本日メモリアルデーを含むこの三連休は、この国において「夏の始まり」といった意味合いがあるのだそうだ。たしかにすっかり夏本番の陽気、体調がすぐれないこともあって、思う存分ゴロゴロ過ごしている毎日。来週の今頃から夏学期のオンラインクラスが始まる予定だが、まだ春学期の総括もろくにできていない。とりあえず「春学期のESLの成績よかったから、来学期の英語クラスは免除になるんだよね!? 飛び級できるんだよね!? ねっねっ!?」という確認のメールだけ送るも、学事アドバイザーはもちろん休暇中で、返事を書き始めるのは来週以降になるという自動返信メールが来た。
ちょっとでもメモリアルデーっぽいことしようと思いつつ、あまりに暑くてフリートウィーク(水兵さんとのふれあい広場的な何か)へ行く気にもなれず、クーラー全開の涼しい自宅でローカルニュース番組を観ながら「つまりはお盆だね?」「お盆だね……」と言い合っているところ。夏の暑さとともに思い出される戦没者たちの姿、年に一度の墓参り、それより何より重視されるファミリーギャザリング、銀行や郵便局はもちろん服屋や飲食店でもセールや特別メニューを出してるところと同じかそれ以上に店舗を閉めているところが目立ち、がらんとした街中では、ガイドブックを抱えた外国人観光客たちがあちこちで呆然と佇んでいる。そして記念式典のスピーチで空軍関係者と思しき愛国老人が「貴様ら、今日という日が祝日なのは、会社休んでバーベキューするためだけじゃあないねんで!」と大衆を叱りつけていて、そう言われると急に重苦しいテーマを扱った戦争映画の長編大作など見返したくなり、ところがキャスターがすかさず「それではビーチの様子を中継で見てみましょうー、雨は上がったかなー!?」とか言うので三秒で忘れて海水浴場の浮かれた人々を眺める。……すべてが……お盆だ……(既視感)。ついこないだまで広島にいて平和祈念資料館を10分だけでもと訪問したというオバマ大統領が飛んで帰ってきて墓地へ献花を捧げる様子を眺めつつ「ハシゴおつかれさまです」と思う、5月下旬だけど、気分はすっかり8月上中旬。
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昼は近所をフラフラして、アメリカンダイナー風の内装でアジアンテイストの定食を出す店へ。夜はペルー料理のハッピーアワー。同じ世界の料理でも、「まるでどこか外国で旅をしているような気分になる店」と「ああ大都会ニューヨークでエスニック料理を食べているなぁという感慨にひたる店」の違いについて話す。後者もけっして悪い評価ではない。東京のおいしいエスニックの店は大概こっち側だと思う。しかし前者のような没入感を得る店もまた稀有で価値があり、「窓の外がニューヨークだなんて信じられない」という二重三重の贅沢を味わうことができる。
学期中ほとんど起動しなかったkindle端末で、長らく未消化だった週刊少年漫画を一気に読み終えた。発行年月が昨年のものなどもあり、足の早い時事ネタの類はすっかり風化してしまっていて、本誌連載派とコミックス派の感覚の違いなど吹っ飛ばすほど、ひどく遠い出来事のように思われる。一方でまた、東京で当たり前のように働いていた頃には「そういうもの、お約束の一環」だと思って読んでいたセリフが、時を経てやけに刺さったりもする。とくに、学内の成績順位争いで序列の決着がつきつつ「自己研鑽と切磋琢磨」を奨励し、何者かになるためには「努力の方向性と進歩のタイミングを履き違えないことだ」としつこく唱え続けるような学園モノの漫画たちを、「うおおおおおお!!!」と唸りながら明け方まで読みまくってしまう。というのはやはり、自分自身も学生身分に戻ったからなのだろう。完全に「萌え」より「燃え」だなぁ。OL時代はもっと、無償の癒しをくれる愛玩動物のような漫画を好んでいた気がするが。
