202304_TSQ

2023-04-17 / 過去の輝き、未来の眩しさ

「季節の変わり目」がずっと続くような陽気で案の定ちょっと体調を崩し、立ちくらみだか起立性頭痛だかわからん症状。在宅をよいことに寝転んだまま仕事。これはこれで腰によくない。雑に要約すると「悪意の標的にされて長い時間をかけて殺され、その悲嘆に暮れて配偶者も狂い死ぬ」という長めの明晰夢を見る。ええっそんな殺し方じゃあ私が長く苦しむ羽目になるじゃん、一発で殺せないのか勘弁してよ、と思いつつ腹を裂かれると内臓ではない乾いたふかふかの詰め物がぼろぼろ無限に出てくる。起きて配偶者に話すと「死ぬ夢って目が覚めたときスッキリしない? ああなんだ夢かって思うと命拾いして得した気分!」と言う。見習いたいその明るさ。殺される夢は「再生」「新しいスタート」を意味するそうです。小説『黄色い家』にもそんなくだりあったね。


16日は、セントラルパークでGIONさん主宰のお花見会。コロナ明け4年ぶり、そして最後の開催。家で貯蔵していた紹興酒のカメがあり、コールドプレスジュースの空き瓶に中身を詰め替えて持っていったのだが、私のその所作がガチのアル中と思われたか、ドン引きされて全然はけなかった。てか、みんなむき出しのワインボトルを置きっぱなし注ぎっぱなしで驚く。昔は紙袋で隠したりしてたのに。それもそれでアル中っぽいけど。コロナ禍、バーに入店制限がかかって(路上飲酒は条例違反だけどお目こぼし的に)角打ちが流行った(のが今現在まで続くあの車道テラス席文化にも発展していった)のや、そもそも公園飲酒OKにしようよという提言などあったのを思い出す。

ソメイヨシノは散ってしまい、満開の八重桜に引き寄せられて、思い思いにインスタ映えしそうな写真を撮っては、すぐに立ち去っていく無数の人々。我々だけが枝垂れる桜の下に大きな大きなレジャーシートを広げて、何時間もパーティーを続ける。普段おとなしく模範的な日系移民たちが、桜の季節だけは公共空間に我がもの顔して居座って集団で賑やかに禁じられた酒盛りに狂うの、傍目にはさぞ異様な光景だろうと毎年思う。でも、だから居心地がよい。桜の下、日本人同士、実年齢でなく在住歴を訊ね合い、家賃の愚痴をこぼし住みやすさを比べ合う。それぞれ独立した肩書き、どんなレジェンド級有名人とも初対面でフラットに話せるし、過度の干渉はなく、萎縮させられることもない。別の場所で再会しても「以前お花見で会ったかも?」と言えばグッと距離が縮まる。

来るたびに「日本国内のありとあらゆる異業種交流宴会も全部こうならいいのにね」と思うが、もし本当に生まれ育った社会がそんな居心地のよさで、どんな環境でも浮草稼業のマイノリティがこんなふうにのびのびいられるなら、我々はわざわざ海を渡ってこの街まで漂着しなかったかもしれない。境遇や普段の暮らしはまるで異なれど、それだけを根拠に「我々」と括りたくなる人々が、年一度、膝を寄せ合って桜を愛でる。豪邸を訪ねるホームパーティーではこうはいかない、桜の下の公平。後半はセバ兄を捕まえてひたすらミュージカル談義で独占してしまった。夕暮れの飴色に染まったセントラルパークも美しい。みんなと別れ、シープメドウをずんずん斜めに横切ってヘルズキッチンへ。


