青いエアメイルに滲むクレヨン

 年の瀬のせいにはできない、この胸の空白。からっぽだけど、白というより漆黒。さて、NHK『おかあさんといっしょ』に、クレヨンの唄があります。この唄を聴くと、というか脳内リピートすると、私はいつもとても哀しい気持ちになります。

   ♪ どんな色が好き? 赤! 赤い色が好き
いちばん先になくなるよ 赤いクレヨン ♪

   ♪ どんな色が好き? 青! 青い色が好き
いちばん先になくなるよ 青いクレヨン ♪

        (中略)

   ♪ どんな色が好き? 全部! 全部の色が好き
みーんな一緒になくなるよ 全部のクレヨン ♪

 せつないでしょ。哀しいでしょ。好きなものは、いちばん先になくなっていくのです。そして大人なら誰しも、最後の節の欺瞞に気づくはず。いくら「みーんな一緒に」と取り繕おうが、そこにはいつだって厳然たる「好き」の順番があって、「好き」の序列があって、整然と並べられた箱の中から手にとったそのクレヨンの減りを見れば、自分の正直な気持ちに気づかざるを得ないのです。

 どれが好き? どれがいちばん好き? いくら自分で自分に嘘をついてみようと、両想いだろうと片想いだろうと、周囲から何を言われようと、「好き」は「好き」のまま「好き」として、磨耗し、疲弊し、使い果たされていきます。想いが強ければ強いほど、人は身を削り、気持ちを抉られ、それでも、全部なくなるまで「好き」な色で画用紙いっぱいに絵を描く。いつまでも幼い子どものような私たちは、その行動を止めることはできない。

 「好き」は、それを選び取った瞬間から、少しずつ、少しずつ、失うことが定められています。「好き」なものは、「いちばん先になくなって」いくのです。さあ、しかし、ここで追い討ちをかけるように、松任谷由実「青いエアメイル」を聴いていただきましょう。玄関先、たった数歩分だけの舞台装置で宇宙の真理を謳いあげた壮大な曲です。

   ♪ 選ばなかったから失うのだと
悲しい想いが胸をつらぬく ♪

 そう、選ばなくても失うのです。あえて選ぶ、むしろ選ばない、さあ、あなたなら、どちらにいたしますか。

 お弁当の中で、好きなおかずは最後まで残しておくタイプの私。いちばん好きな色のクレヨンを、最後の最後までもったいなくて使えずにとっておいてしまう私。でも一方で、ヤなことだって全部、先送り。好きでもなく嫌いでもない目先のことばかり扱って、毎日を過ごしています。ああ、せつなすぎて歩けない! そんな私の負け惜しみの捨て台詞は、いつだって

   ♪ けれどあなたがずっと好きだわ
時の流れに負けないの ♪