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2016-09-25 / バブ。

今週の総括。戦力拡充計画経由でやっとうちにも膝丸が来たよ! しかし日本号はまだか日本号は。イベント始まっちゃうと日本号捜索がおろそかになってしまうので一進一退だな。だがおっさんが揃って槍部隊が結成できちゃうとそこから先は何を励みにプレイしていいのかわからなくなるので日本号は永遠に来ないほうがいいのかもしれない。
20日火曜日。プリントアウトする手間を見誤って、Annaの授業に20分ほど遅刻していくことになる。まだ生徒全員の名前も把握してないような週だから大丈夫だろうとタカをくくっていたら、授業後すぐ、100%だった成績がいきなり95%に落ちたことを知らせる通知が届く。おおー、そうかそうか、あなたは「シラバス通りに出欠点を入れてくる」系の講師だったかー、つまりあと2回遅刻するとA-確定かー、私はてっきり「課題の出来さえよければ他は不問」系の講師だと思っていたよ……反省。初めてのピンナップ形式の合評だったのだけど、最初の課題だし不慣れなジャンルだし、ぶっちゃけ他の子もみんなイマイチな出来。そして私もイマイチな出来。
一部の学生、三角スケールの使い方、つまり「算数」がまっっっっったく理解できていないことが判明し、先生も呆れ、私も呆れ、言われた通りの寸法で図面作ってきただけで褒められ、ちょっと暗算得意な子はデザイン能力低くてもそれだけで他の生徒にドヤ顔しているのだが、できない当人たちは、しれっとしている。きみたち大学生だよね!? 高校までで何を学んできたの!? 本当に堂々と「Mathは私のすることじゃないのよね〜」とか言ってるのでさすがに講師が「いやでもあなたたち、プロのデザイナーになりたかったら掛け算と割り算は必須よ、足し算や引き算と同じくらいにね」と真顔で諭していた。ちなみに「Mathは私の仕事じゃない」と憮然としている彼ら彼女らは、弁舌は、ものすごく立つ。プレゼンだのコンセプトメイキングだの事前リサーチ量だのはビジネススクール並なのに、図面は幼稚園。なんか……本当……文字通り「個性を伸ばす教育」をした結果が彼らなんだな、全部が平均点の私は自分でどんだけぶっとんでるつもりでいても、やっぱり日本的教育の申し子なんだなぁ、としみじみ思うわけです。一学期目、課題をレターサイズで刷ってこいと何度言われてもタブロイドサイズで刷ってくる生徒とか見て「さすが美大」びっくりしてたんだけど、美大関係なく「やはりアメリカ」みたいな話なのかもしれない。
この日は学内で14時〜17時で「キャリアエキスポ」というイベントがあり、まぁ早い話が就職説明会的なアレである。私も行く気まんまんで、サラダ弁当で昼食を済ませてから15時までに課題を終えて17時まではレジメ片手に周遊しようと思っていた……のだが……Dmitryの課題が、やってもやっても終わらない。13時に自習室のソファに陣取って、気づいたらとっくに17時を過ぎていた。こんなことだから仕事にありつけないのだなと、こちらもプリントに手間取って遅刻して4限の教室へ向かうと、完全に自習クラス。えー、ピンナップだと思って刷ってきたのに自習かよ、だったらキャリアエキスポ出て宿題は授業中にやればよかったじゃん! とテンション落ち込みまくる。「いいね、いいね、ここ直して、ここ直して、あとこれもやめて、絶対しないで、でも全体的にはいいね」と、怒涛のダメ出し。
何をやってもうまくいかないなー、と凹んでいるところドミちゃんが大きなギターケース抱えて帰ろうとしてたので「へー、あなたギター弾くんですね」と言ったら「これはリュックだよ」と真顔で返される。「いやいやご冗談を、きっとスタジオ練習かなんかしてたんでしょ、素敵ね」「PCしか入ってないよ」「またまたー(笑)」「違うよ、中はからっぽだよ」というやりとりを五往復くらいして、ため息まじりに中を開けて見せてくれたら本当に中にはナップサックが入ってるだけだった。冗談を飛ばしたつもりで冗談を返されたと思って冗談のまま別れようと思ったら、マジレス……こ、こんなときどんな英会話で切り返せばいいのかわからないYO! 全然意味わからないんだけど、蚤の市で3ドルで買ったギターケースが重いものを背負うのに一番ラクなので、リュックの代わりに使っている、ギターを弾いてた時期もあるけどネックが折れてから修理してないから全然弾けてない、みたいな話だった。わかるかよ! 英語ネイティヴでもツッコミどころに困るだろこんな奴! 笑えばいいんだろうが、「それは……す、スマートです、ね……」みたいな微妙な返事しかできなかった。「ところで君のリュックも素敵だね」と社交辞令を返されたので「Yes, red is my color.」と言ったら「そうだね、黒、白、赤……ふふふ」とニマニマされたので、こちらもニマニマし返す、ロシア構成主義ジョーク。帰宅して夫に報告したら「君たちラブラブだね……」と呆れられる。

