2016-09-14 / 右で凍らせ左で燃やす

日記を書くのと刀剣乱舞とは週末のお楽しみ、という感じになってまいりました。薬研ニキの極実装まだですかね。

12日月曜日。ひたすら「Spatial Graphics」の課題、非接触部族に関する展覧会の空間デザイン。といってもリサーチでほとんどが終わる。英語が不自由だとここに一般学生の数倍かかることがよくわかる授業だ。といっても論文を書くわけでなし、基本はネットだけで足りそうなので、日本語と英語のサイトを読み比べながらタイムライン(年表)など作っていく。四川風麻辣干鍋店で夕飯。水分でグラグラ煮る鍋ではなく、同じ発想のあっさりした炒め物のようなもの。とても美味しかったのだが、その後モーレツにお腹を下してめちゃくちゃ後悔する。デトックスしたくなったら行くといいのかもしれぬ。

13日火曜日。先週はしどろもどろのプレゼンで反応が今ひとつだったAnna、今日は進捗を見せたら「着眼点とコンセプトはすごくいいのでそのまま作れ。でも、まだ型にはまっているので、壁や床を平面と考えずに自由に発想してごらん」とゴーサインをもらって一安心。隣に座っている男子学生は先週から合流組で、まだテーマも漠然としか決まっておらず、ビシビシ手厳しいツッコミを受けていた。「テーマを決めただけじゃダメ、展示のコンセプトは? 主催者がこの空間から訪問者に持ち帰らせたいメッセージは? 事実の羅列だけではエキシビションにはならないのよ。そしてあなた、来週までに3週間分の遅れを取り戻すのは至難の業よ? そんな芸当ができるかどうかもう一度考えてみるべきね。全体の進行を遅らせることはできないからそのつもりで」と、事実上のイエローカードが出る。早いな。気弱な学生なら「授業についてけないなら帰れ」と言われたと解釈するだろうが、そこは図太いアメリカ人、「わかりましたー」とか言ってGoogleイメージ検索など始めている。

ちなみに授業の前半は三角スケール(建築模型作るのに使うやつ)の使い方と図面の見方を学ぶ……のだが……出たよ、インチ!! 久しぶりに受けるインチの洗礼!! 比率を知るために定規で測って掛け算して割り算するじゃないですか。「先生、算出した数値が小数点以下の端数がものすごいことになっており、Illustratorが勝手に切り上げてくるんですがこんな仕様では正確な図面が引けn……」「だいたいでいいから。そんなんもう156インチってことにしときなさい。どうせ印刷するとき歪むし」「え、しかし、先生、今は小数点以下でもこれ実際の建築物に当てはめると相当な」「いいから156インチで作って(キレ気味)。あら、あなた何その単位、初期設定でインチになさいって言ったでしょ、変な単位使わないでこの授業ではインチに統一よ」「ちょ、え、これパイカです……よ……グラフィックデザインの授業では全部パイカで……」「初期設定で、直せるわよね。私の授業では」「はっ、はい」……世界よ、これがインチの国の空間デザイナーだ……!!(震) きっと実際に施工する職人さんとかがすっごい帳尻合わせるのうまいのかもしれない。そこはミリ単位でやるんだろう(←※非アメリカンジョーク)。このアメリカ人デザイナーの「神経質なのに雑」という感じ、本当に驚くわ。

毎週月曜はこの授業の準備のために徹夜が確定しつつある。終わると同時に12階の教室から8階の図書館へ。ここは自習室が大変充実していて、かつ、共有スペースに土足で寝転がれるソファもあるので、みんな本を借りにというよりは、仮眠を取りにくるのです。えっ、私だけ? 意気揚々とソファに陣取ったら、なんとちょうど目が合う位置の自習机に、いつものあの氷系能力者の眼鏡紳士がいた。いや一度も会話したことないし教員か学生かも知らないけど、スキンヘッドで細身で手指がピンセットみたいに骨ばってて背筋ピシッと伸びてて銀縁眼鏡で伏目がちで無表情で真夏でも毛糸帽とか被ってんだよ、綾波レイをおっさんにしたみたいなスペックなんだよ、氷系能力者としか表現しようがないだろ。全身の指で数え切れないほどの人を殺している目をしている。そして自分のゾーンに誰か異物が介入してくるとまず目で射抜く。この図書館と自習室の室温が低いのはいっつも彼がいるからだと信じている。私はここの自習室が好きで週に何度も来ているのだが、週に何度でも会うし、今日はとうとう共有スペースでも同じような場所に陣取っていることが判明した。明らかに私のこと認識してるでしょ、私がいつも何の課題やってるのかチラッと見るじゃん、チラッと。わ、笑えば、いいと思うよ……と思うんだが、私から微笑みかけても、まったく無反応なのがまたシビれる。いつか絶対エッセイに書く。

