うまいよ! 二度と同じ味にならないけど!」みたいな話になります。おそらく世間的には、そういうものは、得意料理とは言わない。

数年前、就職直後の頃などは、レシピ本など見ながら自宅であれこれと一人分の料理を作ることを楽しんでいたのですが、その後、創意工夫が過ぎた結果、保存のきく乾物だけでおかずを作るようになったりして、生野菜などの傷みやすい食材を冷蔵庫に常備しつつも賢く消費するという頭の使い方を億劫がるようになり、そしてつい最近、いつぞや寒い季節に陶製のタジン鍋を買ってしまったのが最後通牒でした。タジン鍋があると……買って来た肉も魚も野菜も何でもその日のうちにぶちこんで一時に蒸して一皿のおかずに仕立てて腹一杯になるまで食べてしまうので、料理らしい料理をまったくしなくなります……ハッと気がつけば冷蔵庫にあるものあるだけすべて無意識に蒸すようになっていて、またどれも無駄に美味しくヘルシーであるので、煮たり焼いたり炒めたり、といった手料理の醍醐味とも言える発想の自由が、じわじわと奪われて行くのです。そうして毎日のようにラーメン二郎で言うところの「ヤサイ」に相当するような代物を量産して黒酢たまねぎドレッシングかけて食べる生活が繰り返されていくのです。おそろしい……独身女の婚期を遠ざける、悪魔のような調理器具やで……うち、サラダ油を置かなくなってどのくらい経つんだろう。