21日水曜日、「20秒以内でメッセージのある映像を作ってくる」という課題、「LIFE IS THEATRE」という題でブロードウェイ宣伝動画みたいなのを作り、DavidMにややウケ。休憩時間中に質問しに行っても、(まだ滑らかに動かせないせいで)カクカク上下に動くパティーナミラーを指差してニヤニヤされる。なんかうまく言えないんですけど、私はやっぱり「エレガント」とか「ヒップ」とか「ゼン」とかのツボは全然掴めてないものの、「アホ」の感覚だけはいち早くアメリカ人と共有できているようである。いや、精一杯スタイリッシュな動画を作ったつもりだったのに笑われた、というだけなんだが……。他の授業で一緒の生徒のうち、映像の課題になると途端にイキイキして独学でどんどん変なエフェクトかけてくる子と、平面のときはすごく丁寧な仕事するのに超やっつけで宿題として作ってくる子といて、差が面白い。そんなことだけでも「素質」は透けて見える。
4限のエリックは個人面談を10分で終了。「結局、履修どうするの?」とキラキラした目で訊かれたので口ごもってしまった。やっぱり単位はエミリーからもらうのがいいかなと思いつつあり、でもエリックの指導も受けたいので、ごまかしごまかしやっていくことにする。二人に同じものを見せてもそれぞれ真逆のディレクションが返ってきたりして、両方を聞き入れて第三の解決法で二人とも納得させる、という意思決定プロセスが、「仕事」をしていた頃のようで、とてもやりやすい。たぶんこの日だったと思うけど、エリオットがニューヨークに来ているということを彼とランチしたという別の知人から知らされ、聞いてねーわとメッセージを送ったらもう翌日帰るというので、「あなたはMizu-Kusaiという単語を知るべきだ」と返信しておく。彼は東京在住のデザイナーで現在はパーソンズでも授業持ってて、留学前さんざんお世話になった師匠なんですけど、一方で飲食店経営者の顔も持っていてそちらの仕事も順調すぎるため、夫に「ちょっとー、今エリオットがさー」と話したら、「ああ、あの美味しいハンバーガー屋さん?」と一言。間違ってないけど!

22日木曜日。DavidHの筆舌に尽くしがたい萌えを堪能する講義であった。「今日はとってもいい天気だね、教室にとじこもっているのはバカみたいだ、こんな晴れた日こそ、そう、ストロボの授業にぴったりなのさ!!」と言い始め、建物を出て向かいの通りで「自然光+フラッシュ」を有効活用することによる写真撮影法を学ぶことになったのだが、相変わらずマイペースにしゃべくりたおす一方なので、途中でさっさと教室に引き上げてしまう生徒あり、まったく聞かずに自分のスナップ撮影を始める生徒あり、講師が「ちょっとそこに誰かモデルで立ってくれない?」と言っても全員が撮られるのを嫌がってまったく授業が進まず、進まない授業風景と生徒全員にフラレているDavidHがかわいらしすぎて彼の盗撮に血道を上げる生徒あり(もちろん私だ)。
しかしさー、授業料3000ドルとして15週で割って1コマ2時間半で200ドルでしょ、どうなのこれ、直射日光の下でフラッシュ焚いて画面を確認しようにも直射日光が強すぎてうまく見られないので腰を90度に折って老眼鏡をおでこに上げて「うーん、ほら、見てごらん、これちょっと見にくいけどみんな集まってこの小さい画面見てごらん!」と声をかけてくるDavidHと、「先生、確認だけなら日陰に移動されたらいかがでしょうか」「オウ、そうだね! ハッハ、僕ったらそんなことにさえ気が回らないんだな、やけに眩しいと思っていたんだがここだけカンカン照りじゃないか、ハッハハッハ! さぁみんな日陰に移動するよ!」と会話する権利、200ドル……たk……安い(鼻血)。身長190センチくらいあって黙ってればそこそこ美形なのにいっつも同じような長袖シャツを何十年履いてるのかわからないダボダボの長ズボンにインして、度が強すぎて眼球見えないほど分厚いレンズの眼鏡をキラキラ光らせながら大柄な手をぶんぶんぶんぶん振り回してひたすら機材トークだけをうっとり語り続ける、すこぶる美しくて超絶キモいオタクのおっさん。