うんと高いか、ものっそ低いか。中間はない。/「わが歌ブギウギ」

 招待券もらって天王洲アイル・アートスフィアへ「わが歌ブギウギ」を観に行く。笠置シヅ子の生涯(というか歌手人生)を、史実3:捏造7の黄金率でミュージカル、もとい歌芝居化したもの。真琴つばさ主演。まあ、私が何を観たくて観に行ったのかというと、草刈正雄のタキシードと上杉祥三のヘタレぷりです。吉本興業の御曹司という年下恋人がありながら、センセー(草刈正雄)からもグレさん(上杉祥三)からもプラトニックにちやほやされてて、ああ羨ましい。みたいな話。

 しかし“外見が草刈正雄で中身が服部良一”という完璧すぎる男に両手首掴まれて顔近づけられて「さあ笠置クン、僕と一緒に……!(本場のジャズを演ろう)」とか言われてんのに、なんであんな病弱な学生服のボンと恋に落ちるかね。両手を広げて首を振る米国風オーノー!の仕草で「すぅーばーらーしぃー! じーつぅーにぃすぅーばーらーしぃー!」とか「はっはっはっ、いいとも、いいとも、みたまえ〜、これが君のために書いた新しい曲だ〜!」とか、あの裏声でキンキン囁かれながらハグされてごらんよ。昇天だよ。草刈正雄と鹿賀丈史って演技パターン同一ですね。感極まるとすぐ裏声。布施明とかも同類項。大好きです。

 かたや上杉祥三、大阪時代からシー子の才能を見抜いていた座付き楽団員の役。シー子に横恋慕した挙句、戦時中に無理矢理迫って蹴飛ばされ、一躍スターになった彼女が眩しく目に映るほど己の凡庸さを思い知らされ酒に溺れてピアノ弾けなくなって、戦後、再会したときも目を合わせられず「早ょ立ち直りィ!」と(フラレた女に)張り手かまされて、物凄い屈辱感の中、面倒みられつつ断酒リハビリに励む……という、果てしなきダメ男。『宇宙の騎士テッカマンブレード』でいうノアルです。そしてミリィ的存在の中澤裕子(ブリッ子が超キュート)とおこぼれでゴールイン。でも、カワイイんだ。ほっとけないんだ。チビだし。キュンとくる。

 彼を生で観たのは実は初めてで、せ、せ、背の低さにビックリだよ……! これはきっと世に言うトロンプルイユです。いつも野田秀樹の隣に居たからこそ、ビデオ映像の彼はうんと背が高く見えたのです。夢の遊眠社を離れた彼は、ミニマム極まりない。だったら野田さんの実身長はいったい何ミリメートルだよ、本当! この衝撃のあまり、高身長ハンサム天才作曲家vs低身長だめんず落ちぶれピアニスト対決、僅差で後者に軍配でした。

 まあ冗談抜きに、瞳の輝き、アル中の酔拳ぷり、アドリブの軽妙さ、激しく動くときの膝から下の安定感、どれをとっても良かった上杉さん。再演が彼だったからこそ、こういう派手に立ち回る人物像になったんだろうけど。真琴つばさも烈女を熱演。でも歌うとどうしても宝塚歌劇の男役風で、登場するたび客がいちいち拍手するのは少しウザかった。服部良一の挨拶から突然「ジャングル・ブギ」へ飛ぶ冒頭をはじめ、演出も秀逸で、三種三様の年の差カップルの描き方がイイ。けっこう楽しんでしまいました。

 打ち上げの乾杯、草刈さんとは離れて会釈しただけ。目深にかぶったキャップの下にご丁寧にバンダナを巻いてました。ISSAですか!?(隠語)。上杉さんとは、「柱の陰から熱く見つめる→目が合う→慌ててそらす→怪訝がってさらに観られる→赤面→微苦笑」を、実に6セットくらい繰り返す。モジモジしてないで一言感想を話しかけろよ、半分以上は仕事で来てるんだろ、俺! と思ったけどダメだった。ホントに好きな人には終始この調子です。