日記に書いたせいだと思うけど、朝起きたらMacBook Airの「起動」がおかしい! マジかー! 途中でかたまることはあっても起動しなかったことはなかったのに! もう笑うしかない。つねにDropboxつなぎっぱなしで手元で作業したファイルも終わるとすぐDropbox行きを習慣づけており「バックアップを取る必要がないマシン」というのが売りだったのだが、さすがにやばいな、と思って散らかっていた作業途中のものいろいろ退避させる。本体容量食ってるのはほとんどが写真と音楽で、こちらはiCloudにあるから大丈夫……と思いたい……。このところChromeとAcrobatがまともに終了したことがなく、たぶん原因はその辺りなのじゃないかと。あとはやはり寒さか、石でできてるキッチンカウンターに放り出したまま寝たのがいかんかったのかな、とキャリーケースを座布団のように敷いて再起動かけたり、塩をまいたりして(嘘です)、さまざまなおまじないを唱えておく。
フォトリソグラフィのMartinにアポ入れて、別の授業が始まる前にラボで使用画材について相談。彼にとっては「手のかからない子」に分類されているようで普段はやけにニコニコ接してくれていたのだけど、授業外で初めて個別に質問に行ったら「あれっ、こんなに英語話せない子だったっけ……?」という顔をされる。そして授業で言ってたのと同じ基礎的なことを3往復くらい身振り手振りで手取り足取り教えてくれるんだが、違う違う、そうじゃない、訊きたいのはそこじゃない、そこは授業で聞いて全部理解してるんだ、教わらなかった上級テクニックを試したくて相談してるんだよ……というのが、なかなか伝わらない。うーむ、俺の能力も低く見積もられたものだな。咄嗟のスピーキングが拙いとその他の能力まで低いものだと思われて「そこまでやらなくていいよ」みたいな扱いを受ける、この弊害がひどいので英語をちゃんとやらんといかんのです。まぁ画材の疑問は解けたので、あとは独学。二色印刷の際の分解能、とでもいいましょうか、カラーリングを版分けして考えるのが非常に苦手。いっつも思うのが、これ、音楽でいう「一音ずつの聴音はできても和音(コード)になるとさっぱり聴き取れない」というのに似てる。
Frankの授業はつつがなく終わる。「インフォグラフィックを駆使して好きな地図を作る」という課題で、学生たちの回答は「女体のタトゥーが人生の地図になってる」「物語舞台と主人公の顔相をレイヤーで重ねる」「創作キャラクターのポスターを組み合わせるとそれが脳内マップになる」などなど、とにかく自由。「俺の俺による俺のためのニューヨークLGBTQおすすめスポットマップ」とか「まず抽象画を描いて、そこから地図を読み取っていく」という子もいた。私が最初に思いついたのと同じ「近所で見かける犬たちの散歩経路をマッピング」や「学校までの通学路のバリエーションと快不快をビジュアライズ」を出している子も。それで私は佐藤研で出した企画「物語の標高」をちゃんとポスターかミニブックに仕上げる予定。講師からクラスメイトから、軽く引くほどの大絶賛を受ける。
異文化交流である。イラストレーション学部の子たちは、まず自分の絵ありきで考えている。すでに各自が確立した複数のスタイルがあって、こういう地図ならこういうタッチで描いて、こういう地図なら2年前にハマッたこの画材で描こうと思う、といったプレゼンテーションをする。経験値が高い。一方の私は「完成図のぼんやりしたアイディアはあるんだけど、どうやって描いたものか悩んでいる」つまり「商品企画だけ思いついた地図をどこかのイラストレーターに発注する、その役を一人二役で演じる)」という順番の、二番目のところで悩んでいる。みんなの意見が欲しいの、と言っても「何を迷ってるの? あなたらしく描けば、この地図はきっとうまくいくわよ!」的コメントしか来ないし、下手すると「とても素晴らしい企画ね……(これをもらって私が描きたいくらい)」のカッコ部分があからさまに顔に出てる子もいる。インスピレーションと称して他の作家の作品を持ってきた子もいた。「こういうタッチで描くつもり」と見せて、「でも、既存の作例があるのにこれより上手くre-illustrateができるのかね?」という講師の問いかけに、「Of course!」と答えるような。マジか。その自信どこから出てくるんだ。若さなのか。という調子で畑が違う。面白い。
本日のFrankの名言は、2案のどちらかで迷っている学生の前で、クラスメイト全員にどちらが好きかvoteさせて、投票結果がわかった途端に「Well… but Art is not democratic.」と氷の微笑。みんなで失笑。迷っていた彼が来週どっちを作ってくるか、楽しみ。
「とにかく、いろんな学生がいる」と身をもって知ることができるのはよい。一学期目に「Ikuは子供向けのものを作ってみるといい」と言われて、なんでだろう、と疑問に思っていた。英語ができないから大人向けは諦めろってこと? と気に病んだりもしていた。しかし「こいつの作風は明らかに子供向けじゃねーな」というクラスメートをたくさん目にすると、それに比べて私のものの考え方はずいぶん「全年齢対象」的なのだった。あと、普通に何か描いただけで「Sooo Cuuuute!!」とか言われる。アメリカ人に「cute/kawaii」は通じないぞ、と脅されていたのが嘘のよう。漫画文化に慣れた日本人の目から見るとそこまでカワイイもの描いたつもりはないのだが、「うん、でもあいつの作風はどう考えてもCuteじゃないもんな」という子と机を並べていると、こんなものでも自分の「強み」になるのかな、という気がしてくる。「好きな服」と「似合う服」が違うときにどちらを選択するか、という話にも似ているかもしれない。
夜は一人外食で、西安名吃が2Avに新しく出した麺の店、Biang!。もともと別の店で気になっていたのがあっという間に潰れてしまい、そしてまたすぐに埋まっていた。たぶんまだ日が浅いせいだろう、メニューにソフトドリンクしかない。このバイトの若い中国人女子が本当に英語がめちゃくちゃで、何を質問しても威風堂々とトンチンカンな返事を返してくる。「で、お酒はないのよねー?」「違います、我々の店は向こうの通りにありました。ここは新しい店です」「うん、新しいからリカーライセンスがなく、もう少し日が経ったらお酒も出せるんだよね? いつからバー解禁なの?」「ここは麺の店です、バーはありますが貴様は水を飲め。熱い茶は4ドルだ」「うんうん、わかったわかった、じゃあ、この麺とこの麺はどっちがより辛い?」「両方辛くて美味しいです、もし辛いのがお嫌いなお客様であれば冷菜のキュウリを食べろ」「いや、辛いのは好きよ、私はスパイシーヌードル食べたくてここへ来てるのよ。じゃあ豚肉の麺をお願いね」「かしこまりました。あなたの希望はベジタリアンですか?」「なんでやねん、冷菜のキュウリはいらんわ、どっさり豚肉のっけてーや」……という調子。学校でさんざん「英語ができない」ことに凹んでいたのに、外の世界ではこの程度の意思疎通で給料もらって働いている子たちがたくさんいる。私も頑張ろう、と思うわけです。ヌードルはいわゆる刀削麺っぽい平打ちで10ドル前後、内装こそ凝っているが本家の西安名吃と同じく夜店の味。日系ラーメン屋みたいで一人でも入りやすい。