キャノンの一眼レフを抱えた他の生徒が必死で質問しているのに、それに答えながら横を歩く私の胸元のオリンパスが目に止まると急に逆側に向き直って「Sweet! It’s soooo sweet!」とカメラを褒め始める。私が促すまで反対側を歩いてる元の質問した子の存在を忘れている。彼の目に映る世界では学生はみんなカボチャに見えてて、我々の下げているカメラおよび我々の撮ってみせた写真だけが輝いて見えるのだろう。はー、マジで萌えしかねえ。
https://www.instagram.com/p/BK4iIoYga-b/
だからさー、何度でも言いますけどさー、『娚の一生』の海江田醇はトヨエツとかじゃなくてさー、こういう一見ちょっとナイ感じのおっさんが演じるのがいいんですよ。こういうおっさんがカメラの代わりに同じ情熱でやにわに若いホモサピエンス女子に入れあげて、こっちもこっちでドン引きしつつも「そういえば元の素材は悪くないのだった……(対ウディアレン比)」とドキッとするのがいいんですよ! トヨエツだったらそんなん出てきた瞬間トヨエツってだけでドキッとするので全然意味ねーだろ(力説)。もはや特殊性癖向けの枯れ専ホストクラブだと思って学費を貢ぎつつ一枚でも多く写真を撮ることに専念しよう。
パリコレのファッションスナップみたいな「明るい自然光の下なんだけど特定の人物だけ影が飛んでバチッと全体が見えてる」写真とか、「柔和な光の中のはずなのにキメ顔のモデルにドラマチックにシリアスな陰影がついてる」写真をどうやって撮るのか教わった、のだと思うけど、毎週の結論がいっつも「ちょっといい機材買っていろいろ遊ぶと楽しいよ、でも、あれを買うならこれとそれもないと使いこなせないかな、ネットに何ドルくらいで中古が出てるはず」的な話になってしまい、結局そうとしか言えないのはわかるんだが、iPhoneだけで課題をこなそうとしてる学生とか、ポカーンとしている。まぁでも私も、履修しなければカメラ買い替えなかったわけで、数年経ったとき「あのときあそこでDavidのおすすめメモっといてよかったー」と思うようなフレーズがあるのかもしれない。「小さな傷のあるレンズのほうが何度も何度も執拗に拭きまくったレンズより、よっぽどきれい」とか。
4限のドミちゃんは基本に立ち返るべく前半は座学の授業、スライドに投影されたおすすめ参考図書2冊の要点を、1ページずつ一緒に読んでいく。一学期目のタイポグラフィの授業のときも思ったんだけど、この形態で授業してるときのドミの姿から声音から、ほとんど父親が愛娘に絵本の読み聞かせをしてるみたいな状態である。大半の生徒が「またアレか」と適当に聞き流して好き勝手に内職している中、ふと天啓のようにひらめいて「先生、おうちでもきっとこんなパパなんですね」というフレーズを脳内で唱えてみると、……バブみを感じてまじオギャる……。反抗期の生徒は「何度も何度も同じ話ばっかり聞かせやがって、うぜーんだよオヤジ!」とグレたりするんでしょうが、私もうそういう時期を一周も二周も回ってしまったので、「もっと〜、もっとご本読んで〜!」と幼児退行が止まらず、和んだ。もちろん4限の授業だから疲れているのかもしれない、きっとそう。でも前学期の別の授業を取ってた友人が「ドミちゃんの夜回、まじ安眠できる……」と言ってた意味がよくわかった。ちょう寝かしつけられた。
それでようやくピンナップ形式の合評が始まり、みんなもうほぼ完成形の状態をプロッターで大判印刷して持ち寄ったりしているのだけど、私は今なお冴えない感じで、タブロイド判にチマチマ印刷しつつ、まだまだ個別指導で修正をかけていく段階。前学期ヘレン様との面談で言われた「あなたは、まだデザインしていない。これはデザインではない。コンセプトを元に忠実にきれいに無難に組まれたこのベーシック、これを、もっとunexpectedなものに作り変えていくのがデザイナーの仕事だ」というのが地味に堪えていて、あれもせな、これもせな、もっとせな、と余計なものをどんどん足していこうとしてしまう。そこでドミがまた「一つの版面でそんなに多くのことをしようとしないで。書体は一つで十分、太字なんて必要ない、ここを0.5ポイント広げるだけでいい、あれもするな、これもするな、何もするな、Centaurは、ありのままで美しい書体なんだよ」みたいなこと言うので、これまたバブッてオギャる(再)。