Timの授業は、ノートが残っていないところを見ると、実習だったのかな? 白黒の画材だけで抽象画を量産していく。これはProject3という課題、それぞれに好きな「科学」をモチーフに、それをノンピクトリアルに表現する方法を模索していく。私は「Mineralogy(鉱物学)」を選んで、あれこれ描く。みんなだんだんペンや筆に飽きてきて、まるめたセロテープにインクをつけてハンコみたいにペタペタ模様をつけたり、教室内にある機材の凸凹したところへ紙を持って行って拓本みたいに写し取ったり。両方とも私ですけど。もはや鉱物学なんも関係ないのだが、できてみると鉱物学っぽく見えなくもない。Project2のブックデザインは、相変わらず、野田戯曲の説明を続ける。一昨日見せたコラージュの発展で、「コラージュ+オブジェの写真を撮る」というの方向性に決まった。
ファッションドローイングの授業を欠席して、10階のラボでライトボックスを使ってHelenのタンポポ課題の続き。今までの行き違いを詫びつつ、状況を整理し、「あなたが求めることと、私がしたいこととの間にどうもギャップがあるようだが、ベストな手法でそれを埋めたい(だから、指示されてない余計なものまで作って意見を求めてるんだよ)」という、長い長いメールを書く。彼女の指示がコロコロ変わるのが原因1、私が指示通りのことをしていかない(やってみて失敗したら別のものを持参する)のが原因2。いつも原因2ばかりを責められるのだが、原因1を理解してもらうべく、箇条書きで数週間の経緯説明、証拠画像の提出。「その場でスピーキングでの言い訳はできないが、事前に推敲した文章でなら真意が伝わるはず」……という、いつものアレ。口が回らないのは「障害」、これは階段にスロープをつける作業、と自分に言い聞かせる。
そうこうするうち、次の課題のためのテキストがメールで届く。刊行前の中編小説のゲラ、160ページ超のPDFが添付されていて、お次は「クラス全員で同じ作品のブックデザインをする」である。スケッチする前に必ず全編を読んでくること、言語に障害がある者はリーディングパートナーを見つけて準備しておくこと、というお達しで、最後のは明らかに日本人履修者2名へ向けたメッセージ。とっととタンポポ終わらせないとマジで死ぬ。
5番街を猛ダッシュして今週だけ変則的な時間になったエクササイズをこなし、途中でiPhoneをアスファルトに叩きつけて落とす。ごっついカバーとガラスプロテクションを貼っていたので中身は無事だったが、プロテクションは見事にヒビだらけになり、剥がすとミシミシ言う。荷物を置きに家へ戻り、近所のスプリントで新しい似たような保護フィルムを買い、店員に貼ってもらい(こちらはそこまで込みのサービスみたい、さすが不器用大国、そして雑そうなお兄ちゃんだが私より丁寧に貼ってくれた)、NYマスコミ日本人会へ。
発起人だったOさんが日本帰国するというのでその送別会だったのだが、私は初対面のノンフィクション編集者Iさんとばかり話し込んでしまい、他の人とはろくに話さずに終わる。普段はただ在NY日本人同士というだけの相手にゼロから説明するのが大変面倒なので「会社辞めてフリーでフラフラしてますー」なんて適当な自己紹介をしつつ「わざわざ名刺交換するほどの価値はない人間ですよー、ここにビジネスチャンスないですよー」と躱すことが多い。しかしIさんは、他の知人からも名前を聞いて会うべきだと言われたほどの、出版業界の大先輩。かつ凄腕インタビュアー。問われるまま、久しぶりに自分のキャリアを見つめ直し振り返りながら、じっくり話すことができた。……と思っていたら、なんと、ほぼ同期入社ということが判明。年齢が大先輩なんじゃなくて、ただ偉業をなし出世を果たしただけの同世代であった。まったく若いフリができず、結局「Iさんすごいですねぇ、私はフラフラしてますー」という同じ話になってしまう。事実だから仕方ない。