2019-11-09 / わたしの好きな街と仕事

大変ご無沙汰しております。公式サイトのブログはもちろん、Instagramまで投稿が滞ってしまいました。Twitterだけは「いつ寝てるんですか?」と真顔で訊かれるほど更新していますが、あれはね、寝ながら寝言をつぶやいてるんですよ。意識してSNSと距離を置いているとか、とくに深遠な意図があるわけではなくて、9月の日本出張からこちら……まったく慌ただしく過ごしており……文字通り、涙目で起床してはそれを拭う間もなくベッドに倒れ込む繰り返し、時間的余裕がなく、精神的な余裕もなくなり、さすがに無理、と思っているうちに10月が終わってしまいました。ちょこちょこ遊びに出かけたりはしていたけど、誰とどこで会って何をして楽しんだのか時系列がまったく思い出せない。

そんな合間にも、各種新プロジェクトが続々進行中です。一冊目の本『ハジの多い人生』の文庫化が正式に決まりました。今からどんなふうになるのか楽しみ。そして、立て続けに既刊の海外翻訳出版も決まっています。早く現地の友人に自慢したいのだが、グッと我慢……。

解禁できる情報としては、12月にポプラ社から刊行される、SUUMOタウン編集部のアンソロジー『わたしの好きな街』に参加しています。「SUUMOタウン」はリクルート住まいカンパニーが運営するオウンドメディアで、以前書かせていただいた「四谷」にまつわる思い出語りに加えて、2019年に再訪したときの追記をちょこっと書きました。入稿は無事に片付いたけど、この本のためだけの書き下ろし語り下ろしもたっぷりなので、私もまだ全容を知らないんですよね……。手に取るのが楽しみです。

 



『わたしの好きな街 独断と偏愛の東京』
SUUMOタウン編集部(監修)

発行:ポプラ社
四六判 256ページ
定価 1,400円+税
ISBN:9784591164822


青春という言葉は嫌いだけど、
語るべきことはあの街にあった。
酸いも甘いも詰め込んで、
総勢20名が本音で書き、語る。
東京で暮らすこと、働くことのすべて。
住めば都? 実際どうなの?
あなたの「住みたい」を後押しする極上のエッセイ集。

【エッセイ】
雨宮まみ『都会と下町、まるで違う二つの顔を持つ街「西新宿」』
岡田育『昼はコドモ、夜はオトナのものとなる「四谷」――飲んで飲まれて歩いて帰れる街で暮らした日々』
ひらりさ『「実家脱出ゲーム」を成功させるために――三十歳おひとりさまライターが語る「東新宿」』
枝優花『「高田馬場」ゴミロータリーで過ごしたかけがえのない時間』
九龍ジョー『社員(シャイン)オンユー東中野』
夏目知幸『先行きなくともただひたすら楽しかった 東高円寺でのその日暮らし』
カツセマサヒコ『何者にもなれない僕が「荻窪」にいた』
美村里江『世田谷代田の秘密基地――「役者の色」に染め直してくれた夕日と住宅街の景色』
山田ルイ53世『一発屋であることを呑み込んだ「中目黒」』
ヨッピー『渋谷のヤクザマンションの話――僕が繁華街に住むことをおすすめする理由』
山内マリコ『吉祥寺で過ごした二十代は悲惨だった』
もぐもぐ『自由とカオスと町田』
pato『僕には八王子という“距離”が必要だ』
小野寺史宜『ノー銀座、ノーライフ――この街に住むことをあきらめない』
pha『東京に住んでいるのは嘘なんじゃないかって今でもときどき思ってしまう』

【上京物語】
みうらじゅん『東京で暮らすなら、いつも心に「不真面目」を』
東村アキコ『家賃を稼がなくちゃいけないから、ここまで描いてこられた』
鈴木敏夫『ジブリの秘密は“4階”にあった――「時間と空間」をめぐる五十年』
他、加藤一二三、赤江珠緒へのインタビューも収録。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784591164822

 


忙しいのは別にネガティブな話ではなく、おかげさまで日米の二重生活が調子良く軌道に乗ってしまった、というだけのことです。今夏はグラフィックデザイナーとしては実質無職で、その空き時間を使って文芸誌で月刊連載を始めたのですが、これも「隔月じゃないと絶対に無理です!」と訴えていたのを敏腕編集者が「まぁ、時々休んでもいいですよ〜」と笑いながら言う口車に乗せられているうち、あれよあれよと月刊進行が定着してしまい、落とすわけにはいかない空気に。なんで今月号にも無事に載っているんだろう。不思議。編集部に信じられない負荷をかけているはずだし絶対無理だと今なお思ってる。でも有難いことです(ごめんなさい)。

で、そこに突然、通常の倍くらいの回転速度で進行する上に思ったより長引く新規クライアントの仕事が入ったと。そりゃあ首が回らなくもなります。9月に日本で会った人たちの大半に「秋冬はめちゃくちゃ暇なので〜」と言っていた、あれは何だったんだ。ただの嘘でした。思い返せば本当の意味で暇になったことなど一度もない人生である。一週間の九割九分を狭い自宅でパジャマ着たままPCに向かって作業しているうちにメールの返事を10日止める、みたいなことを繰り返していたらあっという間に二ヶ月。まるで褒められた働き方ではないが、なかなかに充実している。

現在進行形で具体的に何をしているのかは秘密保持契約の都合で書けないことが多いけれど、大学で勉強したデザインスキルを活かし、引き続き「何でも屋」を続けている感じです。最初は下請け臨時雇いのデザイナーとして採用され、途中からバイリンガルのコピーライター職や、イラストレーターの役割も任されるようになり、そのうち決裁権を持つ人の相談役のようになって、自分が作ってないものにまで口出してブランドコンサルタントとして報酬が出るようになる……という流れを幾筋か経験して、だいぶ自信がついた。取引先はもっぱらスモールビジネス。フルタイムで雇うより安くつくし、先方も「何でも屋」に頼めたほうがラクだよね。我ながら便利よ。とくに営業をかけていないのに、似たような問題を抱えた依頼主がやって来るのが面白い。それで一人称に「we」を使いながら、自分が所属していない会社組織のことを渾渾と考え続ける、探偵や傭兵や軍配者のような暮らし。

ちなみにこれ、日本においては多分、いつまで経っても最下層のジュニアレベルデザイナーとしての給料しか出ないですよ。職場における茶飲み話でどれだけ画期的なアイディア出そうとも、誰か前任者のマズい仕事ぶりにメスを入れてゼロからクリエイティブをまるごと作り直してやっても、気の良い上司が自腹で一杯奢ってくれたらいいほうで、考課査定の範囲外。そういう目で見ると私は「経験二年のパート」だし「35歳以上」だから雇い止め一直線。日本ではできなかった働き方だ。何故なんだろうな。

新卒サラリーマンとして働いていた編集者時代、別の業界にいる目上の社会人から「ちょっと君の意見を聞かせてよ」と喫茶店に呼び出されて、新商品やサービスのプロトタイプについて相談に乗ることがよくあった。こちらへ来て初めて、「あれ、コンサルティングの仕事じゃん! ミーティングについても分刻みで時給百ドル単位の請求書を立ててよかったんだ!」と知りました。ようやく。遅いよ。なくそう時間泥棒。もぎ取ろう副業収入。減らそう実働時間。脳味噌は毎日フル稼働だし、加齢に伴って徹夜作業はきかなくなってきているけど、でも、昔と違って身体は壊さずに済みそうですね。引き続きうまく回せるようになりたい。