さぁ、さっそく日記を数日分まとめて書き始めたぞ! さぼりフラグ!
1/14は本当はミュージカルを観に行こうと思っていたのだが、なんだかんだと用事が立て込んで行きそびれてしまった。ちょっとした仕事が舞い込んでくるようになったので、ラーメン屋で資料を読んだりして過ごす。隣りの親日ロシア人とおぼしき姉弟のような二人組の会話が面白い。このラーメン屋、開店当初から贔屓にしていたのだけど、ちょっとだけ味が落ちて残念。
1/15はとても天気がよかったので、どこへ出かけようか迷った末、無目的にロウアーイーストサイドを散歩してから突発的にウィリアムズバーグ橋を徒歩で渡り、どこを目指すでもなくウィリアムズバーグをうろうろ散歩して、ろくに買い物もせず途中で珈琲一杯だけ飲んで、地下鉄に乗って帰ってきた。今までブルックリン方面へ行くときは友達に会いにとかショーやイベントを観にとかはっきり目的が決まっていて、その際に指定された地下鉄の最寄駅から地図を見ながらまっすぐ会場まで歩く、という調子でしかも大半が夜中だったので、「あのとき行ったあそこと、このとき行ったこことは、こんなに近かったのか!」といったことを昼日中に確かめながら歩くのは面白かった。
一度だけ、こちらに長く暮らす知人にクルマでブルックリンとクィーンズの全体を案内してもらったことがあり、その際は逆に「でか!」「広!」という感想しかなかったのだが、こうやって橋のたもとからメトロポリタンアヴェニューはここ、ベッドフォード駅はここ、昔来たことのある界隈は向こう、というふうに確かめながら歩くと、たった半日クルマで案内してもらったエリアがどれだけ広範囲にわたっていたのかを実感することもできた。贅沢だったんだなぁ。
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雨の降る予報だったのでいつものレインジャケットを着て行ったら、あちこちの服屋で暇を持て余したおしゃべりな店員たちに褒めたおされ、それがなんだかこそばゆくてそそくさ店を出てしまった。K-WAYの店頭限定品で、表面が起毛の特殊加工で鳥の羽みたいになっている。「ゴージャスなジャケットね!」「触ってみていい?」「ウー、素敵、あったかい?」「しかもwaterproofなの? 最高!」「まるでbirdのfeatherみたいね!」までが一連のおきまりのリアクション。そこまで話したところで私はいつも「そうでしょ、私はバードマンよ、The Magic Fluteのパパゲーノみたいでしょ!」と言うのだが、これがまったく通じない。面白いほど通じない。思い返せば、買った店の売りつけた店員の前で最初に羽織ってみせたときにも通じなかった。これ、日本人の店員相手だったら十分通じるんじゃないかと思うのだけど、なんでなんだろう。まぁ相手のほうが、まさか外見年齢10代に見える東洋人の客が雑談にモーツァルトの作品を引いてくるとは思ってない、ということなのかな。
19時まで予定をつぶそうと5th Avenueのカフェに入ったら18時閉店、仕方ないのでブラブラしてたらTed Bakerの5番街店にたどり着き、投げ売り状態のセール品の中にサイズ1のドレスを発見。おいー! 何を隠そう先月SOHO店で試着しまくったのに気に入ったドレスはどれもサイズが合わず、店員に聞くと「もうサイズ1はないわ、アメリカ全土の店で在庫が切れているし、オンラインショップにだってないわ、大変お気の毒だわ」みたいなこと言われ、泣く泣く諦めたところだったのだ。要するに在庫確認や取り寄せの手続きが面倒だったか、あるいは完全に店舗間の連携が切れているのを隠しているか、という話なのだった。なんであんなに堂々と平然と見え透いた嘘がつけるの……? もう何も信じられない、と嘆きつつ先月よりさらにガクンと値段の下がった柄モノを買う。
しつこいようだがダウンタウンで普段見かけるオシャレな人たちって本当にシンプルシックな無地ばかり着ていて、いつでも誰もがヨガスタジオの帰りみたいな服装で、Steve Alanは連日大混雑なのにTed BakerとかVIVIENNE TAMみたいな店はガランとしている、気がする。一方で、頑なに1950年代以前のスタイルを貫いたようなヴィンテージ系のキッチュな服屋も多数あり、そちらの柄モノは逆に素人には手を出せない派手さがある。洋服だからピンと来ないけど、あれは日本でいうと「アンティーク着物の店」みたいなサブカル感なのだろう。それに比べると、ミッドタウンのTed Bakerのセールはちゃんと混んでいて、ばっちりフルメイクのバリキャリワーキングウーマンみたいな人々が花柄のジャケットとかピンヒールのパンプスとか試着していて、「ああ、丸の内っぽいなー」と思う(小並感)。