さんざん日本の漫画を読んだ後、日本出張中の滞在先を探して、民泊関連のサイトを見て回る。アメリカから日本へ渡航して可能な限り安い宿泊先を探す私の目線は「異国よりの旅人」のソレなんだけれど、一方で、生まれたときから40年近く筋金入りの「東京で育った日本人」でもあるわけで、両方の感覚を行き来しながら紹介文を吟味するのが面白い。結論から先に言うと、最初の検索では条件に合うところが見つけられなかった。私の条件に最も合致していたところはよくよく読むと男性限定のシェアハウスで、さらによくよく読むと青い目をした家主よりの備考欄に「初めての日本旅行でも東京ガールをペロリといただく効率のよい方法教えます、漁場は六本木だけに非ず」的なことがオブラートに包まず英語で書いてあり、もしかして通報案件ではないか。一方で「新宿駅至近、夜遊びに最適の歌舞伎町中心部、二段ベッド完備で女性限定十数名を収容可能な相部屋」という、ほんの少し前まで別の目的で使われていたに違いない間取りの部屋に、まったく気づいてなさそうな若いバックパッカーたちの大絶賛が並んでいるのも面白かった。こっそり不法の高収入バイトも斡旋してたりせんだろうな。そして「世界中の人たちとトモダチになって日本の素晴らしさを精一杯お伝えしたいです!」といった紹介文を「日本語でだけ」書いて掲げている若者らしきホストも結構いて、なかなかモヤモヤする。いかにも日本語堪能そうな外国人利用者から好評価がついているのが余計に。あと、京急線沿線の部屋が「羽田空港に近い!」を謳うのはわかるけど、「成田空港に近い!」を謳う部屋のほとんどが普通に遠いだろ、心理的距離は都心部とそう変わらんだろ……とかね。でもこういうの、自分が外国人だったら地図だけ見ても違いが全然わからないだろうなぁ。わからないまま、そこそこ満足して帰りそうだな。それはハッピーなことなのかもしれない。
最終的に「巨大ターミナル駅に程近い閑静な住宅街に佇む清潔な一軒家、親子二人暮らしで犬猫を飼ってて門限なし、たっぷりの個室は掃除の必要がなく、朝食ついでに観光の相談にも乗ってくれる……ってこれがもし行ったことない外国の首都ならすっごい好条件と思うかもしれないけど、あの私鉄沿線であそこの隣駅ってことは各駅停車が来るまで何十分待たされるかわからんし、こんなオカンアート満載のファンシーハウス構えてる自称『語学堪能、お酒とおしゃべりが大好き』なホストのオバハンとか地雷でしかないわー!! 世界各国から来た老若男女が最高のステイだったと大絶賛してるけど文通とか強要されそうだし私は絶対に泊まりたくねえ!!」……とまでツッコミ入れた後に、「これ、ほとんどうちの実家の私のオカンじゃないか……」と賢者タイムに突入する。「メモリアルデー、ほとんどお盆じゃないか……」と同じである。数年後に実家の二階がAirbnbになっててもちっとも驚かないし、私が最低評価をつけて飛び出した同じウサギ小屋が、ゆきずりの孤独な旅行者を慰めるトラディショナルでリアルなジャパンをフィールできるハートフルな第二のマザーがいる最高のステイ先として俺以外の全世界で大絶賛されていたとしても頷ける。うん、ハッピーなことなのかもしれない。
いきなり決まった東京行き、いきなり実家の厄介になるとそれはそれでお互いにストレスたまるだろうと思って「気楽」なはずの民泊を探していたのだが、外国でなら楽しめる面白体験も、祖国では少々しんどいかもしれない。ちょっと別条件で探したほうがよさそうである。もちろん、鼻血噴くほどオシャレな部屋とかもあった! 探せばいいとこも超あった! でも「貸切個室でこれ以上の宿泊料を出すなら、大浴場付きビジネスホテルとかでいいかなぁ」とも思ってしまった……。いくら眺望抜群オートロック完備の高層タワーマンションでもこの規模だとワンルームで風呂がユニットだったりするでしょ(眇)? という調子で、離れてみると譲れない条件というのも変わるものです。まぁそこ突き詰めると「ネットカフェかカプセルホテル+銭湯の綴り回数券を買う」という結論に落ち着きそうで怖いのだが。引き続き、外国人旅行者になりきろうとしつつ日本人感覚も抜けない新米イヤミとして「初めての東京」滞在計画に想いを馳せることにする。