ただの身辺雑記です。有給休暇をとって昔住んでた町の銀行支店へ行き、大学大学院6年間分の学費ローンを繰り上げ返済してきた。繰り上げは2回目、今回で完済。アイスレモネードで一人乾杯して自転車で帰ってきた。こうしてみると想像した以上にすがすがしい達成感があるので、思いつくまま書いてみる。
私がお世話になったのは、母校でかなり利用者の多い貸費奨学金のような教育ローン。厳密には違うけど説明略。卒業と同時に返済を始め、10年で完済する。学生の間は利息をオマケされる感じなので、在学中バイトに追われたりせずに済むのがメリット。24歳で社会に出た私の場合、34歳までに返す予定表を組んだ。当初20代で繰り上げ完済を目指し、9箇月遅れでなんとか30歳のうちに達成した。長かったぜ……。
そもそも私、けっして裕福ではないのに教育費だけやたら注ぎ込む家庭に育ちながら、国立大志望を直前で転向させ、明らかに価格帯が分不相応な大学を選んだ。親からはAO入試の出願料も出し渋られたし、12月に合格が決まったときは祝いの言葉より先に「でもセンター試験は受けるのよね?」。まぁ進学予備校でもほぼ趣味に近いような授業(京大国語という名目の近代文学講義とか)履修したり、放課後はディスクユニオンお茶の水校という名の自習室にせっせと通ったりしてたので、「この塾代はドブに捨てて、そのナントカゆう無試験の私大へ行くのね?」と言われて目を見返せず「わかったよ、払うよ、学費全部払ってやるよ!」と早々に啖呵を切ったのであった。弟妹はその後、普通に親の金で私大行きましたがね……。自分、初孫長女ですから……。
ともあれ、家族にちょっと不器用な虚勢はってでも自分で学費払ってよかったなと思うのは、当たり前だけど「あらゆることが自己責任」と思えるようになったこと。あと「枷があると真面目に仕事する」……これ本当に大事。飛び抜けて優秀でも何でもない私は幾つか給費奨学金に落ちてこのローンを組んだわけだが、生では見たこともない金額が返済予定表に書き込まれ、2014年まで自由がない。たしか退学したり前科者になったりすると即刻全額返済義務が生じるのだったと思う。否が応でも弥が上にも、身が引き締まる。かなり自堕落な学生生活だったけど、この制約がいろんなことにブレーキをかけてくれた気がする。
その一方で、所属研究室の初作品集(中身はパラパラマンガ)を見た父親に「こんなことさせるために大学へ行かせたんじゃない!」と一蹴されたとき「高校まで行かせてもらったのは感謝してるけど、進学したのはあなたの願望を叶えるためじゃない!」くらいはアクセルふかせるようになった。そういうスタンスでないと、あれこれ意思決定が鈍るので……。
幼いうちから一貫校に通い、親が丁寧に敷いてくれたレールの上をぬくぬく走ってきたものの、大学というのは自分のしたい学問をしに自分で選んで行く場所なのだから、やっぱり医学部行ってほしかった云々と見当外れのことを嘆かれたくはないのだ。
もちろん生活面では親から多大な援助を受け続けたし、今も頭が上がりませんが、毎期のカリキュラム決めるときなんかはひとまず脳裏からご退場いただいて、純粋に自分自身が「金払ってでも受けたい」と思った講義だけ履ったつもり。自分で自分の財布握ってれば「本当は俺が望んでここにいるわけじゃないんだ……」などとほざくモラトリアムに「目障りだからガッコ来んなよ」とも言えるしね。
それから、月々の学費返済のため「向こう10年間は定収入を得る(または何かで一山当てる)」ことが最優先事項だった私にとって、最近ネット世論が批判的であるらしき「新卒一括採用」に「就職活動」でエントリできたのは、かなり効率よく有難いことだったですよ。とも書いておきたい。この借金、および日本風の就活、どちらが欠けても私は「(サラリーマンの中で選ぶなら)編集者になりたい」という気持ちにも気づかず、この年齢でも自分探しの旅をしていたはずだもの……。
卒業後に一つ一つ吟味しながら企業や組織を飛び入り訪問して終わりなき求職の旅すること考えたら*1、ほんの数箇月、学業と両立させながらES量産してバラ撒いときゃどこかひっかかるかもしれない、というチャンスは合理的ではないか。私が今勤めてる会社なんか応募資格「若めの大卒、職歴不問」程度のユルさだったし、そんな中小企業は探せば幾らもある。現役学生さんは一度やってみてから(年齢制限の問題とか)disればいいと思うよ……。脱線。
ここまで読んで「なんだ、どれも当然のことじゃないか、わざわざ何書いてるんだ」と思った人は、相当に真面目な性格の、健全な精神と鋼鉄の意思を持った素晴らしい人間です。私はこうして何か己に箍を嵌めておかないと、どんどん自称☆夢追い人とかそういう方向へ転がっていってしまうのですよ。在学中に成績を保てたのも、卒業後なんとか自活できてるのも、風船みたいにふわふわ性根の浮わついてる私に、学費という重石がされていたおかげなんだよ!!
たかが数百万、おそらく同年代でバリバリ稼いでる人の年収をはるかに下回る額だけど。コツコツ節約生活してもっと早く一括返済した卒業生多数だと思うけど。私のような者にはすげえ重荷だし、ほどよい矯正ギプスだったわけです。というか母校側もこのローンの設立目的「離職率の上昇を防ぐ」ことですよね? むしろ本当に優秀な学生が他人様から賜るべき給費奨学金をそんな使い方したらバチ当たるので、借金大正解です。達成感はあるけど、これは苦労話ではない。どこまでも自業自得。おかげさまでやっと人並み。ゆえにその有難味を噛みしめてメモするものなり。
それで、晴れて自由の身になってしまったので、今は、途方に暮れているところ。いや、仕事は非常に楽しく、カネのためにやってる気は全然なく、クビになるのはともかく当面辞めたくはない、明日から何か変わるわけではない、それでもよ。なんというか、今までにない大博打も平気で打ちそうな自分が怖いよね……。「この世に自分ほど信じられんものがほかにあるか!」by横島忠夫先生、ですよ。
世間の30歳独身が当然それなり蓄えてるはずの預金残高がゼロなのも、ほぼ毎日服装が古着かユニクロなのも、ツッコまれるたび「いや、小生なにぶん学費が」と誤摩化してたのが通用しなくなるしなぁ……まだ払ってることにしとこうかな。慌てて定期預金を今までより高い額に変えて貯金だけスタートさせてみたけど、どうすんのこれ。さすがに高校までの教育費の親負担は時効とさせてもらうつもりだし。ほっとくと私、満期に「藤子不二雄ランド」の古書全巻とか競り落としちゃうよ絶対。生活水準は下がれども上がらず、という予感だけがあります。
てなわけで明後日に迫ったこちらもよろしく
9月25日(土)SFCの鴨池に鴨を放そう! 放鳥オフのお誘い – 帝都高速度少年少女! – okadaicの日記
http://d.hatena.ne.jp/okadaic/20100921/p1
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*1:資格持ちの我が父はそうやって職を得たらしいが