2016-01-24 / 積もる雪、融ける雪

昨晩は誕生日ということもあって、というよりは、吹雪に閉じ込められたので、夫のオットー氏が用意周到にも買いだめした食材で手料理をふるまってくれた。ありがとう、ありがとう。臨機応変に外食しようとか言って本当すまんかった、死ぬとこだった。格別にロマンチックなディナーというわけでもないが、一つ年齢を重ねる特別な日にいつもの味を当たり前に楽しめるという日常の幸福をかみしめる。死ぬからな。その後「沖縄でも雪が降るらしい」というニュースを聴いて俄然盛り上がった私が、「沖縄に降る雪」を筆頭に宮沢和史の曲をYouTubeでかけまくり画面前で踊りまくり、高野寛のソロライブしか一緒に観たことのないオットー氏がGANGA ZUMBAファン女子のあまりの野蛮さに恐れおののく、というディオニュソス的な宴が繰り広げられた。
https://www.youtube.com/watch?v=nMgHLFXqTlk
沖縄には本当に雪が降ったらしく、東京から戻る予定だったクラスメートは飛行機が飛ばず新学期スタートに間に合わないかも、なんて話を聞く。朝から天気がよくて、近隣の窓枠から溶けた雪が落ちていくドサドサいう音がひっきりなしに聞こえる。アパートメントの屋上で風にさらされて純白の砂丘か幾何学的な彫刻みたいになっている雪の稜線を堪能し、きゃーきゃー言いながら昼ごはんを食べに行く。
昨日はどうなることかと思ったが、空さえ晴れてしまえば道端の積雪が小さな子供の背丈を超えていることなどなんともなく、排気ガスにまみれてコーヒーシャーベットみたいになったぬかるみの上をどしどし歩く。車通りが少なく、通常時に比べたら目を疑うほど用心深く徐行しているため、通行人のほうはいつもより余裕で信号無視。普段はクルマにあるこの街の主導権が、ヒトに戻ったようで痛快である。
こんなに雪が降った町並みを歩くのは久しぶりだが、同じくらいの積雪が当たり前にある北海道の郊外など歩いた経験と比べてみても、「除雪力」がすごいなー、という感想。人の往来がある、すなわち「活きている」店舗や住宅の前は、誰かしらによってすべてきれいに除雪されている。本来は週末閉まっているはずの店の前でも、休日出勤したスタッフたちが適当にシャベルで新雪を除け、バケツからザザッと顆粒の融雪剤を撒いて、玄関口の前だけ、てきぱき水に換えていく。一方で閉まったままの店舗は、地下倉庫へ続く階段がすっぽり雪に埋もれていたりして、うわー今日の手間をサボると明日月曜の開店前にこれを取り除くのは大変だろうなぁ、ご愁傷様、という感じ。
反対に一番ひどいのが、空き店舗。この半年で一度もシャッター上がったのを見たことがない建物、「Store For Rent」の札が下がった物件、総じて前の舗道が圧雪アイスバーンになっていて大変危険。つまり、街をあげてのこの除雪ヂカラが、行政によるものでなく「活きている」市民による自発的な行いなのだというのがよくわかる光景だ。もちろん車道に関しては夜間に除雪車が通ったのかもしれないけど。「死んでいる」建物の前はヤバい、となると郊外とか大変なんだろうな。ニュージャージーに一軒家を構える教授の家族あげての雪かき風景などInstagramで見て戦慄する。次に勘弁してくれと思ったのは、地下鉄の階段。大きな駅はちゃんとしてるのだろうかな、うちの最寄駅は片側ホームに直結する小さな出入り口がちょうど日陰になっていて、不十分な除雪あるいは自然放置のまま踏み固められ、一段一段が幅の狭いアイスバーン状態、手すりをつかもうにも素手では無理なほど冷えきっており、慌てて段上で手袋をつけようとした人が体勢を崩したりしていた。あのまま底まで滑り落ちても不思議はない。切符売りやゴミ収集とは別の、駅舎のメンテナンス要員みたいなのは雇われていないんでしょうかね。言われてみれば見かけないもんな。JRや東京メトロの駅職員が悪天候時に制服姿でせっせと働いていた姿を思い出す。
訃報を聞いてデヴィッドボウイ好きの中国人女子に送ったお悔やみのメール、やっと返事が届く。個人宛書簡の公開ってのもモラルが欠如してるけれど、「お返事が遅れてごめんなさい、昨日まで実家に帰省してて読めなかったの、ご存知の通り我が国では政府がインターネッツを規制してるのよ、マジでクソ」「ボウイ好きという共通点で付き合い始めたボーイフレンドと一緒に嘆き悲しんでいたわ、でも明日から新学期がんばろうね」という二段落で構成されていて、なんだかそれがすごくよかった。インターネッツさえ規制される国に生まれ落ち、デヴィッドボウイという名の星に導かれて結ばれた恋人同士、遠きにありて少し遅れて光が届く星々の噂話、って超ロマンチックじゃない? 私、インターネッツに夢見すぎ?

そして私が住んでいるはずの街で起こっているアホな出来事の動画を、東京に住んでいる実母のfacebookシェアで知る日曜の夜。
https://www.youtube.com/watch?v=qRv7G7WpOoU
このJonasという奴が「観測史上2番目に大きな暴風雪」ということなのだけど、えー、つまり、これよりひどい暴風雪には見舞われないってこと? だとすると家にさえ籠もっていられれば、学校さえ休講になれば、けっこう楽勝なんじゃない? 例年もっとすごいのかと思ってたー、と気を緩めたところへ、「26〜27日は観測史上最大の暴風雪になるおそれ」というニュースを読み、あ、そういう感じで蓄積していく系? じわじわ自己新記録伸ばしていく系? とガックリきているところ。