こちらもコロナ明け、数年ぶりのNY出張という井川さんを囲んで食事。レストランのドア開けて入ってきた姿が全身キラッキラに輝いておられる。日常から離れてひたすら芝居だけ摂取する観劇遠征中はオタクがみんな最高の笑顔で肌艶もトゥルントゥルンになるアレ、仕事で来てる人も同じなんだな……と眩しい。ものすごい勢いで大皿料理をシェアしながら一軒目の閉店ギリギリまでねばり、ヒロさんとの三人会を一旦解散するも去り難く二軒目へなだれ込み、「今日は何観た?」「明日は何観る?」「冬は日本で何観てた?」に始まって「来年どうなる?」「再来年どうなる?」「10年後20年後どうなる?」「未来はどっちだ?」に至るまで、文字通りミュージカルの話しかしなかった。

タイムズスクエアの真ん中でミュージカル談義。気づけば時刻は日付変更寸前。
写真も撮り忘れて喋り続け、あっという間の4時間超え。まさかの喋り疲れてないです。

https://twitter.com/KaoruIkawa/status/1647851993543606272

続)この世にはびっくりするほどミュージカルの話しかしない人々が存在し、大半の人はそれを仕事や生活の息抜きとしているが、幾許かの人はミュージカルの仕事をしてミュージカルで生活しながらミュージカルの話をして記念写真を撮り忘れ気づくとジュニアズのチーズケーキが手元から消えていたりする。

https://twitter.com/okadaic/status/1647947580632883203

井川さんヒロさんが揃うと、私だけに独占配信されるホリプロclubhouseないし『キングアーサー』特別映像の様相もあり、全編そのまま録って出して座談会記事にできる面白さと断言できる、のだが、冷静にさらってみると書けない内容ばかりだった。「あれ今何時?」と気づいたらほぼほぼ0時、まだまだ目が潰れそうなほど眩しいタイムズスクエアを背に地下鉄帰宅。遅い時刻に電車に乗るたび思い出すのは、コロナ禍でAAPIヘイトクライムが増えた時期、アジア人女性は日没後は一人で電車に乗るな、なんて注意喚起が広まったこと。そんなんじゃ暮らしていけないよ! と途方に暮れたものだ。

演劇業界の人たちは文芸業界の人たちと同じく、まるで来月のことのように平然と数年後の話をするので、過去がどんどん過去になる、未来への推進力を分けてもらったような気持ち。さんざん通った『キングアーサー』さえもうすでに懐かしく、『COME FROM AWAY』の「最強の日本版」が本当に楽しみ。


引き続き「Twitterに新規投稿をしない」non-tweeting protestを続けていて、その心境はぽつぽつBlueskyで綴っている。十数年の長きにわたる140字連投に慣れた身体には、300字のテキストフィールドは調子狂う感じもあり、案外すぐ順応した感じもあり。日本語でも英語でも無関係に300字書ける仕様がバグみたいで味わい深い。英語か日本語で書いてみて、余った字数を使って日本語か英語も書き足してみる、どちらかの言語で反応が来たらその言語で続きを書く、という新しい推敲が楽しい。文法はぐちゃぐちゃだが、単語数を絞って言い換え表現を探す訓練にはなるかもしれない。

外国語で難しいのは咄嗟の言葉選びで感情の機微が誤って伝わってしまうこと。対面では「悪気はない」「気分を害している」「そろそろ次の話題に移りたい」「そっとしておいてほしい」などを表情や身振りで示せば、相槌は最悪イエスとノーだけで足りたりする。文字ではそうもいかない。今日も「こちらの態度に怒っているようにもこちらを気遣ってくれているようにも読める、皮肉かガチかよくわからない」メールの返信を、翻訳アプリを駆使しながらおっかなびっくり書く。やましいことは何も無いのに、どうしても言い回しが長くなる。もっと端的に書けるようになりたい。