それで綾波レイ(仮名、推定40代)に見つめられながら手元に宿題を開いたままで爆睡。16時くらいまでで課題を適当に終え、17時過ぎから近所のサラダ弁当屋で真紀子さんと軽く打ち合わせ、ショートフィルム作品の件。もりもり食べてたら奥の席に次の授業で一緒のSを見かける。日本人が憧れるいわゆる典型的な金髪美女タイプなんだが、とにかくひたすら真面目な課題の鬼で、ルームメイトも「彼女が2時間以上連続して寝ているのを見たことがない……」と戦慄している子。なお私は平均10時間寝ている。声をかけようと思ったが、いつも身綺麗にしている彼女がPCとスケッチブックのどっさり入ったリュックを背負ったまま下ろしもせずに隅の席に腰掛け、たった一人で体を丸めて一心不乱に虚空を見つめ、取り憑かれたようにサラダをもしゃもしゃやっている。ひたすら脳内の考え事に没頭してて他のこと何も眼中にないときの、アレな。まるで原稿締切直前の自分のぼっち飯を見るようだ……。こういうときに「ハーイ〜、S〜! 宿題終わったー!? 見せて見せて!(ハグ)」と陽気にやれる人種もいるんですが、キャラ違うんだよね。クラスで馴れ合うために学校来てんじゃねーよ感が好印象なのでそのままスルーした。けど日記には書く。世間一般のキャンパスライフとはちょっと空気や温度が違う、社会人学部の良さと言えるのかもしれない。

ドミの授業はプロジェクト2、「特定の産業のキャンペーンを張る」というような課題。4つほどお題が上がって、一番人気は建築資材、次が料理用具と文房具、私はカッティングツールということで、レターオープナーにした。「文房具」って一学期目には人気のお題だったはずなんだけど、さすがにもうみんな作り飽きてきたのだろう、鉛筆や消しゴムを題材に選ぶ人は皆無で、代わりに「ヒップスターに砂利を売りつける広告」「違いのわかるコンクリート選びをおしゃれに演出」みたいな、頭おかしな方向へ突き進んでいて面白い。まーでもそのほうがポートフォリオにバラエティ出るからいいよね! 私もポートフォリオに足りないものを逆算してテーマを選んだ。最終学期だなぁ。

14日水曜日。月曜の徹夜が終わり、ここが一番つらいところなんだけど、22時半くらいに帰宅して深夜3時くらいまでかけて、全く手付かずだった「Motion Concepts」の課題を終える。2秒の映像を3つ作っていくだけでこんなに時間かかるの!? と凹む。しかし映像系に進むつもりはあまりない(からこそ最終学期になって初めて入門編など履修している)ので、できれば心情的には「Spatial Graphics」を優先させたい。これはちょっと学期末に大変なことになりそう。今は楽勝だが徐々に大変になっていくらしい。授業がどんなだったかは眠くて憶えていない。「お手本だ、君らもこんなのすぐ作れるようになるよ、技術的にはね。あとはセンス」といって見せられたのがCyriakの動画群だったのが面白かった。私、世代的にはテリーギリアムなんですけど、もちろんAfterEffectsの授業で名前が挙がるのはテリーギリアムじゃないのです……。あ、でも私の宿題(自分のイニシャルにマスクをかけてちょこまか動かすという課題)は「ソールバスっぽいね!」と言われ、わーいわーいと喜んだら「いや、今のはちょっと言いすぎた、感じが似てるってだけだよ」とご丁寧な訂正が入り、映画『サイコ』の名場面に別の音楽かけるとどうなるか、というサンプルを見ながら「音は絵の半分を占める」というのを何度も何度も何度も何度も聞くので、映像のイロハというのは時代を経ても色褪せぬものなのだろう。これは佐藤雅彦風に言うなら「音が映像を規定する」ってやつで、こういうとき、ああ大学にもう一度通い直しているのだな、と懐かしく前の学生時代を思い出す。

エリックのポートフォリオの授業も眠かった記憶しかないが、相変わらず、全員参加型授業の作り方がうまいので寝かせてもらえない。早い者勝ちのプレゼン、ぐずぐずしてたら日本人留学生2名が最後の2人になってしまう。こういうのよくないんですよねー。反省。「今までに作ったものの中で、ポートフォリオに載せる前に作り直したいものに再挑戦する」というのが最初の課題で、私は『Tales Of Altitude』という絵本のリバイズについてプレゼン。したのだが、エリックがやけに絵本を気に入ってしまい、「別に直さなくてもいいんじゃね? やるなら全部やり直しだけど……副読本とかつけたらいいのかな」「あーでも、webアプリとかに発展させたらいいかも!」という、どっちに転んでもすっごい面倒な案をぽんぽん出してくれて嬉しい悲鳴。半年くれたらのんびり作り直したいけど人生にそんな時間は二度と訪れないので2週間でやっつけます……。

へろへろで帰宅すると、待ちに待った封書が届いていた。ここ数年、この報せをずっと待ちわびていたのだった。あんまり嬉しかったので、このことは後日またちゃんと書きます。オバマ大統領がノーベル平和賞を受けたときTwitterで「Humbled.」と一言つぶやいたのを思い出す。あんな感じ。「恐縮です」とか「こんなときこそ謙虚になります」というような気持ち。燃えてきました。


【2020.6追記】
最後に書いてあるのは、ようやく就労可能なビザが下りたという話。結局ちゃんとは書かなかった。ビザの話はとてもパーソナルでプライベートで、そしてスペシャルなものだ。そしてこの約2ヶ月後にはトランプ大統領が爆誕してしまう。首の皮一枚で「オバマに住まわせてもらってる」移民になったのだった。