2016-09-01 / イラスト解放令

9/1、新学期三日目。朝も早よから、日本時間9月1日に開催された「石川禅ソロコンサート2016」を終えた観客の感想がだだだとタイムラインに上がってくるので嬉しくてRTが止まらない。時差を追いかけ日付を越えて愛し合いたい。理性が遠く及ばない。
2限、昨日とは別のDavidの「Intro To Photography」。一目見るなり「よいメガネ〜!」とサイリウムを振りたくなる、私好みの静かに狂ってる感じの長身老眼鏡紳士だった。経歴はウディアレンの映画に参加してたとかなんとか。出欠も取らず自己紹介もせず、いきなり骨董級の蛇腹式カメラを出してきてレンズを取り外し、部屋を暗くして白い紙に光を投影しながら「ほら、今、この部屋がカメラなのだよ……」とうっとり。「カメラとは何か」を話し始めると止まらないし、参考文献にはソンタグとロランバルトの写真論。「レタッチの手間が減らせる写真が撮りたいです」「就活用にプロっぽく見えるブツ撮りの方法を教えてほしい」といった即物的な理由で履修してる若い子たち、全員ポカーンとしていたけど、私は「いやー、やっぱり写真の授業の第1週は、こうでなくっちゃねー!」とすっかり嬉しくなった。休み時間も「グッゲンハイムのモホリナジの展示、来週までだから絶対観て!」「はい先生、もちろん観ました! 点数多くて最高だったっす!」「ねー! フェノッッッメノン!(やや内股)」……という調子で、あー、好き好き、ややキモ変態美意識メガネ。同じ講義名を受け持ってる講師は数名いるのだが、私は私にとってのアタリをきちんと引き当てたな、と思いました。
とっくに卒業したと思ってた、コミュニケーションデザイン学部の意識高い系美女Aが教室にいて驚く。休憩時間に話しかけたら、春学期に結構大きい怪我をして欠席が続いたため、成績がつく前に数科目ドロップし、卒業を延長したのだそう。イラスト学部の社会不適合オタクッ子が多く動物園みたいだったFrankのイラストの授業で、一人だけいついかなるときもバリキャリ風に意識高いプレゼンをキメては、他の生徒を小馬鹿にした態度で浮きまくっていた彼女である。「私たちが一緒に受けたあの授業、あのオールドマン、相当Weirdだったわよね? 最後まで意味わかんなかった」と同意を求めてくるので、「や、あの教室内においてはあんたのほうが何しに来たのって感じでよっぽどweirdだったよ……」と言いたいのをグッとこらえて、「んー、でもー、私は彼のこと大好きだったわー!」とだけ答える。同学年にいたら「やなやつ」なんだけど、私はもう大人なので、大人びた態度をとることに血道をあげている彼女さえかわいく感じられる。嫌いじゃない。
このところ「トロピカルストーム(熱帯低気圧)」の予報が多い。この日も授業後に階下へおりると、いきなりのスコールみたいな大雨。傘を持ってない人たちはみんな立ち往生している。私は雨具を完備していたので人通りのない嵐の中へ突進していく。ドレスアップした学生たちに、こんな雨の中へ飛び出すなんて信じられない、という顔をされるが、私に言わせれば雨の予報が出ている日に白いロングスカートやブランドものの靴で出かけてくる若い子たちのほうが信じられない。東京ではこのくらいの雨の中、スーツに防水パンプスで仕事したりしていたよ! 西洋人は傘を持たない、という言葉の真実は、「雨が降ったら止むまでやり過ごす」にあるのかもしれない。べしょべしょになってユニオンスクエアを横切り、指定された教科書を買いにStrandへ。うちの大学の教科書は大抵ここに中古本の在庫があるのだが、写真の教科書に関してはラスト1冊きりだったので慌てて確保。70ドル。高! 送料込のAmazonとだいたい同じ値段。夏学期の教科書は私もリリースしに来る予定。あれこれ棚を物色しているうちに雨も上がり、Kichi先生とまたばったり、マレイズでフムスベーグル買って10階ラボで宿題を済ませる。会う友達、会う友達、とっくにポートフォリオサイトを仕上げていてビビる。
4限は「GD3」。最初に小さなテーブルに集まり簡単なスケッチを見せ合って、あとはひたすらインクラスで自習作業。最後の15分くらいでまたサッと本日の成果を見せ合い、来週までに大きめのサイズでリファインしてくることになる。私は5、6案持って行き、1つはその場で「It’s done!」と合格、残りをあれこれ試行錯誤する。2つの概念ないし単語を1つのシンボルで表現するという課題なのだが、どうも私は対立概念をすぐなんでもミラー(鏡合わせ)構図にしてしまう癖があるらしく、オーバーラップとか、ピクトグラム風とか、他の手法を試していく。その場ですぐドミちゃんに見てもらえてディスカッションできると思うと、お絵描きも楽しいものです。
前学期のTimは、デザインの教科書の著者だけあって、すでに彼の中でメソッドが確立されており、それをなぞっていく感じ。かたやDmitryは、とくに指導法が画期的にすごいということはないんだけど、いるだけで学生の触媒になってくれる先生。まぁ私の場合「好きな子の前だから張り切る」という効果が高いんですけどね……ドミの笑顔は値千金なので頑張るよ。去年受けた「Typography1」ではタイポグラフィ脳を鍛えるべくその他の解決法、すなわちイラストは禁止されていたのだが、さすが最終学期のシメの授業、何もかも「解!禁!」という感じである。「ペンギンの足は泳いでるときはもっとこう、こんな形だよ、ぐぐって! 今すぐ!」とか、割とどうでもいいディテールにこだわって描き直しを求められるのが可笑しい。タイポグラフィにしか興味ないんだと思ってた! 嘘、そう見えて意外とkawaii系のイラスト大好きなの知ってる! 途中「質問あったら声かけてね」と放任状態になっている間はドミちゃんもノートに何かスケッチしていた。癒されるわ〜。中国人男子の「東西」と書いたメモを見て「これはEastとWestだね〜」とサラッと言ってたので、やっぱりだいぶ東洋の文字も読めてると思う。
Hが「育はどうやったらそんなにまっすぐフリーハンドの線が引けるんだ!?」と訊いてきたので「利き手の紙に接する部分を動かさずに、ペン先だけを動かすんだよ。速度は遅すぎても速すぎても歪むよ」と教えたら「Wooow!!」と感激している。ほんとさー、我々が子供の頃に読んでいた『マンガ入門』とか『図工入門』みたいな本を全世界向けに翻訳出版したら、ベストセラーになると思うわ。タイトルは『日本人みたいに手先が器用になれる本』、すっごい低レベルなところから手取り足取り教える教科書。第1章はもちろん「作業台の上に足を乗せない、作業台の上でごはんを食べない」……書きますよ、私? 出版企画お待ちしております。