土曜日。今年一番の冷え込み、というので家に籠もって何もせずに過ごした。外はとても天気が良くて、日差しだけならポカポカあたたかいのだが、戯れにちょっと窓を開けてみると、窓の取っ手のところが冷たすぎて素手で持てなくなるほど。慌てて閉めた。
昨日、tktsのところでとてもオシャレな女性を見かけた。まだ若くてほっそりしたスタイル、ばっちりフルメイクに全身を鮮やかな緑のグラデーションで統一していて、どことなく1920年代風、どっしりした外套にフェルト製のクロッシェ(釣鐘帽)を被っているのがとても素敵だった。しつこいようだが、世間一般のニューヨーカー女子はこんなオシャレして出歩くことはない。けれども、タイムズスクエアでこういうフラッパースタイルを見かけるとそれはもちろんアガる。無理やりに東京で例えると「観光客でごった返すラフォーレ原宿へ続く雑踏で、コスプレのレンタルでなく自腹でコーディネートしたアンティーク着物を着てる女子を見たら、明治神宮の森を背景にきゃりーぱみゅぱみゅよりかわいく感じた」みたいな話だろうか。それでまた、すっぽりぴっちりヘルメットみたいにつるんとしたクロッシェがすごく素敵で、おー、私もかぶるー! となってネットで検索してるのだけど、なかなかいい出物がない。
そう、帽子についてである。東京にいるときは滅多に被らなかった。髪型が崩れるし、ただでさえ絶壁の頭頂がさらにぺたんとなるし、あと、脱ぎどきがわからない。これが大きい。屋内では帽子を取るのが礼儀だと思うのだが、たとえばふらふらショッピングしてるときなんかあちこちの店に入るたびに脱ぐべきなのか、いや違うだろう、でも暖房が効いてるところだと暑かったりもするし、しかし手袋を脱ぐのとコートを脱ぐのの間にマフラーと帽子をやっつけるべきだよね、夏場の麦わら帽なんかもっとわからない、……というわけで、「手に負えない」という言葉がしっくりくる。
しかしまぁ、こちらへ来ると「防寒のために必須」、帽子の意味合いがまるで変わる。ぶっちゃけ頭頂が冷えて困ることはそこまでない。摂氏-10度くらいまでなら、ちぎれそうになる耳を保護する耳当てさえあれば戸外の寒さ自体はしのげる。でも一番の問題は「髪の毛をまとめておく」必要がある、ということだ。寒空の下、強風にあおられていると、耳当てで押さえのきかない自分の髪の毛が、びしばし顔に当たる。この毛先が、凍るとまではいかないが、うららかな陽気の日と違って生肌に刺さると凶器のように痛い。顔の周りにランダムに剣山が飛んでくるみたいな話で、髪型なんてどうでもいいからすっぽり覆って固定してくればよかった! となる。最近は、室内でも帽子を被ったまま、その格好で授業など受けるのもまったく気にしなくなった。頭にニットキャップをのせたまま、首から下がえらい薄着でスースーする、というような服装に自分で違和感を感じなくなった。手袋の脱ぎ履きは歩きながらでもできるけど、帽子は被りっぱなしがよいし、ボサボサの頭を帽子で隠したまま一日過ごせてむしろよい。かまやつかまやつ。(←合いの手)
東京でオシャレのつもりで買った、編み目が粗くて存在感のあるポンポン帽は、すごい勢いで冷気が通り抜けていくので摂氏-10度以下からは使い物にならない。同様にロシア帽「っぽいデザイン」のやつも耳当て必須、所詮「っぽい」ではシャレにならん。つばが大きすぎるやつも吹き飛ばされそう。街中では革製で耳垂れがついてて中がモコモコしてるいわゆる飛行帽を被っている男子もいなくはないが、毎日使うものと考えると首から下と合わせづらい。などとうろうろ考えていると、逆に、東京で見かけても何とも思わなかった伸縮自在のニットキャップや耳まですっぽり覆うフェルトのクロッシェを「機能性とオシャレを兼ね備えていて、合わせやすそうで、素晴らしいな……」という目で見るようになった。
しかし今度はまた、自己主張のないミニマルな帽子というのを探すのが、結構難しい。今のところ、一番寒い日はAETHER(イーザーって読むんだ! ずっとエーテルって読んでた……)のガチなニットキャップとユニクロのカシミアキャップ、そこまででもない日はフィリップリムのニットキャップかCA4LAのポンポン帽、さらにどうでもいい日はキャスケット二種(一つはニュージーズのグッズ。ネタのつもりで買ったら意外と重宝している)。ダメモトで買ったユニクロのやつがコストパフォーマンスよすぎ。「何の特徴もない帽子」というのがこんなに貴重なものだとは気づかなかったなぁ。
とくにクロッシェ、ちょっと探してみたんだけど、若い子向けブランドの量産品はペナペナで防寒対策になりそうもなく、ハンドメイド系はなんと申し上げるべきか、基本的に「年配の有閑マダムが御髪の衰えを覆って華やかにオシャレする」ために作り作られている風潮があり、異様にデコラティブな飾りがついたものが多い。たまに雑貨屋で無地のやつを見かけて値札を裏返すと「1930年代のヴィンテージ真作、激安850ドル」みたいな。もっとこう……普通にシンプルで付加価値のない、無印良品的なアレが欲しい……屋内や目上の人がいる前で被ってても咎められたりいじられたりしないような無難なやつ……とか言ってるうちに私もすぐ有閑マダム的な年齢となり、季節を問わず石岡瑛子的ターバンを巻いたりするようになるのだと思いますが。ちょっとまだ、あの手のファッションは老後の楽しみにとっておきたい所存。