友人の結婚式があるということで、フランスはコートダジュールへ行ってまいりました。こんなに前から日程がわかっている旅行というのも珍しい。ニューヨークではまだ極寒の時分からしょっちゅう「夏の長期休暇はどうするの?」と尋ねられるのだが、「何も決めてない」「どこも行かないんじゃない?」と答えてはガッカリさせていた友人知人たちに、今年は「南仏! 南仏!」と勢いよく回答できて嬉しかった。ヴァカンスのためだけに生きて働いてるって感じの人々に対して、訊いたほうのテンションをブチアゲられるような返事ができると嬉しいものです。上半期ずっと私について何か言うとき「この夏は南仏に行くIku!!」という枕詞をつけ続けた仕事仲間がいた。どんだけだよ。
パリに二度ほど行ったことがあるきりで、フランスの南側へ行くのは初めて。NYからはデルタ航空の直行便があるので、ニースに滞在して海岸沿いにちょこちょこ日帰りで回ることにしました。メインはニース郊外、エズ村の高台、断崖絶壁の上にある海を見下ろす古城でのウエディング。ドレスコードに「イヴニングドレス」とあるのは初めてでビビりつつも準備するの楽しかったな。最初はちょっと恥ずかしかったのだが、頼まれてもないのにまた着たくなる中毒性がある。こちらNYでは百貨店の階上にロングドレスの売り場があって割と安めから買えて、選ぶのもまた楽しい……というのはまた今度書きます。しかしパーティーがあるからと調子こいてカリスマと名高いインド系美容店で眉のスレディングのついでに背中のワクシングをしてみたら、ナチュラルでオーガニックとあったのに盛大にかぶれてしまって今もヒリヒリする……日本人には日本人のスキンケアがあるのじゃ……というのもまたどこかに書きます。
モナコではほとんど観光しなかったのだけど、ホテルエルミタージュ直結のテルムマランモンテカルロは最高でしたよ……。海水プールや屋外ジャグジーやマッサージはもちろんのこと、小ぶりながら強力な湿式乾式のサウナが地味によくて、日頃から温泉に飢えている身にしみた。一秒でも長くデッキに居座って日光浴をしようと競い合う西洋人たち(推定ロシア人が多かった)を尻目に、ひたすら窓のない小部屋に籠もって汗を流す東洋人よ。ニースのエクセドラの地下にある秘密基地みたいなスパもよかったなー。渡米して風呂に支障を来してからというもの、良質な湯水のためなら湯水のごとく金を遣っていくスタイルが板についてまいりました。こちとら生きるか死ぬかなので、金で買える湯水は金で買うわ!
ニースの国立シャガール美術館、マティス美術館、近代現代美術館(MAMAC)、カンヌのボナール美術館、アンティーブのピカソ美術館とペイネ美術館、ビオットのレジェ美術館、マントンのジャンコクトー美術館、どこもそれぞれに素晴らしく、他にやることもないなか散歩がてら目指して行く場所のある有難さを噛みしめる。こんな気候のいいリゾート地にいたら頭のネジがゆるんで尖った創造性なんて発揮できないだろ、と思っていた己を恥じた。街場の美術館で想像力を頼りに鑑賞するより断然よい、リゾート地に置かれるべくして置かれてる芸術作品というのがありますな。伊豆とか箱根とか軽井沢とかに謎のミュージアムがやたらと乱立してるのって、元ネタ、これだったのか……と妙に合点がいった。
食は、ミシュラン二つ星レストランと、ニースの旧市街にあるレストランあれこれと、あと、切り売りのピザ屋がよかったです。その三つを並び称すのどうなんだ、と思うのだが、ほら、イタリアが近いから。魚介がどうこう以前に、イタリア風の味付けのものがひたすら美味かった。まぁニューヨークのジャンクな99セントピザもあれはあれで美味いんだが、あれはコンビニの肉まんが美味いみたいな話で。切り売りピザ屋、どちらかというと日本人パティシエが作るケーキみたいな変態的な美しさがあった。毎晩とにかく夜ごはんが重いので、昼食抜いておやつ食べる感覚で通ったね、ピザ屋。
どれだけ頭のネジがゆるんだかというと、そろそろ秋めいてきたニューヨークを飛び出し、涼しくて過ごしやすい真夏がずっと続くようなニースへ来て、……なぜかウールのコートを買って帰る、というアホっぷり……。サンダルに麦藁帽子という出で立ちで入店してロングコート買うとか初めての体験だよ。あまりの季節感の無さに試着がまったく意味をなさなかったのだが、きっと真冬の東海岸で大活躍してくれると信じている。とかいって帰国したら帰国したで、ニューヨーカーたちは「夏の終わり」を満喫すべく、あるいは「秋の到来」を認めたくなくて、紺碧海岸の遊歩道でもそんな露出度高い奴はいなかったよってくらいぺらっぺらのサマードレスを着て闊歩しているのだった。あっという間に雪とか降りますからな。
ものすごく長い時間を過ごしたようで、書いてみるととくに書くことがない、というのはリゾート旅行の美点なのかもしれぬ。とだけ書いて筆を擱きたい。続きは Instagram に写真を上げますので、そちらでお楽しみください。フォローしていただけると喜びます!