外の世界ではヘレン様の言うのが絶対的に正しいと思うんですけどね。今はまだ大学の、内の世界だから、こういう先生になんか言われると、社会人辞めて戻って来た身には、し、沁みるのじゃよ……。そして一昨日のリュック談義に引き続き「ところでそのネックレス素敵だからよく見せてー」と引き止められ、なんでこんなどうでもいい話をするんだよあたしゃ早く帰りたいんだよ、というところでふと気づいたのだが、もしかして彼は私が「全然しゃべりが上達しなくてこんなことで働けるのか死ぬほど不安」と相談したので、隙あらば雑談英会話の練習台になってくれようとしているのではないだろうか……お、お、オギャー!!(再再) ほんといい先生だな。別にGD2のティムが悪い先生だったわけじゃないけど、ティムにバブみ感じたことないわ。
他の学生に「ポスターにHaikuを使いたいとき、どうやって組むのがいい?」と訊かれて、私ではない日本人学生が「うーん、やっぱりfree flowかなー」と言っていて、それが面白かったのだけど何が面白かったのか眠くて忘れてしまった。帰ってから英語のHaikuをあれこれ調べてみたけど、たとえば「詩」って、英語を勉強する以前より難解に感じるようになったな。どうとでも書けるはずの文章で、なぜその単語を選んだのだろう? みたいなこと、いちいち立ち止まって考えてしまうようになった。小学生くらいの子供の詩ばかりを載せているサイトがあって、そこに載っている詩が、私が普段書くメールの文章みたいで面白くてたくさん読んでしまった。繰り返しで強調したり、改行でリズムを作ったりすることはできてるんだけど、もうちょっと高度な「詩的表現」というのには全然届いていない、散文。まーそりゃあ、コドモと話してるみたいに見えるよね、ネイティブからしてみたら。

金曜1限のエミリー、10分以上遅刻してきて、「眠い、眠い、眠い、カーテン開けていい? ダメ? まぁそうねスクリーンも使うから薄暗い教室のほうが集中力高まるわよね、わかってるの、でも眠いのよ、なんか今日みんな体調不良で欠席よね、いやサボりって言ってるんじゃなくてインフルエンザ流行ってるらしいじゃない、でも休講にはできないし、あーーーーもう、コーヒー、コーヒー、今朝コーヒー買う時間もなかったの、本当うんざりよ、ギミ・コーヒー、ニード・コーヒー、うううううう、授業何時に終わるんだっけ? たしか11時半? えっ11時40分? はーーー、ぐあーーーーー、ねえ本当に窓開けちゃダメ? みんな朝から黙々と課題やっててほんと偉いわね、私もうこのところ本業が忙しくって無理、ごめん、悪いけど、本当いっぱいいっぱいで……コーヒー! あと20分!」みたいなことを、ギリギリ顰蹙を買わない程度の節度ある小声で、指導の合間にずーっとブツクサ言っており、「みんな我慢してるんだから先生も我慢しなよ、生徒かよ!!」とツッコミが止まらない。なんかこう、本当に、海外ドラマに出てくる「傍目には誰もが羨まむバリキャリなんだけど外見ほどとっつきにくくなくて実生活は意外とダメダメなところもある変なところでズッコケる憎めない女」そのまんまみたいな人なんだよね。演じているのか、素なのか。もし素なんだとしたら、誰かが彼女みたいな人を意地悪く観察してドラマの脚本に盛り込んでいるわけで、当の彼女はそういうドラマを観てどんな感想を持つんだろうな。
授業が終わると次のコマの講師が来て教卓のスクリーンをあれこれいじっている。十数分経って退室するとき顔を上げてみたら、「あれ、DavidMじゃない!」「俺はとっくに君たちに気づいてたよ」「あ、一昨日見た同じ動画だ。いっつもこの教室なんですか?」「いや、今日だけ、代講なんだ、俺に何も訊くな、知らんよ、代講なんだから」というわけで、顔はブスッとしてるけど受け持ちの生徒のことはちゃんと覚えている、彼もまた悪くない先生なのだった。昼は近所でバインミーをテイクアウト。2限のファッションドローイングは教室変更があり、モデルもいつもの肉付きよい人ではなく、ガリッガリに肉の削げたパルテノ姉様みたいな美女が来る。この日記を読んでいる日本人の同級生が「ねえねえ、先週、育さんの鉛筆削り落としたの、誰?」と訊いてくるので教えてあげる。彼女はやっぱり近所の画材屋で、一番安いどでかい鉛筆削りを買ってきて弁償してくれた。「わーお、大小二つも穴がついてる!」と喜んでおく。もちろん筆箱には入らない。