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夜は、マスコミ関係の日本人会へ。最初に呼ばれたときは数名の飲み会だったのでそのつもりで行ったら、今回は広告、テレビ、新聞各社を中心とした背広姿の男女が十数人で個室を貸し切って複数台のしゃぶしゃぶ鍋をつつきながら名刺交換するという、東京でもろくに経験したことないようなガチの「異業種交流新年会」だった。スニーカーにリュック背負って「すいませーん、名刺ないんですけどー、フリーのライターでぇー、今は学生でーす」と挨拶して回る。嘘はついていない。嘘はついていないが、大企業に勤める初対面の大人たちに囲まれて「いくらなんでもこういうときのために名刺は作っておいたほうがいいですよ? 働く気ないんですか?」「帰国は? 未定……いいですね、自由で……」と会話の端々にシビアなアレを感じまくって涙目。事実ではある。事実ではあるが、ここでゼロから自己紹介するのも面倒だなー、と思っていたところ、フジテレビ勤務の方に「あれっ!? ちょっと待って、もしかして、うちの番組に出てた人じゃない!?」という緒からあっさりバレる。あとは普通に、出版社勤務時代の話などしつつ、久しぶりに擬似サラリーマン気分を味わいながら楽しい酒を飲んだ。
この集まりで初めて知ったのだが、日本国総領事館にほど近いこの界隈には俗に「ピアノバー」と呼ばれる業態の店がたくさんあって、これはジャズ生演奏常駐の店でも何でもなく、駐在サラリーマンたち御用達の「テーブルにホステスの女の子がつく店」のことを意味するのだという。得意先を接待するのに使うような銀座の高級クラブ風の店から、同僚と繰り出してワイワイ遊ぶ渋谷や六本木のキャバクラみたいな店まで、いろいろクラスがあるらしい。
常連客の一人が「この街で夢を追いかけながら生活のために夜の仕事をしている若い日本人女子の身上話を聞くのが楽しいんだよねー」と言えば、「じつはお金に困ったら私もこっそりバイトしようと考えているんですよー」と応じる若い女性も。昔、某有名企業の重役と銀座のクラブへご一緒したとき「(競合他社)さんは伝統的に斜向かいの店なんだよねー」と聞いて、そうかそういうニーズであんなに無数の小さな店があるのか、と納得したのだが、「この街は規模が狭いからそういう棲み分けがなくて、みんなごっちゃに似たような店で遊んで、普通に鉢合わせちゃうんだよね」とのこと。思わず「いやー、文壇バーみたいで怖いですね!」と言ったが華麗にスルーされた。まったく知らない世界の話は聞いているだけでも面白い。イーストビレッジには杉玉の下がった酒屋やタコ焼き屋や日本人経営のヘアサロンがあり、近隣の学生で賑わうカラオケボックスがある。でもミッドタウンには白子ポン酢やイカの塩辛まで出す居酒屋があって、もっと奥には「座って3万」ならぬ「座って$300」のキャバクラがある。ひとくちに日本人ソサエティと言っても、留学生と現地勤務と駐在員とでは見える景色が全然違うのだろう。いつか覗いてみたいものだ。
それにしても、このピアノバーのことを、在米日本人の誰も彼も、ものすごいジェントルマンな物腰の殿方たちまでもが「Pバー」と略して呼びかわしているのが非常に引っかかった。海を越えた異国の地で命がけで働く企業戦士が束の間の慰安を求めて時間制でお金を払って現地在住の女の子たちと「おしゃべりして」遊ぶ、そのこと自体を否定するつもりはまったくないのだけど、なんでそうした業態の店をわざわざ「ピー」って呼ぶんだろう……かなりアウトなのでは……? もちろん実際には軍用売春施設とは何の関係もないのだろうし、私の誇大妄想気味な過剰反応だというのはわかってるんだけど、もし冗談のつもりなら絶対笑えないし、勤めてる女の子はもちろん、好きで通ってるお客さんだって呼んでて気分悪くならないのかね? 「せめて頭文字が別のアルファベットだったらそうは聞こえないのになぁー、SバーとかMバーとか、いやそれも誤解を招くか」と酔った頭でそんなことばかり考えていた。途中までは弘兼憲史『島耕作』シリーズの絵で店内の様子を想像していたのに、途中から完全に山田参助『あれよ星屑』の絵で浮かんでしまうだろ! という、それだけのことなんですけど。
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facebook上に「1月16日午後3時、Banksyがウォルドルフアストリアに現れる!」というイベントページがあって、まぁもちろん当然そんなこと絶対に起こりっこないよね、と思いつつも、じゃあその代わりに何が用意されているのかと楽しみに午後の予定を空けていたのだけど、もちろん報道の通りただのガセだった模様。問題のfacebookページは出来の悪い2ちゃんねるのスレみたいにマジ憤怒の民と悪ふざけの民で荒れまくっている。昼寝しながらゴロゴロそれを眺める。
このページを最初に見たとき、「もし最高のことが起こるとして無人の大掛かりな新作発表みたいなドッキリが仕掛けられていて現地に行くとそれを目撃できる程度かな〜」と考えていたのだが、それと同時に考えた「最低のこと」というのが、単なる虚言の肩透かしではなく、「彼の活動内容の真逆を行く、彼のファンを狙った、言論の自由を阻むようなテロ行為や通り魔、銃乱射事件のようなもの」だった。ほんのわずかな情報を与えて真偽に飢えた野次馬をおびきだし警察に気づかれぬようこっそり口コミで人混みを形成させようとする。そんなイベントの仕掛け方を見ると、「なんだかわからないけど行ってみよう!」と思うより先にまず「パニック状態で何者かの餌食になるのでは?」と身構えるようになってしまった。つねに警戒心を持つのは大事なことだが、これではちっとも楽しくないよな。