私が手で書く文字は、相当な癖字である。よく言えば、MS UIゴシックや、font-family:Systemっぽい。悪く言えば、酒鬼薔薇聖斗の犯行声明文っぽい。この字は、10代のとき開発したフォントである。
当時の私は、<生きたワープロ>になりたかった。小学生の頃から親のNEC文豪MINI5SXを奪って愛用しており、ちょっとした文書でもすべてワープロで清書しては悦に入る子供だった(今も文豪の出力する平成明朝体が一番好きだ!)。でも、授業中のノートばかりは手書きでとらねばならない。ペン習字の経験はなく、好き放題に癖のある字のまま成長してしまい、これを矯正してお手本通りの<美しい手書き文字>を会得するのはどうせ無理だと諦めていた。
そこで、せめて<理想の字>くらいは書けるように、自分を鍛錬した。<ある一定の法則>を作って、そのルールに従って書くように努めれば、きっとワープロやタイプライタで書くように統一感のある<手書き書体>が作れるはずだ。もともと機械化願望が強く、きちんとかちんと揃ったものが大好きなので、さまざまな<法則>を己に与えながら、その条文を書き換えて向上させていった。初めて言語化するけれど、こんな感じか↓
・一般的な文字書体の升目を全角とした場合の「半角」幅におさめてシェイプする。
・デジタルのアルファベット表記を参考に直線だけで書く。
・ハネ→45度角、ハライ→垂直線または斜線、など漢字の筆跡も機械的に統一。
・「を」は「と&―」で記述するなど、流用できる部分は形を揃える。
・「俳」「拝」の旁にあるような横線は、間を均等に、長さに強弱をつけずに引く。
・どのひらがなに対しても「゛(濁点)」の位置と長さを揃え、斜めではなく垂直に打つ。
・同様に「点」「鳥」などの下部分の4つの点も、長さを揃えて垂直に打つ。
・その他、好きな和文・欧文書体の美しいと思う形を抽出し、真似する。(教科書体、宋朝体、オプティマとユニヴァースetc)
結果、かなり「人間味のない」素敵な文字がすらすら筆記できるようになった。試験の解答用紙など制限時間が迫っているときは字が崩れて丸くなるが、ゆっくり丁寧に書けば、だいたい半角幅におさまるようになった。次第に、手書きでものを書くことへの抵抗も薄れていった。
▲たまたま掃除をしていたら、高校3年生のときの英語のノートが出てきた。教師が黒板に波打つ形の中カッコ({})で書いたところを直線(||)にしている。いかに曲線を排するか、曲線のカーヴを統一するか、に熱中していた。粗い写真にしたのは文面を読んでもらいたくないからだからな。読むなよな。
でも、こんなのまだ、かわいいほうだ。世界史のノートなどは、もっと病的で超怖い。ヨーロッパ大陸の地図をビットマップのようにカクカクした描線でかたどり、情け容赦ない無数の直線矢印で侵攻の様子を図示した下に、びっしり説明文が埋まっている。1枚のルーズリーフにギッチリギチギチに情報量を詰め込むのも大好きだった。ビョーキである。友達にノートを貸すと「意味が読み取れない」と嘆かれた。密度が濃すぎて視認性が低くなり、ゲシュタルト崩壊を起こしたのかも。
また「色ペンは極力使わないようにする」というのもルールで、ほとんど黒一色で埋め尽くされた文字の中に、少しの赤字(臙脂色)を入れ、喧嘩しない配色の薄紫色で補足を書いたり、2色下線を引くときはモスグリーン×ビタミンオレンジなどを合わせたり(きっと『ファイブスター物語』のミラージュ騎士団へのオマージュ)、さながらモノクロ映画に着彩したような、異様に変態っぽい色味に仕上がっている。女子高生なんだから蛍光マーカーとかラメボールペンとか使えよ。
ちなみに今は、職業柄、慌ててあちこちに殴り書きすることが多いので、同じ癖字でも半角幅ではなく全角幅におさまるような大きめの字を書くようになった。なので、最近になって10代の頃の自分のキッチリカッチリした書き文字を見返してみると、「私って、大人になって、ずいぶん丸くなったんだなぁ」と思ったりするのである。
【追記】(2009/01)
正月休みに実家のような場所の納戸から発掘された別のノートの画像。詳細はtwitterログ参照のこと。
【追記】(2019/10)
このとき使っていた画像投稿サービスは撤収してしまったので、今年に入って再掲したときのtweetを置いておきます。
https://twitter.com/okadaic/status/1105291930114682881?s=20