周囲はここ数日「メタクソ化するTiktok:プラットフォームが生まれ、成長し、支配し、滅びるまで」の話題でもちきり。Blueskyのこともチラと言及がある。

立法者は離脱の自由に焦点を当てなくてはならない。つまり、沈みゆくプラットフォームから離脱しても、残してきたコミュニティとのつながりが維持され、購入したメディアやアプリを楽しめ、作成したデータを保持し続けられるようにする権利が必要とされている。
(略)
長年、Tiktokの批判者であっても、どれほど監視的で、薄気味悪くても、ユーザが見たいと思うものを推測することにかけては認めざるを得なかった。だが、そのTiktokでさえ、ユーザが見たいものではなく、ユーザに見せたいもの見せるという誘惑には勝てなかったのである。そうしてメタクソ化が始まり、それが止まることはおそらくないのだろう。Tiktokはもはや手遅れだ。メタクソ化に感染してしまった以上、あとは燃え尽き、灰燼に帰すのを待つだけである。

Tiktok’s enshittification
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: January 21, 2023
Translation: heatwave_p2p
https://p2ptk.org/monopoly/4366

あと、Blueskyでめほりさんに勧められて読んだこちらも良かった。話者はAutomattic社のMatt Mullenweg、聞き手はSubstackのCEOを追い詰めた姿も記憶に新しいThe VergeのNilay Patel、時制は2022年12月。途中にある「Welcome to hell, Elon」も併読。2時間近いトークの全文書き起こしなのでおそろしく長い、前後の文脈は省くけれど、心に残る言葉をいくつか。

I believe open-source is a fundamental human right… It’s just as important as freedom of speech, freedom of religion, or any other freedom.
*
There’s a phrase we use for a huge amount of speech, and that is “lawful but awful.” It might hurt people’s mental health, incite harm, or be really mean, like bullying, but it’s not technically illegal.
*
The violations now are not for what you post, but for mistagging. We take mistagging very seriously, because, obviously, that’s wrong. It could endanger kids. It could do lots of things. If you’re tagged correctly, we allow you to post a lot more stuff. We have done this while navigating Apple’s App Store, the credit card processors, and everything else.
*
Where I think I have become more conservative is in bullying and hate speech, that sort of stuff. Of course, calls to violence are pretty noncontroversial. I would say bullying, or trolling, is maybe more in the middle.
*
You also need to be sensitive. My preferences are not the preferences I’m imposing on the entire community. I’m super liberal, all those sorts of things. That’s me. I’m going to be open about that. I’m also not saying people who disagree with me aren’t welcome.

How to buy a social network, with Tumblr CEO Matt Mullenweg / What can Elon learn from Tumblr?
https://www.theverge.com/23506085/wordpress-twitter-tumblr-ceo-matt-mullenweg-elon-musk

Automattic社はWordPress.comで知られ、2021年には私が長年愛用するDayOneを買収し、その後ずっと(Simplenoteに吸収されたりしたらヤだなと)ソワソワしてたのだが、Mattの話をじっくり読み聴きしたのは初めてで、株が上がった。まぁSubstackのほうがひどすぎたのもあるけど。

こういう毎日の写経、コロナ禍にこそすべきだったなと後悔するが、世界的な疫病禍でなくごくごく個人的なTwitter禍でやるのが私っぽくもある。まるで違う顔ぶれだった賑やかなお花見、人通りがゼロになった時期のタイムズスクエア、ウェブカムでそれを眺めながら東京で長く過ごした日々、昔のTwitter、今のBluesky、もう会えなくなった人々、会えずにいたのが嘘みたいな再会、慌てて読んだもの、たまたま聴いていた音楽、数年経てばどれも「輝いていた」と言われるような思い出になる。渦中にはその意味や価値がわからずとも。


あけた紹興酒をほとんど持ち帰ったのでしばらくは自炊中華三昧の晩酌。餃子とネギ卵焼き、回鍋肉と上海やきそば。やっぱりなぁ、ポットラックでメリッサのカップケーキとポテトチップスと紹興酒という取り合わせを出したらそりゃカップケーキから順にはけますよね、胡麻油とオイスターソースたっぷりの中華料理をあわせて持ち寄ればよかったのだ、と反省しながらあっという間に家で消費が進む。


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