2016-01-12 / おのぼりさん

どちらの日付で書こうか悩んだが、昨日の日付で今日書くことに。

12日の午後は秋学期に仲良くしていたクラスメイトとお茶をすることになっていたのだが、すっぽかされてしまった。夫が私のボーイフレンドと呼んでいる、ファッションデザイン専攻のベトナム出身男子。まぁ才能はあるんだけど、野心家で気分屋の困ったちゃんで、私には10歳下の末弟がいて彼には10歳上の姉がいて、とまぁそういう関係。彼氏が途切れると連絡してくるのか、前日の晩に何十通もメッセージを送ってきて「着物を着てお茶が点てたい! 日本人の親友と一緒にジャパニーズトラディショナル抹茶が飲みたーい!」と騒ぐ。「おまえな、本物のトラディショナルなティーセレモニーがしたかったら本当は運転免許証のようなライセンスが要るし、そうでなくても西洋で言うテーブルマナー講習みたいなものは必須なんだぞ。日本の伝統文化なめんなよ。コスプレ喫茶めいたものは探せばNYにもあるかもしれんが私は絶対行かんぞ、諦めて韓国系スイーツカフェでゲロ甘いネオ抹茶ラテでも飲め」と返事する。

とはいえ一保堂茶舗のテイクアウト(喫茶コーナーはないが目の前のカウンターでたててくれる)でも飲ませてやるかと思っていたのだが、待ち合わせ時刻を過ぎてもまったく連絡がつかず、雪のちらつく寒空の下、心配してあれこれ手を尽くしたら数十分後に「アタシたったいま風邪ひいたから行かなーい」とのお返事。でもまぁ翌朝は元気に寮のヨガレッスンなど行ってたみたい。おまえ……。10代の頃、厄介な女友達のワガママに振り回されていたのを思い出すなぁ。でもおねえさん10歳上だからいちいち怒らないよ。ただし、いつか将来この日記をGoogle翻訳にかけて読むことがあったら、一言謝れよ! tktsで今夜の観劇を手配し、ロックフェラーセンターのメゾンドゥショコラで濃厚ホットチョコレート。


久しぶりのブロードウェイ観劇にして2016年の観劇始め、『ALLEGIANCE』。私の日記は今も昔も基本ネタバレ進行かつオタクにしか通じない文体なので、念のため別枠で書いておきます、とくにネタバレがお嫌な方は読み飛ばしてください。

何度でも書くけど、「You’ll never have a bored day, Where Seventh Avenue meets Broadway」と歌うペットショップボーイズの「New York City Boy」が大好きで、タイムズスクエアに降り立つといつもこの曲がぐるぐる回る。「Home is a boot camp, You gotta escape」とか「This is your reward day」とか、ブロードウェイミュージカルのチケットが安く手に入ると本当にそんな気分になるのだよな。同じ島内に住んでいるのに学期中には全然来られなかったエリアで、東京から飛行機で飛んできたときと同じ高揚感がある。tktsの窓口係も、カフェで隣に座ったカップルも、きっとみんな私のことを「おのぼりさん」だと思っているだろう。でも彼らだってきっとそうなのだ。みんなどこかからこの島へやって来て、気力の続く限りここに留まって、それでどれだけ長く住んでいても、この眺めの前では興奮を抑えられない。思い思いに「東京」を語る地方出身者の熱っぽい言葉をちょっと疎ましくすごく羨ましく聞いていた私も、ここではずっと「おのぼりさん」でいられる。


春学期の奨学金がもう数千ドルおりることになって嬉しい。これもなかなか腹立たしい話で、入学前に秋学期分の奨学金を申請する際、家族の収入を訊かれる欄に馬鹿正直に2014年下半期〜2015年上半期の年収を書いたところ、「祖国にいる親が現役で、夫も働いていて、本人も稼ぎがある=財布がいくつもあって金に困ってない」扱いを受けてしまった。実際には実家との関係は切れているし、渡米後は夫も収入減で私の収入に至ってはほとんど途絶え貯金暮らしになるのだが、私には出願時の能力評価をもとにDean’s Scholarshipというのがおりただけ。こちらはMerit-basedと呼ばれる奨学金で、複数出願が当たり前の中で「うち選んで入ってくれるなら多少の割引しまっせ」みたいな感じの額。一方のNeed-based aidと呼ばれる奨学金は、経済的支援を必要とする学生に出されるもの。こっちをもらわないと話にならん。

金ならあるだろ社会人留学生のくせに、と思われるかもしれないが、周囲のクラスメートがマジで世界各国からの富豪の子女ばかりで、彼らの財布にパンパンに詰まっているどこからか湧いてきているお金はそれこそ我々の想像をはるかに超えた桁なので、「汗水たらして働いて稼いだ自分の金を一ドルだって無駄にしないぞ」と俄然、張りきってしまう。しかも、いわゆる「未来ある若者を支援する」系の外部の給付奨学金はほとんど年齢制限ではじかれてしまうし、申請手続きや成果報告が厄介なものには到底手が回らないので、ゴネてもらえるものなら学内の制度を使い倒すことに躊躇はない。

後から聞いたら賢い留学仲間たちは「年収0」と書いてしれっと提出したんだそうな。私もなんとか追加申請の交渉をして半年分はもぎ取った。卒業までにかかる学費の総額から見ると微々たる額なのだけど、たとえば「家賃の足しになる」みたいな換算をすると結構バカにできないものである。