ザ・インタビューズ転載日記(着るもの)

着るものに関するポリシーを教えてください。



一番最初に好きになった服はヨージヤマモトでした。80年代東京、聖子ちゃんカットにジージャン着てクレープ食ってるような連中がうようよいる中、漆黒の直線的なおかっぱに全身黒でかためたカラス族のおねえさまがたが颯爽と闊歩しているのを見つけて身悶える、そんな子供でした。一方で、フラッパールックからニュールックへの流れや、物語のあるエレガントな服が好きなのは、イヴサンローラン萌え(説明略)の影響ですね。そして、着るものに関するポリシーで一番影響を受けたのはイッセイミヤケだと思います。ちょうど彼が服飾とアートとの境界線をぐいぐい攻めていった時期が物心つくときと重なっているので、アーヴィングペンの広告写真を切り抜いたりして、かぶれた、というくらい心酔していました。「一枚の布」とか、服のために体型を絞るのではなく体型に添う服を着る、とか。あと、いくら好きでも全身黒で統一したのじゃつまらないぞ、とかね。頭で考えるコンセプトありきで服を捉えるようになった。不幸の始まりですね……。

リアルの話をしますと、自分で服を買うときに気をつけているのは「似合うこと」。どうも私は昔から、サヱグサのワンピースみたいな淡い色使いの女児向け子供服が似合わなかったんです。よそゆきの服は2歳下の妹とお揃いや色違いで着せられることが多く、妹の似合う服が私には似合わない、という事例を細かく観察しながら、自分に似合うものを見定めて「現実的に好きな服」ということにしていました。『イグアナの娘』に同じエピソードが出てきますが、本当、ピンクでなく黄色や濃紺のワンピースとか、コスプレ感覚で着られるチロリアン風セットアップとか、あるいはプレッピーかつボーイッシュな格好に、ずいぶんと助けられました。

中学生以降、周囲の友人たちは、好きな文化や音楽に合わせて服装を変えていきました。わかりやすいのがヴィジュアル系と渋谷系ですね。ただ、私は両方とも等しく好きだったので、素直に模倣できなかった。テクノカットにベレー帽かぶってボーダー着てボンテージパンツ穿く羽目になるので……ここで初めて「ファッションって難しいな、私は着るもので自分を表現するのに向いてないんだな」と思い知り、それを放棄しました。以降、あんなにDCブランド志向な幼女だったのに、裾がすりきれたら商店街で一番安かった服を買って着替える、という調子に堕して、今現在もそれが続いています。高校までは毎日制服だったし、私服にお金かけるくらいなら本と漫画とCD買いますよね。Twitterアイコンの写真は2010年撮影ですが、H&Mの3200円のワンピースに、ユニクロの2900円のジーンズです。

大学に入るとスニーカーにジーンズにリュックサック、一枚で着られるセーターかカットソー姿で一年通していました。ここまで読めばおわかりのとおり、私にとって理想の「着るもの」を実現している人物は、オバケのQ太郎と三宅純、それにスティーブジョブズです。イッセイミヤケの同じセーターを数百着買って毎日着る、私も大富豪になったら同じことがしたいですよ。しかもそれが黒のタートルネックで、長袖を着ながら七分丈か肘のところまでずり上げるのも、私と同じ。手首と前腕を見せると機動性が高くなるうえシアトリカルに指先が映えるんですよね。そしてあれ袖口が伸びきったところで新品に換えるんだと思う、私と同じ。学生時代は冬になるといつも、母親から強奪した70年代製の黒いタートルネックセーターまったく同じもの二枚を、一日置きくらいで着てました。というか、頻度は落ちたけどまだ着てます。

その後、泣く子も黙るファッショなファッショニスタ・沼田伯父の下に就いて、少し矯正がかかります。会うたびに憤死せんばかりの勢いで「今度その格好で来たら破門!」と怒られ、別の格好で行くと「柄物は着るな、白と黒しか着るな、ヴィンテージと一点物には手を出すな」挙句は「わかった、君には無理だから、オシャレしようとか考えなくていいから!」と教育を施され、……20代前半にしてようやく「ああ、コンサバってどんな馬子でも似合うからコンサバって言うんだなー」と学びました。撮影用衣装のお下がりもずいぶん頂戴しました。有難いですね、これもまだ着てます。あと、センスのよい人たちの談話から「サイズ」こそが最も重要な着るもののファクターと学習したので、そこも気をつけています。昔はメンズや古着も好きでしたが、今は着丈が合わないものには手を出しません。

こんな調子で、「着るもの」に関しては、昔からずっと「しないことリスト」を整備しているという感じです。年々「しないこと」が増えていって、最終的に自分の経済力と折り合いのつく落としどころで、私なりのオバQ=ジョブズなスタイルに到達できれば幸甚至極です。アニマルプリントは着ない、ビーズやスパンコールや飾りポケットの付いた服は着ない、襟のあるものは洗いざらしで着ない、手編みレースとゴム袖口は着ない、Tシャツは一枚で着ない、スーツ以外でセンタープレスは穿かない、レギンスは履かない、合成樹脂の靴は履かない、小物以外でシルクは使わない、向こう10年身につけるつもりのない服飾品は買わない……。全身のコーディネートも、色や柄はともかくシルエットに還元すると3パターンくらいにおさまるはずですよ。髪型も、理想はスキンヘッドですが、地毛色で前髪なしの前下がりショートカットへ収斂させています。先日うっかり魔がさして10年ぶりくらいに前髪作りましたが。とにかく、他者から見られたときの「額縁」を固着させたいという心理です。

そうそう、なんでいつも首に何か巻いてるんですか? とよく訊かれますが、冷え性だからです。かつては真夏でもタートルネックを着ていたので、今もうなじに布が当たっていない日はノーパンみたいな気分になります。なんでいつも網タイツなんですか? もよく訊かれますが、ガシガシ洗っても伝線しにくく、万が一しても被害が極小で済むからです。肌色ストッキングの伝線が親の仇より嫌いです。濃い色の下着が多いのも汚れや褪色が目立ちにくいからで、部屋での寝間着には、……え、そんな話が聞きたくて質問したんじゃない、もうたくさんだ? そう言うと思いました。ファッションについての質問は、これでおしまいでよいですよね。こちらも針の筵なのでお察しください。