岩代俊明『みえるひと』4巻

 初めて週刊少年ジャンプ連載で『みえるひと』を読んだのは、「ツキタケいじめたろ」の回(3巻末所収)だったと思う。その週はジャンプを立ち読みする時間すら取れず、駅売店で買って電車移動中に端から端まで読んだのだ。何の前提知識もなくいきなり主人公不在の戦闘場面を見せられたのに、なぜか面白くて、繰り返し読んでしまった。すぐに既刊を2冊買った。そして数年ぶりにジャンプをこまめに購読する日々。

 本日発売の4巻は、白明神派の私もさすがにときめくガクリンのオン・ステージ。副題「犬塚我区」ときましたか。ツキタケとエージもかわいい。轟宗之助も好きだしアニマたちも大好き。書店でしばし表紙画に見惚れたものの、ちょっとポーズがテニスの王子様の敵役みたいだよな、と思ったら笑いが止まらない。味方なのに。

みえるひと 4 (ジャンプコミックス)

みえるひと 4 (ジャンプコミックス)

 管理人で元ヤンの霊能者と同居人で死人の理系ストーカーに挟まれて、超絶かわいい女子高生ヒロインが求婚されたりお姫様だっこされたり大人の男たちを叱り飛ばしたりナデナデしてあげたりしてかわいい(二度言った)、逆・めぞん一刻的な下宿モノ。つまり「川原由美子『前略ミルクハウス』の幽霊屋敷版」とでも言いますか*1。若しくは、「『魔人探偵脳噛ネウロ』を小原愼司『菫画報』とした場合に、『みえるひと』は黒田硫黄『セクシー ボイス アンド ロボ』である」とか。

 登場人物は誰もが世間に居場所のない者たちで、“みんなで一緒に家へ帰る、そしていつまでも平穏に暮らす”ことを希求している。萩尾望都の一連の作品や獣木野生『PALM』シリーズに代表される「擬似家族モノ」に分類してもよいのだろう。と、書いてる私が擬似家族モノの漫画が大好きというだけだが。あらすじについてはWikipediaでも読んでくださいね。

 あらためて、伏線の張り方が絶妙。連載で読むと唐突な感じもした白明神の成長過程や桶川雪乃の登場も、通読するとさほど不自然ではない。バオにとどめを刺さなかったのは、すっかり忘れてた! それでアズミとの出逢いに感動させられるのだから唸るしかない。短い台詞の端々に潜む伏線を後から発見するのが面白いし、とはいえいつでも収束できる程度の小風呂敷にとどめているのが巧い。今そこにある打ち切りの危機が、この漫画の緊張感を保っているのかも。もとから霊威の高いお狐さま・コモンを倒したら、突然変異で超常能力を持った普通の動物たち・パラノイドサーカスが控えていた、黒明神たち先代が弱かったのではなく桶川雪乃の霊力が強すぎただけ……という敵側のレベルアップもすんなり行く。今のところ“力のインフレ”とは無縁だ。

 そして、戦闘場面がご都合主義だったり主人公の影が薄かったりすることすら、王道少年漫画の証と思えてくる。物足りなくなるほど言葉少ないダイアログから引き出す最大限の心理描写もお見事。小刻みにテンポよく語られる「過去語り(回想)」は、長尺でドラマチックに展開させる『ONE PIECE』のそれに、優るとも劣らない*2

 何より、絶滅危惧種となった「まっとうな少年漫画」を、愚直に愚直に描いている点が素晴らしい。何を「まっとう」とするかは意見が分かれるだろうが、シリアスとかスポ根とかギャグとかお色気とか単純にジャンル分けされない、余計なメディアミックスを目論んだりあざとく腐女子ウケを狙ったり死神に出席番号みたいのがついたりしない「ただの少年漫画」だ。ラブコメ要素が強く打ち切り寸前で復活したあたり、なんとなくいつも鈴木央『ライジングインパクト』*3を連想する。終盤にかけて破綻してしまったライパクの分まで華の大団円を迎えてね、なんて思ったり。

 今のジャンプは面白いですよ。つい数月前まで『ONE PIECE』『ネウロ』しか読んでなかったのに、最近は、ほぼ毎号買って、買うと全連載読んでしまう。打ち切ってほしい作品がとくにない。贔屓の『ネウロ』『みえるひと』『謎の村雨くん』は、どれも人気が発展途上で安泰とはいえない掲載位置にあり、毎号ハラハラしつつも応援が楽しい。大人になるとおしなべてマンデーはブルーなものだが、ここ最近まるで小学生のように月曜日が待ち遠しいのは、いいことだと思っている。

*1:だとすると涼音ちゃん=白明神で、藤くん=ガクリンなのか。

*2:読み切り作品『狗童』も短編なのにキャラクターの背骨がしっかりしていて面白かった。単行本化切望!

*3:ゴルフ漫画の皮をかぶった少年誌ラブコメの金字塔。気になるのは、友情より努力より勝敗よりも、恋の行方。