19日、20日と「ザ・インタビューズ」の過去記事を整理整頓していた。まだ全部は転載し終わっていないが、ざっと見てほとんど回収できているように思う。今になって読み返すと古びてるのが結構面白い。そのうち選り抜きを作ったりしてみてもいいかもしれない。
「ザ・インタビューズ」はask.fmに似たサービスで、匿名で寄せられた質問に何者でもないユーザーが回答していくという「お題のあるブログ」みたいなもの。2011年夏から回答を始めて、私は「いつもはされるほうではなく、するほうです。」というキャッチフレーズを掲げていた。普段はインタビュー取材を「する側」であるサラリーマンがインタビュー「される」側にまわり、時にはぐらかしながら、時にキレながら、ガチレスを回答するのが面白がられていたようだ。ちょうど転職を考え始めた時期と重なり、仕事に対するスタンスなどはちゃんと言葉を選んで書いている。デスマス調の文体練習も兼ねていた。まとまった文章を読ませる場がなかったので、「cakes」での連載開始前にも担当編集者と編集長からは「あのインタビューズみたいな感じで好きに書いて」と言われたのを憶えている。もう二度とあんなことしないだろうけど、しないよりはしてよかったのだと思うことにする。
長かった冬休みの最終週、立て続けに芝居を観た。17日にはこの日ブロードウェイ大千秋楽を迎えた『Gentleman’s Guide To Love And Murder』にすべりこみ。20日には今季トニー賞有力候補と言われる『The Color Purple』、そして22日にはメトロポリタンオペラの『トゥーランドット』。どれもそれぞれに素晴らしかったが、『トゥーランドット』は本当に本当に豪奢な作りで、その圧倒的情報量にクラクラした。普段いかに「見立て」の舞台美術に慣れているのか思い知る。オペラもっと観たいな。
すっかり外風呂に味をしめた我々、21日は友達からの情報を得てトライベッカのスパへ。先日行った近所のスパと違ってものすごいカップル仕様、水着姿でイチャイチャしに来ること大前提のムードであった。男女カップルは言わずもがな、女女カップルもぺったりくっついて仲良く温浴しているが、男性二人連れは「いや、俺たちただの屈強で小綺麗なすごく仲の良い友達同士だし!」みたいな虚勢を張って離れてのしのし歩いていたのが印象的。ビキニの彼女を連れたひょろ長い黒縁メガネ男子が頑なに黒縁メガネを掛けたまま湯気もうもうのミストサウナへ消えて行ったのも印象的。あとはスペイン語で井戸端会議している女三人グループと、ものすごく目立つスーパーモデル体型の美女だけがおひとりさまで来ていた。無数のキャンドルの灯りだけを頼りに真っ暗な地下洞へ降りていくとあちこち水浸し、温かいミントティーの什器やBGMなどがなんとなく古代っぽくインドっぽく演出され、全身を浮かせられる塩水風呂などもあり、全体的に「衛生管理の行き届いた『オペラ座の怪人』」って感じか(褒め言葉です)。華氏103度のhottest poolというのがまさに求めていた「日本の風呂」の温度で、結局そこばかり浸かっていた。
22日は久しぶりに大学校舎で日本人同級生と待ち合わせ、二学期目の履修登録どうした? 就職活動どうする? といった雑談に乗ってもらいつつ、コーヒー1杯おごってネイルアートを施してもらう。休みボケを解消しようと思って登校したはよいものの、あまりの寒さに来週から本当に学校へ通えるのか心配になってくる。追い打ちをかけるように、「今季初の本格ブリザードJonasの襲来に備えて、明日土曜の授業は全休講」という一斉連絡が来る。「悪天候でも用事や約束があれば出かける」という日本的な律儀さが抜けず、どんなに警報を受け取っても結構ナメてかかっていたのだが、さすがにマズそうだというので週末の予定を直前になっていろいろキャンセル。その後、オペラを観てからワインをひっかけ、積もり始めた雪の中を流しのタクシーで帰宅。視界が不明瞭で時間もよくわからなくなっていたのだが辿り着いたら25時過ぎ、すんでのところだった様子。深酒してたらUberも見つからなかったかもしれない。
明けて23日、外は横殴りの吹雪、初めて見る積雪はあっという間に街路樹の防護柵をすっぽり埋めてしまう。大人の膝丈くらいか。普段の町並みと違って余計な人通りはほとんどない。用事があるならまぁ出られなくはないが、用事がなければ家にいろ、という天候で、とくに「緊急車両以外はクルマを出すな」という警報がじゃかじゃか届く。窓の外を見ると、飲食店の店員が風の弱まったタイミングでこまめに雪かきをしているが、その飲食店自体が営業している様子はない。みんな屋内にいる、気配はあるが、姿は見えず、同じ雪に埋もれながら、お互いじっと雪越しに気配を感じ合っている。この「誰もいないというわけではない静けさ」、かつて頻繁にしていた北海道出張を思い出す。
テレビのローカルニュースではリポーターが道行く一般人や車両の運転手を捕まえて「なんでこんな日にわざわざ外出してるの?」「これから外に出ようとしてる視聴者に一言メッセージを送るなら?」と訊いては回答をイジッて笑いを取るのを繰り返している。二つ目の質問への回答は大半が「やめとけ」「家であたたかいコーヒー飲んでろ、俺もすぐそうする」みたいな感じ。学事からは「日曜の授業も全休講、University CenterだけはShelterとして24時間開放する」という連絡が来て、月曜が初回講義になる履修科目の講師からも個別に「Web Designの学習より出欠よりも大切なもの、それは私たちの生命。オンライン講義に切り替えることも検討するから、かけがえのない生命をリスクにさらしてまで登校するなよ、絶対にだ」とメールが来る。私にしてみれば死ぬほど危険な雪とは思えないのだが、雪の降らない国からやって来た新入生や留学生も大勢いるから、このくらい脅してもお釣りが来るのだろう。
校舎直結の学生寮に暮らし朝昼晩カフェテリアの食券を使い平日は一歩も外に出ずに生活している例のすっぽかしベトナム男子から「今日お茶しようよー、雪? Who cares?」とメッセージが来たので「I care, ニュース見ろ、ぐぐれ、勉学も結構だがそんな無知のままでいると卒業前に死ぬぞ」と怒っておく。ちなみに彼は摂氏零下の真冬でもMARNIのビニールサンダルを履いて歩いては「Do I look Japanese? アタシまじで超ヨージヤマモトみたいじゃない?」とのたまう真性アホの子なのであるが、そのたびに私がトルコ人やインド人の友達に「People in Japan never wear sandals in Autumn/Winter season, even Samurais and Ninjas also wear snowshoes.」と訂正して回る羽目になり、韓国人の子に「Of course we know.」と苦笑される。
日本からの荷物が届き、腹立たしいことと、喜ばしいことも、折り重なるように幾つか訪れる。毎年毎年、この日になると「年老いてゆくことだけがただひとつの確かなこと」というHEATWAVE山口洋の歌詞が頭を満たす。というか、この歌詞をぐぐると筆頭に昔の自分の日記が出てくるんだな。誕生日恒例。