シネマライズで昨日から公開の映画『埋もれ木』を観てきた。
日曜最終回なので1000円。http://www.umoregi.info/
いま、まだ、静かな興奮状態にあるので
映画の内容の感想文には全然なりませんが。
とにかく小栗康平はいいよな! 大満足。
素晴らしくて当然と思って観に行ったが、やはり素晴らしかった。誰かが「これでまた、10年もつ。」といった主旨の評を書いていた。まさにそのとおりだ。たくさんの映画はいらない。小栗康平の新作がたまに観られれば、それでいい。「好きな映画」と訊かれたときの回答が、前作『眠る男』から今作『埋もれ木』へ更新されただけのこと、向こう10年は『埋もれ木』の余韻に浸って生きて行けると思う。
小栗康平は、映画監督というより小説家のようだ。頭の中にあるイメージを具体化し、定着させ、顕在化させることのすべてを、映像を用いて成し遂げている。「記念写真っていいね」という台詞、町に登場する鯨、主人公の両親の絶妙な“若さ”の描写(夫はパソコンと書棚とウィスキー、妻はハーブティと鉛筆)。そんな、小説家が言葉で紡ぐようなことを、静かに、静かに、映像で紡ぐ。畢竟、うざったいくらい“意味だらけ”の映像になる。しかし、それでもなお非常に美しい絵なので、うざったさなど気にならない。素晴らしい小説を読んでいるときに陥る、あの恍惚としたかんじを、そのままスクリーンに持ってこられたような映画なのだ。
でも冒頭いきなり魚喃キリコの漫画が出てきたときはさすがにどうしようかと思った! 待って、待ってよこの映画に魚喃キリコなんて求めてないから! と慌てた。宮崎駿+CHAGE&ASKAの「On your Mark」などが脳裏を過ぎるような微妙すぎるコラボレーション。でも、そのまま少女たちの恥ずかしくなるような棒読みの会話に突入したので、ああ、やっぱり小栗映画だ、と安堵した。……私、何の予備知識もなかったら、この導入部に耐えられなくなって席を立ったと思う。どんな素人にも駄作だと思われて仕方ない。頭の中がこの「小栗テイスト」に馴染むには少し時間がかかる。そのへんも含めて懐かしかったです。
三重県の話のくせに赤城村を出すなよ(愛)、いまどきトンパ文字かよ(愛)、とか、ツッコミどころも含めて好きです。この浮世離れ感がたまりません! いいんです、夜の校庭の闇の中にいきなり赤玉白玉がぽーんと出てくる、紫陽花の話をすると紫陽花がぽーんと浮かび上がってくる、あの美しい瞬間のために、あのシーンがあるのです。
浅野忠信が車に乗せようとしたり、スケーターボーイが写真館の暗がりに連れ込んだりするたびに「純情無垢な田舎娘がレイプされてしまう!」とハラハラしていたんだけど、もちろんそんな展開はない(笑)。浅野忠信なんてもう、ジャイアンと出来杉とラーメン大好き小池さんを同時に演じてるような、小栗映画にしか存在しえない、ものすごいブッ飛んだ解釈の「不良青年」で、かっこいいなと思いました。
とにかく、いろんな意味で、この御方にしか撮れない映画です。坂田明と大久保鷹が軒を連ねるマーケットもいいし、最後の埋没林に人がぞろぞろ下りていくとこ、駱駝があらわれるとことか、曳き家とか、CGも違和感なく、本当に綺麗。一見、古風な映画のようで、とても新しく、安心して身を委ねられる。何度も何度も繰り返して観たくなる。1時間33分という短さ(一般の映画3時間分くらいの密度)も丁度いい。
余談ながら、三重が舞台のこの映画の主役オーディションに、私は久居市在住の従妹を推そうとしていた。結局は受験生なので断られてしまったのだけど、従妹は全体的に色素が薄くて線の細い美少女なので、小栗監督の絵に絶対に映えると思った。主役の夏蓮ちゃんは、従妹とは180度違う容貌で、でも非常にこの映画に合っていて、あのとき無理して薦めなくてよかったなと思いました。以上、時効。