火曜日、五番街を歩いていたら、突然の鼻血。鼻腔をたらーっと伝ってくるのは間違いなく鉄の味する鼻血。とはいえ大荷物で両手が塞がっており、ハンカチはあるけどティッシュはなく、立ち止まってカバンをあけて応急処置している暇もないので、必死に上を向いて歩く。なんとか垂らさないままオンタイムで登校。授業中も、気取って口元に手を当てて考え込んでいるように見せかけつつ血が乾くのを待つ。トホホ。しかも、授業中ノートをとっているスケッチブックを家に忘れてくるという体たらく。冴えないなー。
Helenのブックデザインの授業は、課題にOKが出るまで作り続けないといけない。私はまだ第1週の課題にもOKが出ていなくて、週を追うごとに宿題の負担が増え続けている。第一回課題は「自分の大好きな本」がテーマで、私はレイ・ブラッドベリ『たんぽぽのお酒』を選んだ。薄紙や色つきのトレーシングペーパーを重ねて太陽ともタンポポの花弁とも見える図案を作っているのだが、これがHelenの指示するイメージになかなかたどり着けず、何度でもやり直し。「どうしてディスコミュニケーションが生じるのかしら、もう何週間目よ、なんで言った通りにできないの、これは言語のせいなの?」と手厳しい。別案で試しに作った刺繍の図案のほうは、なんとかOKをもらう。
第二回課題は講師から強制的に配られた「1ドル古本」に見違える表紙をつけるというもの、私は『MOTHER KNOWS BEST』という題の犬のしつけ本で、「The Natural Way to Train Your Dog」が副題。こちらはタイトルのTの字を母犬に見立てたスケッチが一発OKをもらい、cuteになりすぎないように、と注意を受けながら手書き文字をメインに据えて作り直し。この日は「だいたいOKだけど、いま書体で作っている副題も全部、書き文字にして」「あと、犬の尻尾をくるんとさせてね」の2点のみ。迷っていた手書きの跡は入れる方向で。おお、こっちの課題は来週で終わるぞ、と未来が見えてきた。
そして本日は第三回課題のスケッチも見せないといけない。こちらは「シリーズものの装幀」がテーマで、最低3つ4つは続き物と見えるデザインを作っていく。私はいろいろ考えた結果、「世界の戯曲」にした。マイナーな新人作家の短編小説集を幾つか選んでオシャンティさを発揮、なども考えたのだけど、プレゼンのたびに一つ一つ話のあらすじやテーマを(英語で)説明しないといけないのが面倒で、Helen相手にそこでつまずくと消耗が激しすぎる。というわけで、「『シラノ・ド・ベルジュラック』も『おかしな二人』も『ウィンズロウ・ボーイ』も『サロメ』も、全部この同じフォーマットで芝居の中身を表現できて、どんな現代風の演出がついても邪魔しません」というフォーマットを3種くらい考えてずらりと並べた。ハードカバー判型だけど、ノリは光文社古典新訳文庫ですね。で、みんな同じこと(有名戯曲は説明がラク)を考えたのか、シェイクスピア戯曲のシリーズを作ってきた子がネイティブ含めて2、3名。ほらなー。そう思って私は敢えてシェイクスピアだけ外したんだよね。おおむね好評なので、来週は3案のうち2案を作って持参。えーと、第一回からの課題を全部数えると、来週までに作るものは、完成品を14点とか? 死ぬわ。
Helen様の授業後は放心状態になってしまい、Mattのウェブデザインはいつも超テキトー。宿題はほとんど終わらず、授業中に片付けて遅延提出がデフォルトになってきた。この日もノートを忘れたので小さな手帳に3ページ分くらいしかメモを取っていない。座学から実作へ移り、授業時間内で個々人の作業を進め、それを講師が見回りながらアドバイスしていくというスタイルに切り替わったので、これ幸いと、1週間のうち2時間半だけ集中してウェブサービスのことを考える。私のアイディアは「服のタグを読み取って素材に合った衣服の洗濯方法を教えてくれるアプリ」で、レシートを読み取って家計簿つけてくれる「Zaim」のランドリーバージョン。スケッチを書いてるときはこれでキマリだろと確信していたものが、クラス内のディスカッションを経てずいぶん中身が変わった。今は「ホームクリーニング指南+ドライクリーニング外注(専門業者がボタン一つで自宅まで引き取りに来る)」が二本柱の、「服ごとに最もスマートな洗濯方法を管理してくれるアプリ」に進化しつつある。