ザ・インタビューズ転載日記(鹿賀丈史CD)

鹿賀丈史御大が、ミュージカルナンバーを集めたCDを出すとしたら、どのような選曲が良いと思いますか?

ひとまず声域やアレンジのことは忘れて単純に、思いつくがままに「鹿賀丈史に歌ってほしい歌のリクエスト」を並べてみました。一応、古式に則り「A面/B面/ボーナストラック」という構成で考えてみたものの、やっぱりあれこれ詰め込んだので少し多めになっています。CDよりはDVDがいいんじゃないですかね? 曲に合わせてお召し物チェンジもしていただきつつ……ああ……夢! それはドリーム! ちなみにこの質問をいただいたのはおそらくTwitter上で「海外のミュージカル俳優が名刺代わりに作るようなソロアルバムを、鹿賀様にも吹き込んでほしい」と書いたからだと思います。鹿賀様は歌手としてCDもたくさんお出しになっておられますが、本人の歌唱用として与えられたポップスを歌うのと、芝居の中の「役」に入り込んでミュージカルナンバーを歌うのとでは、天と地ほども違うのですよ。その意味を、もっと多くの方に理解していただきたいものです。

1:「There’s No Business Like Show Business/ショウほど素敵な商売はない」(アニーよ銃をとれ)
http://www.youtube.com/watch?v=CJvwpufbLyM

幕開けに持ってくるのは『ペテン師と詐欺師』のローレンス様による「Give What They Want」もいいかなと思ったけれど、あのオーヴァーチュアから始まると完全にコメディな雰囲気に奪われてしまうのが難点。というわけで、よりベタな発想で「これぞミュージカル!」と感じられるオープニングをば。持ち歌よりは、意外とこういうスタンダード中のスタンダードを歌ってみてほしいんですよね。アーヴィングバーリンなら、「今夜は最高!」でジュディオングやタモリと歌っていた「I Got the Sun in the Morning」もよかったなー。編曲は是非ともタメが効くようなゆったりめのテンポでお願いしたいです。

2:「Kiss Of The Spiderwoman」(蜘蛛女のキス)
http://www.youtube.com/watch?v=b3jqOJtBXj0

観てないんです、『蜘蛛女のキス』。日本版初演、麻実れい=蜘蛛女とかもう字面を見ただけで即死だろ。観たかった! この曲は英国を代表するミュージカル俳優ジョンオーウェンジョーンズのバージョン(リンク参照)を聴いて「えー、男が歌うとこんなにかっこいいの! 日本を代表する鹿賀様にも似合いそう!」と思ったのでした。還暦を過ぎた御大しかご存じない方にはなかなか想像しづらいかもしれませんが、このひと、本来は非常に中性的というか、性を超越した魅力がとてつもないんですよ。あとは私が二人称の歌詞と転調が好きなだけです。

3:「The Trial ( Who Am I )/裁き」(レ・ミゼラブル)
http://www.youtube.com/watch?v=oAXlynjt1GQ

帝劇100周年のNHK特番において鹿賀様ご自身も「一番お気に入り」と選んでいた、ジャンバルジャンのソロナンバー「裁き」を。レミゼの曲はどれも大好きだけれど、10代の多感な時期、日本公演のCD赤盤を繰り返し繰り返し聴きながら、鹿賀バルジャンの歌う「裁き」を、とくに「死ぬまで己を偽り続けて生きるか、それが許されるのか、恥ずかしくはないのか」というフレーズを、音楽にのせた祈りの文句か何かのように大切にしてきました。再録していただけたらこんなに嬉しいことはない。

4:「The Confrontation/対決」(レ・ミゼラブル)
http://www.youtube.com/watch?v=8grQ1NVCi0I
5:「The Confrontation/対決」(ジキル&ハイド)
http://www.youtube.com/watch?v=yneMAw15O50

どっちもネ申なんだから、もう、両方とも入れればよくね……!? というわけで二曲の「ひとり対決」を併録。『レミゼ』のほうは、日本初演時にジャンバルジャンとジャベールを日替わりで演じ分けた実績をもとに、二つの役がそれぞれの主張をぶつけあうナンバーを。以前「それぞれのコンサート」内の企画として、扮装なしの平服で披露していたのですが、……いやー、すごかった。一曲をなぞりながら、完全に、完璧に、歌声だけで二人の異なる登場人物を演じ分けていた。あれは録音して後世に残すべき。『ジキル&ハイド』は説明不要ですね、ハイライトライブ盤(リンク参照)も出ている主演代表作の一つ。二つの人格が一人の中で、互いに主導権を争うナンバー。作曲家をして「日本のジキル&ハイドが世界一」と言わしめた怪演を、何度でも何度でも再録すればいいと思うの。

