2016-02-19 / 隣の芝生は明るい

寝落ちしてしまった。今週は本当に寝てばかりだった。買い置きのベーグルで秒速の朝食を済ませている間に課題を印刷、慌ててアパートメントを飛び出したら、何もない歩道で犬の散歩を避けようとして盛大に転ぶ。両手と膝をすりむいて、すっげー痛い……ずべべと地面をこすり一気に毛をむしられてボロボロになった手袋でコートの裾を払う。Timの講義1コマ。課題6の簡単な講評をした後は、残り時間ほとんどすべて課題7の自習状態だった。教室で学生ずらりとノートPCを広げて黙々と作業、というのも息が詰まるもので、家に帰って一人でやりたいなぁと思う。いや、それで寝ちゃうんだけどさ。休憩時間に学食で買ったコーヒーのあまりの不味さに驚く。デフォルトが不味いのにはだいぶ慣れてきたんだけど、同じポットから出てくるコーヒーの味がいつも安定しないのはマジ勘弁してほしい。

今日は2限のファッションデザイン学科のドローイングワークショップに参加。とても楽しかった。履修生は大半がファッションデザイナーを目指す学生たちで、モデルもいわゆる文字通りファッションモデル体型の女性が立ち、分刻みでどんどん、いわゆる文字通りファッションモデルとしてのポージングをしていく。慣れている学生は、自分で好きな画材を持参して黙々と描いていて、大半がスタイル画の基礎になる人体模型的なフィギュアをばんばん量産する感じ。デッサンの基礎ができていない学生には、講師が人体構造を箱(骨)と流れ(筋肉)でざっくり解説して指導。デザインとファインアート系の学生はさらに放任で、ほとんど何も言われない。私はクロッキー、水彩絵筆で描いてる子もいる。

ファッション画というのは、普通のイラストレーションとはまるで違う。講師のKichi先生からは「これはファインアートじゃない、見たままを描くな」「自分のスタイル画のプロポーションは自分で決めろ」という指導が飛ぶ。8頭身モデルを見ながら10頭身を描け、というわけだ。なんでそんなに頭や尻をでかく描く必要がある? 実際の女体についてる肉のヴォリュームなんか我々の画には要らないんだよ、という話。彼らファッションデザイナーに求められるのは「服のイメージを捉えて描く」ことや「それがどんな服かを他者に伝える」画法なので、「人体が動いてできる衣服のシワや影は極力描かない」んだって! すごく興味深かった。たとえば私がモデルに立たされて、「彼女の服をどう描く? どこから描く? 胸と肘のところにできてるシワは彼女の体型由来であってこのニットの特徴ではないよね? 同じ服をもっと痩せてるモデルが着たら? 誰が着ても変わらないこの服の特徴って何? そう、タイトなシルエットであること。まずそこを捉えないと!」という調子。あるいは雑誌の切り抜きを見本に「Front, Side, Back, 3/4, that’s all you need!」と4類型のメソッドを叩き込む。骨格と関節を勢いのある曲線でつないだら、そこにガシガシ服を着せていく。講師が描く手順を見ていると、服の構造が手に取るようにわかるし、ガリガリに痩せたモデルがダボっとした服を着ている姿でも、ビシッと重心が決まる。なるほどー!

聞きかじった話をちょこっと真似して描いてみると、いつもの自分の描線が、徐々に永野護っぽくなっていく。おおお、なんと自然な10頭身! まるでバランシェファティマ! そして、展覧会でガラスケースに陳列されている著名なコスチュームデザイナーたちのあの、うまいのか下手なのか正直よくわからなかったスタイル画が、とても優れた「設計図」兼「完成予想図」だったことがわかる。また、人体をササッと描くのが早くなると、与えられた残りの時間をすべて服に費やせるわけで、肉体の描き込みが疎&服の描き込みが密、という一見アンバランスなバランスに落とし込まれる。あっこれ中原淳一だ、そうか、こうやって情報量や描線をコントロールして服に目がいくようにするのか! と気づく。

とはいえ、私はグラフィック科なので、周囲がプロポーションを模索するなか、ほとんどの時間は一人だけ嬉々としてムチムチのお尻のヴォリュームとか腰のくびれとか鎖骨のラインとかばかり好き勝手に描いていた。色をつけるのが苦手なんです、とこぼしたら、どっさりマーカーを貸してもらえて「どんどん塗れ、見たままでない色でも塗れ、ブロッキングしていけ」とけしかけられる。無心で2時間半。ずっと囚われていた「写実的に細密に見たままを描くべし」という強迫観念からパーッと解放されるのが気持ちいい。それでいて「肩に対する首のつきかたがおかしい」といった指導はビシバシ受けられるのもいい。ファッション学科の履修生たちは明るくて仲が良さそうでとても雰囲気がよかった。グラフィック学科がネクラということもないけど、みんな課題に追われて講評に疲れ果て、勝手知ったる同士だからこそ必要最低限の会話しかしない。常連の学生とモデルとがぺちゃくちゃおしゃべりしながら進むドローイングの授業というのは、結構カルチャーショック。しかしまぁ「見て見てこれ、今日の服、私が作ったの! お気に入りは裏地なの!」まではわかるけど、私まで「あなたのスカート素敵ね、is this yours? 自分で作ったの?」と訊かれてビビる。同じ学校なのに常識が違うなぁ。そんなこんなを楽しみたくて、また参加すると思う。

#sketchbook

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夜は「DARK MATERIALS」というファッションフィルムのパーティーへ。非常にスタイリッシュな映像作品のお披露目だったのだが、HAYES BROSの二人が気さくすぎフランクすぎてギャップが可笑しかった。ストーリー性を感じる本編はもちろん、壁面にプロジェクションされる縦長のさらに短い映像が、いつまでも見飽きない。客のためだけに回り続ける人魚を閉じ込めた水槽があるみたい、そんな見世物小屋っぽさとモードな雰囲気とが融合している。作品自体とても綺麗で俺好みだったのですが、もとの音楽もよかっただけに、途中からクラブイベントに切り替わったのが良いのか悪いのか。

作中のファッションデザインを手がけた小西翔くんはもちろん、西島大介さんからご紹介いただいた篠原唯紀ちゃんともようやく会えて嬉しかった。最初の作品上映だけ観て帰るつもりが、爆音の中、時間を忘れてすっかり話し込む。毎日を学校の往復だけで過ごしていると、今までの仕事と今していることをどう結びつけるか、といった近視眼的なことばかり考えて焦ってしまうのだけれども、「こちらに来てやってみたいことが増えた、変わった」というさまざまな人たちの話に大層刺激を受ける。そして「作ったもの見せてください!」と言われてもろくなプレゼンができなかったので反省。ちゃんとポートフォリオまとめておかないとな。

Dark Materials – fashion film party, work by Hayes Bros + Sho Konishi.

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そういえば、HAYES BROSのどちらかが、誰かに映像の説明をしながら、「It’s all us. All you can see on screen is us. Even music.」みたいなことを言ってたのが、かっこよかった。いや服は小西くんだろ、とかは思うんだけど、「おまえの目に映るすべてのものが俺たちだ」って、なかなか言えないけど、ドヤ顔で言わねばならんセリフ。