ちょっとしか着ていなくても、外を出歩いただけで、服がスパイシーになる。着ている間は気づかないのだが、脱いでから嗅いでみると、ニューヨークの匂いになっている。屋台から漂う食べ物の香りや、埃や、下水や、いろいろなもののまざった匂い。6月に大学前でばったり会った年若い留学仲間が、初めて来たニューヨークの感想を答えて「くさい!」と言ったことなど思い出す。「鼻が曲がりそう、こんなの嗅いだことない。これからずっとこんな匂いの中で過ごすんですか、私たち……」と呆れる彼女に、旅行で何度もこの地を訪れている私は「いやぁ、すぐに慣れて全然気にしなくなるよー、私なんかこの臭さが懐かしいくらいだよ」と笑った。……のだけど、やっぱり、東京で無味無臭だった服がすごい匂いになっているのを嗅ぐと、「とんでもないところへ来てしまった」という彼女の表情をどうしたって思い出す。ちなみにうんこもくさい。トイレに行くたび排泄するたび、俺はさっきまで体内にこんな匂いのものを抱えて歩いていたのかと驚く。
家具の到着が遅れて、まだホテル暮らし。体調不良が続いているが、腹巻と長袖シャツに厚手の靴下を着用したら元気になった。昨晩はヒートテックを着て寝た。とにかくあちこちの冷房がデフォルトで寒すぎるのがいけない。この冷房設定に負けないようになったときは、私の皮下脂肪がアメリカ人並みになった証拠なのであろう。いつぞや見かけた銀髪マダムのように、真夏でも真冬のようにがっつり着込もうと思う。「どうせアメリカ、予定通りになんていかないだろうから、のんびりやろう」と構えていたところ、なんでもかんでも東京みたいにトントン拍子に進んでしまい、我々のほうがスピードに追いつけなかったのだと思う。ゆっくり休むことにする。