2016-11-07 / 夜の美術館

11月5日。外出先から帰る途中、友人から久しぶりに連絡をもらう。親子でシティに来てるので会おうという話になり、19時過ぎにメトロポリタン美術館で待ち合わせ、21時の閉館まで館内で遊ぶ。ちゃんと会うのは初めての3歳児に、大階段を上りながら軽い気持ちで「きみー、METは初めてかなー?」と訊いたら、「いや、妻のお腹の中にいる頃からしょっちゅう来てたし、今も毎週のように来てるし、もう100回以上来てますよ……」と言われて驚く。「ここは、NYCで小さな子供を思いきり好きに走らせて大丈夫な、数少ない場所なんですよねー」と言われて納得。車道の近くでは絶対に目が離せないし、あちこちにある公園だって基本は大人向けに作られている。ブルックリンやクイーンズの閑静な住宅街はさておき、シティでは外で遊ぶ子供って見かけないな。野良猫と同じくらい、そんな光景が恋しい。そして同じ美術館でもグッゲンハイムやMoMAだと建物の構造上、好きに走らせるのは危ないよね。なるほどメトロポリタン。子供には子供の描く街の地図があって、親子連れはそれに従って動いていて、大人だけで暮らしてる我々は、同じ街にいても気づかないんだよね。

それでたしかに3歳児、私よりずっとメトロポリタン美術館に詳しいのである。「仮面のとこ行こう」「ガラスのエレベーター乗ろう」「こっちじゃなくてあっちだよ」とか言って、大人たちを置いて一目散にスタスタ歩いていく。石造りの建物で滑りやすいし、階段なんか転ばないかと心配になるんだが、足取りに迷いがなくて腰も据わってて、すげー、さすがアメリカの子供だなぁ、と思う私は日本の木造家屋育ち。大人はついつい別棟の西洋絵画から見始めてしまうものだが、仮面や祭装束、剣と盾、動物や人間をかたどったプリミティヴな彫像に惹かれるみたいで、解説を読んであげたり、むしろ解説してもらったりしながら、普段あまり見て回らないセクションを駆け回る(時々、係員に怒られる)。小さな子供(男女問わず!)の興味分野が、武器か乗り物か昆虫か怪獣かに分かれていく過程、不思議だなと思ってるのですが、ここアフリカ・オセアニア・アメリカセクション、装飾品も乗り物も微細なものも巨大なものも全部陳列されていて、ああそうだよね、先に立つのは新幹線とかウルトラマンとかじゃないんだよね、私たちが惹かれるのはもっと太古の記憶なんだ、と思い知る。

子供を追いかけて歩いていると自然と目線が低くなって、一緒に地べたに寝転んだりしながら(これも係員に怒られる)、陳列棚を覗き込むと、角度が変わるだけでものすごい迫力がある。メラネシアの部屋、天井から吊られた仮面を旗のように接ぎ合わせたもの(後で調べたら儀礼用の家の天井部分らしい)を見上げて、「これ、うちゅうせんなんだよ」と教えてくれた。言われてみると本当に異世界から飛来した船のように見える。私たちはかつてみんなこれに乗っていたのかもしれないとさえ思う。私はまだニューヨークへ来て1歳3ヶ月、このプレイグラウンドでは、100回来ている3歳の彼のほうがお兄さんなのだった。帰り、車で送ってもらったら、「この天井、じどうであくのー」とこれまたご自慢げ。運転席のお父さんは「自動じゃないよ、僕が手動で開けるんですよ!」と苦笑しながら、路肩に寄せて屋根を外す。望むものがすべて、じどうで動く、思う通りの世界を生きている子供と、その周辺をぐるぐる取り巻きながら、続く限り、許される限り、彼が望む世界を回していこうとする大人たちとが、オープンエアルーフを開放して一緒に夜風に吹かれる、あたたかい晩。また遊ぼうね。


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6日日曜日、『カルテルランド』、『美術館を手玉にとった男』、『グランドフィナーレ』(横目)、『グランドブダペストホテル』(再)、そして、ためこんでいた『刀剣乱舞 花丸』と『ユーリ!!! on ICE』をまとめて観る。どの作品もそれぞれに素晴らしく(王女か)、とくにまだ続いてる『花丸』と『ユーリ』は、みんなと一緒にリアルタイム視聴できないのが悔しいよ!

7日月曜日は朝4時くらいに起きて、cakesの人気連載「ハジの多い腐女子会」最新回の収録をSkypeで。おそらく史上最強と呼んで差し支えない強力なメンツが集結していた。んだけど、やっぱり現場にいないとモタモタするなぁ。若者たちから炸裂する知らない単語を手元でぐぐって把握しながら必死で会話についてったのですが、私が手元で何をしているかはSkype画面越しで見えないため、心配した編集Rから一つ一つ「岡田さーん、ちゃんと話ついてこれてますかー?」といたわられ、ほとんど遠隔介護されてる老人のようでした。あと、『刀剣乱舞』も『ユーリ』も本当はカップリングの話がしたいんだけど、参加者の顔は見えてても「顔色が窺えない」状態なので、「私は……どちらかというと受けだと思うけど……どうかな?」「あの人気カップリングって、地雷の人もいる……んじゃないかな……?」といった探り合いがいつになく慎重だった。オフ会だったらぽんぽん話せるんだけど、普段のコミュニケーションって言語以外にもものすごい情報量をやりとりしてるんだなと思う。