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2017-10-29 / 我ら息絶えし者ども

25日はデザイン仕事の打ち合わせのあと、「英語圏で仕事する際のモヤモヤについて日本語で愚痴をこぼすプロフェッショナルの会」というようなものへ参加。今回が二回目なのだが、みんな話が面白い。とくに、若手経営者たちの生々しい話を聴けるのがいい。「人を雇う」というのは、私はたぶん今後もしないことなのだけれども、人を雇っている人たちの言葉は、やっぱり重みが違うよな。誰かの人生を背負って働く人々は、掛け値無しに尊敬できる。一方、大きな看板を背負って雇われながら働く人たちも、ただ雇われているという以上の使命感を持って働いていて、その感じについてはかつて私自身も熱く抱いていたものなので手に取るようにわかり、直に触れるととても懐かしい。初めて行くラオス料理の店と、テーブルにエイ革を張ったカクテルバー。
26日は講演会のリハーサルがあり、直前に結構頑張ってスライドを作ったら、それで半日も過ぎてしまってびっくり。もう一つの心配していた仕事はつつがなく終わりに向かっている様子。立派なマントルピースのある独身女子の部屋へ上がり込んで、豪奢なすき焼きをごちそうになる。
27日はファッションドローイングワークショップへ。とある人へ『オトコのカラダはキモチいい』を手渡しに行く。そこでの立ち話から生まれた「#日本の漫画とファッション」という研究プロジェクト、一も二もなく実施決定。「こういう話をするといいのでは?」「この漫画のこと忘れてない?」といったご意見ご感想、以下のTwitterにリプライするかたちでコメントをいただければ反映させます。そのうちアンケート調査などもしてみたいけれど、まずは勉強会の開催ですね。
https://twitter.com/okadaic/status/924045424037695488
ここまで連日、日本語で日本人と話す日本語漬けの日々。本当はよくないんだよなと反省しつつも、一つ一つを足がかりに、英語圏オーディエンスに向けてできることを積み重ねていきたい。時間がたっぷりあるだけでもダメ、黙々とインプットするだけでもダメであり、もちろんだから、闇雲にアウトプットしているだけでもダメなんである、たぶん。


28日は、月末で閉まってしまうガヴァナーズアイランドを再訪。ピクニックポイントは「パンプキンポイント」と名称を変えていて、島内至るところにカボチャが転がって、大人も子供も仮装して、トリックオアトリートを満喫していた。我々ものんびりそれに参加していたのだが、途中で停めておいたレンタル自転車を盗まれてしまう。若い黒人男女のカップルで、途中で追いついて問い詰め、「こちらが金を払ってるんだから今すぐ返せ、この番号の自転車に紐づいた支払い証明のチケットもあるんだから!」と怒ったのだが、ものすごく堂々と表情一つ変えずに「これは私たちが買ったんだ」と虚偽の主張、挙句にスマホで私の顔を動画に撮り始め、最終的には漕いで逃げながら、半笑いでこちらに向かって侮蔑音を鳴らす始末。悪ガキは悪ガキだなぁ。キツネ目のジェスチャーこそされなかったが、アジア人のオバハンなんかに逃げ足で負けっこないと思ってるんだろうし、仲間内に動画をシェアして笑い者にするんでしょうな。
もちろん狭い島内のことなので、貸出所へ出向いて正当性を訴えると話が通り、ちょっとディスカウントで精算を済ませてのち、屈強な男性係員が「どっちへ逃げた?」とだけ訊いて、自転車でスッ飛んでいった。本物の捕物帳はここからだ。しかしまぁ、見つけたその場で自分で「口論」に勝って引きずり下ろせなかったのは、やっぱり無力さを感じますね。そんなのこれからも一生ずっと、無力感に苛まれながら生きていくんだろうけど。日本語圏では私だって日本語ネイティブの若者というだけで万能感を持っていたのだから仕方ないが。
言われてみれば私、英語で「議論」はさておき「喧嘩」をしたことがない。こんなときいつも、クラスメイトの子がボーイフレンドとの至極どうでもいい痴話喧嘩を重ねながら、どんどんスピーキング上達していったのを思い出す。ネイティブの人々は「恋愛ついでに英語を上達させようというのは絶対によくない、時間を無駄にするだけ、ちゃんとした有償の先生につくほうがずっと近道だ」と言うんだけど、それはさておき、口喧嘩スキルを上げる機会だって必要だと思うんだよなー。若者に怒鳴り散らされてちょっと怯んでしまったのだが、正当性はこちらにあるので、あそこで怯まないスキル、本当に大事なのよ。

日曜は朝から天候が崩れた。日本も台風らしいが、こちらもなかなかの暴風雨。週末かけて『ハウスオブカード』は最新最終回まで追いつき、ついでに夫のオットー氏(仮名)のために「秋のエリザベート祭り」を開催。帝劇『エリザベート』2016年版(Black)宝塚歌劇『エリザベート』1996年初演版と特典の歴代「死ねばいい」ダイジェスト映像(そんな趣旨ではない)、ついでにネットに落ちていた石川禅フランツの扮装映像やら、山口祐一郎と井上芳雄の「闇が広がる」やら、あれこれ見せる。前回の「夫を育てるミュージカルDVD祭り」は今年の7月4日よりも前だったようで、次回はまた少し時間を置いて、『王家の紋章』でも見せたいなー。『レディ・ベス』も映像化が決まって嬉しいですね。
「やっぱり万里生はお歌が上手だねぇー」と言われるたびに「でも禅ちゃんはここもっとミラクルメイクでマザコン皇帝っぷりと演技込みの総合力では負けてなかったから! ちょっと戦争とか指揮してみたいボクちゃんのもぎたてフルーツ感やばかったから!」と何度も何度もうるさく言ったせいだろうか。成河ルキーニが出てくるたびに「成河! 成河! 成河! 成河!」とオタ芸していたからだろうか。あるいは夫婦で闇広ダンスの練習を強要し、一発宴会芸「山口祐一郎の真似」(見えない緞帳衣装を揺らしながら両腕を大きく広げてベイマックスを抱きかかえるように前後にニャンニャンする)まで仕込んだせいだろうか。それとも、轟悠ルキーニと無印良品の部屋着姿の夫を見比べて「ちょっと何なの、同じボーダー柄でもこの着こなしの差! まるでダメ、全然違う、同じ男なのに! って理事様は女だけどな!」とdisったからだろうか。「君、さっきから『うわぁ〜、お花様きれい〜』しか言ってないですけどな、冷静に考えてもごらんよ、20年前に息子ルドルフ役だった香寿たつき様が、20年後に姑ゾフィー役やってんのに、お花様はお花様でずーっとシシィなの、怖くない……?」と怪談を語ったせいか。
最終的に夫は疲れ果てて夕方から知恵熱を出して寝込んだ。悪夢に魘されているようだった。ごめんね。オットー氏のためにしたことよ。すべて彼のためにしたことよ……。