2016-03-07 / 3月の第2週、月曜、ビーバーと俺

月曜日、フォトリソグラフィ。第一回課題「トラベルポスター(11*14インチ、二色刷り)」もまだ終わっていないのだが、12名ほどのクラスを二つに分けて、先発チームがプレス機で刷り作業を進める間、後発チームは第二回課題「近未来に実際に起こるイベントのポスター(16*20インチ、二色刷り)」の合評。私は後発チーム。三案ずつ持参することになっていて、初夏にある「Jazz Age Lawn Party」、日本ネタで「伊賀上野NINJAフェスタ」、先日あった「No Pants Subway Ride」、の三本立て。
「Jazz Age Lawn Party」はガバナーズアイランドでフラッパーの格好して芝生でピクニックする、おしゃれコスプレ大会のこと。しつこいようだが、この国においてジャズエイジや20年代の服装を敢えて着るというのは日本の「大正モダン着物」文化とほぼ対称位置にあり、なんというかサブカル色が強い。公式サイトなんかアールデコのカケラもなくて、むしろモロにヒップスター全開、それがちょっといけすかないんだけど、まぁどの写真もかわいくて仕方ないので、ケッ、チキショー、とか言いながらイラストで模写した図案を持参。
「伊賀上野NINJAフェスタ」については「じつは私、母方のルーツが、実在するNINJAのヴィレッジなの……Hanzo Hattoriってご存知かしら? 西日本の山奥にある忍びの聖地・Igaでは、今も街中をNINJA電車が走り、市議会ではNINJA装束の着用が義務付けられ、歴史博物館で現役NINJAたちのショーを鑑賞した後は、あなたもNINJA体験ができるのよ」から始まるいつもの鉄板の自己紹介(嘘はついていない)。「この祭りは外国人観光客も多いのに毎年毎年、絶望的にポスターがダサいので、幾何学的かつ構成主義的な新しいポスターを作りたいの……」と案を見せたら、講師Martinおよび若い黒人男子クラスメイト、もう鼻血を噴かんばかりに大興奮。1分間に20回くらい「Cooool!!」つってた。煽っておいて言うのもなんだけど、おまえらマジで面白いくらいNINJAが大好きな。赤子の手をひねるより容易いわ。
もはや「ノーパン地下鉄乗車デー」のケツまくった図案は見せるまでもなく、「君はジャズエイジがやりたいんだろうけど、NINJAも捨てがたいよね……でもジャズエイジの女の子のイラストも超かわいいね……」とか言ってる男たちを横目に「Ok, I will go with Jazz Age. So, Forget about NINJA.」と告げてガッカリさせたところで本日の授業はほぼ終了、プレス機もあかないので、後発チームの残り時間は自習となった。
英語の授業は対面授業なんだけど、ほとんどの時間を各自が手元のラップトップで、イスラエルのテレビ局が撮ったI.M.ペイのドキュメンタリー番組を観て、それについてのクイズに答えるという作業で終わる。この授業が英語力向上に寄与するのかははなはだ疑問だが、同じ設問に何度も何度も答えながら正答率を上げていくというスタイルの授業、デザイン科にはないので、「学校っぽさ」は感じる。
講師のPamelaは、美術や建築や演劇に造詣が深く、音楽も幅広く聴いている愉快なおばさん(推定50代くらい)なのだけど、なぜか、ジャスティンビーバーにだけ異様に手厳しい。若い子を相手に授業を切り盛りするとき、ジャスティンビーバー的な若い芸能人をけちょんけちょんに貶しておくと笑いが起きてウケる、という(※日本において「AKB48の容姿と歌唱力についてはオッサンが酒の席でいくら貶してもいい」とされているのによく似た)話なんだと思う……んだけど、その感覚自体がすでに数年遅れてないか。少なくとも私には全然刺さらず、「いい歳してジャスティンビーバーに何の恨みがあるの……」「あんたどうせ80年代の授業ではその調子でマイケルジャクソンいじってたんでしょ……」と軽く引く。
ネタもワンパターンで、「If I was your boyfriend, I’d never let you go.」って2012年の歌詞を教材にして、延々ずーっと「If I “were” だろうが! 英文法も覚束ないクソガキはとっととカナダ帰れ! 蹴っ飛ばして国境の外へ追い出してやる!」と言い続け、「その点、ビヨンセはああ見えてテキサス州の学校でちゃんと英文法を習っているので歌詞に文法ミスがない」みたいな比較をするのだが、おわかりだろうか、ここはESLクラス。つまり、生徒は全員「非アメリカ人」。芸術分野の話をしたり多様性社会について語ったりするときは大変リベラルで、保守派の同国人たちの無知を恥じてトランプに唾棄してるような英語教師に、その一方で「仮定法に”were”も使えないような英語教育を受けてきた外国人は国外追放!」とか蹴り飛ばす仕草をされると、一緒になってジャスティンビーバーを笑うより、ようやくカナダ人の友達ができかけつつも英文法テストではいっこうに満点が取れない「私」のこととして凹むのである。
まぁでも前学期の英語講師と同じだ。こういう「自分は絶対的リベラルであり差別的な物言いなんか絶対的にしない」と信じきっている人々に、「今日の先生の物言い、いかにもアメリカ人っぽかったですね。少なくとも私はこう受け取って、ちょっと凹んだかなぁ」みたいな指摘をすると、数百万倍のエネルギーをもって「絶ッッッ対にそんなことはない!! あなたの私に対する誤解を正すために特別に来週の授業前にコーヒー飲みながらじっくり話がしたい!! 差別主義者には凄惨な死を!! この国にはびこる移民への悪しき偏見を私とあなたで一緒に殺そう、滅そう!! あなたがた非アメリカ人の英語習得の強い味方であるリベラルな私のパーソナリティを勘違いしたまま学期を終えることは断じて許さん!! さぁコーヒーを!!」みたいな烈火のごときメールが届いて、味方だって言われてるのにこっちがその熱量で殺されかけるという超めんどくさい事態になるのがわかっているので(※なった)、スルーすることにする。こっちが気に病みすぎなだけです、はいはい。
そして「I.M.ペイは98歳になっても現役だなんて、すごいわねぇ、あなたがたの母国においては、いつごろがキャリアのリタイアメントで、その後のお年寄りたちは何をして過ごしているのかしらー?」という質問されたので、「あら、ヨーコ・オノ83歳のことなら先日退院しましたよ?」と返したら「もっとノーマルでレギュラーでジェネラルでコモンでマトモで一般的な老人たちの話を訊いているんだ。ヨーコじゃねえ」とマジレスされて笑う。ブラジルもメキシコも中国も韓国も日本も、だいたい60歳とか65歳とかが仕事を引退する節目かな、という話の後に「アメリカだと50代前半が一般的かしら」と言われ、やっぱり「アーリー・リタイアメント」文化の国なんだなぁと思うなど。