6:「Empty Chairs At Empty Tables/カフェソング」(レ・ミゼラブル)
http://www.youtube.com/watch?v=CJnjcX8skXk

こちらは「それぞれのコンサート」で「本当は一度でいいからマリウスをやってみたかったんです」と告白し、さわりだけ歌ってみせたのが忘れられない。禅マリ46歳ですら奇跡だったわけで、鹿賀マリ61歳なんて絶対に実現しないだろうから、せめてCDでだけでも全編聴きたいな。鹿賀様がガチで歌うと仲間の死を受けて完全に精神を病んでしまったPTSD状態の青年に仕上がると思います。いやーもう、こうなったらラブソングとか排除して、精神狂ってる曲ばっかりでアルバム編成しようよ!(←売れません)

7:「I’ve Got You Under My Skin/あなたはしっかり私のもの」(踊るアメリカ艦隊)
http://www.youtube.com/watch?v=PGO65TJue_c

……ああわかったよ、じゃあここらで甘い歌でも入れときゃいいんだろ、というので思いついたのは、やっぱりコールポーター。別にどの曲でもいいんですけど、とびきり甘ったるく、ひたすらガチに歌ってほしいです。それにしても、ぐぐって初めて知ったが、なんとも醜悪な邦題よの……。

8:「You Are The Top」(ユー・アー・ザ・トップ)
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND49054/index.html

で、これはコールポーターじゃなくて、三谷幸喜&井上陽水のほうね!! 稀に見るようなご尊顔、のほうね!! 降板によって幻となった『You Are The Top』を、是非CDで再現してほしい。私は井上陽水ファンでもあるのですが、彼のセルフカバーを聴くたびに脳内で勝手に鹿賀様に変換しております。うーん、正直これが大本命かな。これさえ入ってたら、他の選曲はどうでもいいや。「それぞれのコンサート」で鹿賀様が急に歌謡曲コーナーを始めて「少年時代」を歌った際、喜ぶより先に「なぜ『You Are The Top』を歌わないのか! 無難な選曲しやがって、いっそネタで『ダンスはうまく踊れない』でも歌えばいいのに! ムキー!」と憤死しかけました。いつかこの曲を歌ってくれて、ついでにそこに市村正親と戸田恵子がゲストで入ってくれたら、今度は感激で死にかけると思います。

9:「Ich weiss was ich will」とその周辺メドレー(ニューヨークに行きたい!!)
http://www.youtube.com/watch?v=k8Wu1qmjfGw

リンク2曲目、直訳すると「欲しいものはわかってる」かな? つい先日、日本版初演で瀬奈じゅんが歌ってるの聴いてすごくいい曲だと思った感動が新しいうちに。リサの告白にアクセルが「いいのか、それはつまり、キスしていいのか」ってやるシーンですね。ウドユンゲルス本人が歌ってるバージョン聴いて、きっと鹿賀様にも似合うと思った。私、本作がジュークボックス形式だと観てから知りまして、この前に入る「Merci Cherie」も往年のヒット曲とはつゆ知らず、なんで大爆笑する場面になってるのか「???」と思ってました。あちらは御大が歌うとちょっとムード歌謡っぽくなっちゃうかなー、でも入れてくれて構いません。そして何ならこの後に入る「Bleib doch bis zum Frühstück/朝食までは側にいて」も構わないよ! 入れてよ! 日本版アクセルは橋本さとし以外に考えられないほどの当たり役なので、鹿賀様が演じてるのはイメージできませんけど、歌だけなら魅惑のラブソングメドレーになりそうです。

10:「Gascons」「愛されているのは(仮)」「最後の手紙(仮)」あたり一揃い(シラノ)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6464902

