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2016-02-09 / インタラクティブを切望

火曜日はまず、Helenのブックデザインの授業。二回目のcrit(授業内講評)であらためて認識したのだが、彼女は今期初めて教鞭を執るので、発言の一つ一つが先生らしくない。平たく言うと、他のベテランの先生たちほど学生に優しくない。「どんな提出物を見てもまずよいところを褒める」とか「学生のやりたいようにさせてみて行き詰まったところでそっと手を差し伸べる」といった、ベテラン講師陣のやり口とは、まるで違うのが面白い。いや、面白がってる暇はないんだけど。
「人にデザインを見せるときプリンタで刷りっぱなしでトンボで切ってこないとか二度としないで」「先週の手描きのスケッチのほうが勢いがあってよかった、コンピュータで作業して良さが完全に失われたわよね、幻滅」「スモールキャップス、普通こんなとこに絶対使わない。やめてね」「アイデアはいいけど具体案がつまらない、強いて言えば5案のうちこの1つだけは見甲斐がある」「いろいろ試してこの配色にしたって言うけど、だったらその別案も見ないと判断できない」「画像に長体をかけるのはありえない」「なんで実物の写真を使わなかったの? 一週間あるんだから撮って来られたでしょ?」「またね、言ったわよね、スモールキャップス、neverよ」……とまぁ、そんな調子で、言ってることは真っ当だし基礎的なことばかりなんだけど、一目ちらりと見てまずダメなところを「Never do that」的な一刀両断から入り、その後で「ところでここの感じ私はすごく好きよー」と思い出したように褒める、という順番。
「実際にデザイン事務所に就職したら、学校出たてのアシスタントは歯に衣着せぬボスからこんな感じで鍛えられる」というシミュレーションには、素晴らしくよい。大変よい。のだけど、第一週からめきめき生徒数減ったなぁ。そして、英語圏ネイティブの学生たちにはなんとなく優しく、私のように英語の拙い外国人留学生にはじゃっかんうっすらとくに態度が厳しい、ような気がする。もちろん「本」を扱う授業なので、読めないくせに作ろうとする文盲なんか置いてくぞ、という姿勢で振り落しにかかってるのかもしれないし、それとも単純に(英語のおぼつかない留学生が非常に多い校風に)慣れてない、というのもあるのだろうけど。歯に衣着せぬ性格だから苦手なものがすぐ顔に出る、……というのでないことを祈るばかり。本人は大変チャーミングな人である。
先週けちょんけちょんだったのに比べると今週はまだマシで、二種類作っていったカバーデザインのうち、古いほうはようやく「こうすればもっとよくなる」的な指導を受けられたし、新しいほうは「この調子でもっとやんなさい」と一発でゴーサインが出る。昨年Etsyのマーケットで購入したポストカードにヒントを得て「紙に刺繍する」という手法を取ったのだが、苦し紛れでようやく一つ作っていったら、「これいいじゃない、やるならもっと、もっとよ、イラストと組み合わせるのやめて、画面を埋め尽くすくらいに」と言われ、また週末が潰れる予感。折り紙を使って星を表現した子も大激賞されてのち「……というわけで、同じ模型を別手法で再撮影ね、そのほうがいいから」と言われてガックリきていた。とにかく「手作り」重視。それはつまり、Adobe画面を離れて手を動かし、それを高度な技術で美しく撮影してまた平面に戻す、という作業が当然のように求められるということ。うー、やっぱりライティングをみっちり鍛えてくれるような写真の授業もちゃんと履修しておけばよかった、と激しく後悔する。
最初の課題も終わってないけど次の課題もどんどん出されて、「a dollar book」。何かと思ったら、近所のストランドの店頭で投げ売りされている「1ドル古書」を大量に買ってきてランダムに生徒に配り「これをリ・デザインしてこい」という課題だった。内容は自分で選べない。必ずしも魅力的な本ではない。ブックオフの100円文庫本と同じで、一応まだ商品として売られてはいるけれども、世間的にはすでに「価値がない」も同然と見做された本である。「でも、実際にあなたたちがブックデザイナーになったら、どんな本でも、来た仕事を受けなきゃいけないのよ。同じでしょ。私の初仕事なんか、こんな意味不明なタイトルだったんだから!」(←聞いたけど一応自粛)というわけである。たしかにそうなんだよなー。担当編集者はいついかなるときでも「ものすごく面白い、きっと売れるに違いない、最高の本」に「ぴったりのブックデザイナー」だと思って装幀を依頼しに行くわけだけど、いきなり指名されてゲラを受け取る側にしてみれば、毎回毎回そんなに興味をそそられるわけでもなかろうよ。「今回は、中身はいっさい読まなくていい。カバーの要約だけ見て作ればいい。前回同様、過去本のリファレンスとそれらとの継続性に意味を持たせた判断は禁止」とのこと。
このコマの後にウェブデザインの授業を入れたのをちょっと後悔しはじめた。課題作りながら眠れなくなるほど不安だったブックデザインの授業が終わり、すごい緊張感から解放されて気が緩んでいるところへ、日暮れまで続く座学中心の講義、照明を落としたコンピュータールームで、黒地に白抜き文字がテンプレートのこれまた薄暗い文字だらけのスライドを目で追い、ものすごい早口でまくしたてるギークかつストイックなウェブデザイナーのUXにまつわるプレゼンテーションを数十分以上聴き続けるという苦行。一番前の席で盛大に舟を漕いでしまった。自分では頑張ってノートとってるつもりだったのだが、後から見返すとミミズがのたくっており、もちろん先生にもバレていて、授業内グループワークに移行したとき「これはゲームみたいなものだからIkuも退屈しないよ!」的なことをこれまた早口で言われ、数分経ってからようやく、それが居眠りへの皮肉だったと気づく。「インタラクティブウェブデザインの授業のくせに授業が全然インタラクティブじゃねーからだよ!」と、威勢良く言い返せたらよいのだが……どう考えてもプレゼン自体は興味深い内容で、寝落ちするのは私の不徳の致すところ。ただまぁ、視覚的要素に乏しくて、布団の中で他のこと何もできずにラジオかポッドキャスト聴いてるみたいな感覚なんだよね。いや、寝るだろ。
宿題だった「ぼくのわたしの考えたかっこいい新しいウェブサービス」の案を3つ紹介しながらディスカッションを重ね、クラスメートの反応がとくによかったものを1つ選び、来週はその正式なプレゼンテーション。Matt全然イケるわ、と言ってた中国人女子、既婚だった。高価そうな一点物で身を固めたオシャレな童顔の女の子が、英語も苦手だし新入生だからいろいろわからないの、という話の流れで「Me and my husbandもー」とサラッと言う。こちらも表情を変えずに聞き流すも、内心ちょっと動揺していて、「でもこれ、私もみんなにこういう動揺を与えているのだろうなぁ」と鏡のように眺める。たぶん本当にみんな二十歳くらいの小娘と思われているんです、私たちアジア人女子。