元の曲名が全然わからねええええ!! どなたか補足できる方お願いします……。っつーか日本語でも英語でもいいから早くオリジナル版のCD出せよ!! 名曲揃いのワイルドホーン版『シラノ』ですが、世界初演が再演されぬまま幾星霜、禁断症状がやばい……。「Gascons」は「わーれーらガスコン!」ですね(リンク参照)。二曲目は二幕の戦場ですべてを理解したクリスチャンと譲り合って「ロクサーヌに愛されているのは、僕じゃない、あなただ」「違う、おまえだ」「違う」「まさか、もしや……俺か?」とやるデュエット。とくに「忘れたか出会いのときめきー、互いに一目惚れだったろう」「愛は見た目じゃない、魂のふーれーあーいー」みたいな掛け合いのところが……って手元に文字のメモしかないので覚束ないんですけど、素敵だったはず! それで最後の「愛しいロクサーヌ、君こそ永遠の人」という例の、手紙を読み上げる歌ー!! 思い出しただけで涙が出るー!! でもよく考えてみたら、ソロアルバムのために新録音してる暇があったら全編ライブ盤を出すべきですよね。そして、再演マダー!?(定期ポスト)

11:「Come back to me」(晴れた日に永遠が見える)
http://www.youtube.com/watch?v=gBOVNADwYs4

イヴモンタンがビルの屋上から、バーブラストライザンドに向かって「私の元へ帰って来い!」と歌うと、街中の人の声がイヴモンタンになって、彼女がいくら逃げてもイヴモンタンの声が追いかけてきて眠れない……という、文字にしてみると軽くホラーですが、いかにもミュージカル・ラブコメらしい演出で大好きなナンバー。んもー、小娘に入れあげるオッサンってなんてかわいいんでしょう! しっかしこれ鹿賀様に歌われたら卒倒するなー。失神するなぁ。おそらく甘い感じじゃなくて、呪文で縛られる感じなんですよね、きっと。怖いけどちょっと聴いてみたいです。

12:「I Am What I Am/ありのままの私」(ラ・カージュ・オ・フォール)
http://www.youtube.com/watch?v=T4VMudwlVEU

来年1月に迫った市村ザザのファイナルアンコールが楽しみな『ラカージュ』。山田和也先生はいつか主演を逆転させた「鹿賀ザザ&市村ジョルジュ」版も演出したいと言っていたが、せめてCDだけでも……鹿賀ザザ、絶対ハマると思うのですよ。アルバンのときは息子を甘やかす優しいお母さんで、ショーに出ると苦手なダンスを歌でカバーするカリスマ☆スター、そして、蚤の夫婦が街中を腕組んで歩くときは長身を気にして猫背になっちゃうかわいいネコちゃん。目に浮かぶようじゃないか……!! でまぁ、これは『シラノ』の「Alone」同様に「たとえ孤独でも私は私の道を行く」という心意気の歌なので、ちょう似合います。「Who Am I?」がA面のクライマックスで「I Am What I Am!」がB面のクライマックス、となったら構成的にもいいですよね。

13:「Can’t Help Lovin’ Dat Man」(ショウ・ボート)
http://www.youtube.com/watch?v=rGOyycNqiWA

いやもうこれは、単に私がエヴァガードナーが好きなだけなんですけど。あの高音から低音にぐーっと潜っていくとこ、鹿賀様が歌ったらマジやばくね? というだけの話です。原曲は「Man」ですけど、もちろん「Girl」でよろしくお願いします。こういうリクエストは止まらないなぁ。あれもこれも歌ってほしくなるけど、なぜかやっぱり、女性オリジナルのナンバーが多く思い浮かびますね。

14:「This Nearly Was Mine/ほとんど私のもの」(南太平洋)
http://www.youtube.com/watch?v=gpQQ256RzTA

これは、最近になって聴いたオーストラリアを代表するミュージカル俳優アンソニーウォーロウのバージョン(リンク参照。まだ毛がある)が素晴らしくてですね、日本を代表する鹿賀様にも……って、そんなのばかりですいません。この一年でミュージカル熱が再燃し、個人的に再発掘したナンバーがたくさんあるんですよ。とにかく鹿賀様には『シラノ』の例を待つまでもなく清く正しく美しく、ひとり気高く「Now I’m alone」みたいな歌詞が本当にとても似合うので、そういうアローンな歌ばっかり歌えばいいと思います。

おまけ:「Wouldn’t It Be Loverly/素敵じゃない?」(マイ・フェア・レディ)
http://www.youtube.com/watch?v=Q671QIDeH-U

……いや、……なんか、……かわいいおにゃのこの歌を、還暦過ぎた御大が、うろおぼえの譜面で「ラヴリー♪ ラヴリー♪」って歌ってたらかわいいかなって思って……とくに意味はないです。空白を置いて99曲目とかに、リハーサル前にスタジオの外で歌ってる鼻歌バージョンとかが収録されていればいいと思います。(←意味はないと言いつつ注文が細かい)