読者は、待ってくれている。

とある雑誌で10年近く続いた人気連載小説が掲載最終回を迎えた。
うんと新人の頃に原稿をお願いしたことのある作家なので、
会社でその雑誌を手にとるときはちょっと気にしていたもの。

で、昨日、仕事の移動で地下鉄に乗っていたら
隣の席に座ったループタイ姿のおじいさんが
一心不乱に読んでいるのが、この雑誌のこの小説だった。

そうか、ちょうど今週で終わるって聞いてたな〜、と思い出して
こういう人が愛読者なんだァ、と無遠慮に隣人を観察していたのだが
最後のページまで丁寧に舐めるように読んでいたおじいさんが
文末の「ご愛読ありがとうございました」的な文句で手を止め、
無言のまま全身で「えええッ!?」という態度を発した。

寝ていたところを他人に起こされたように座席で跳ね上がっていた。
それから慌てて、冒頭から読み直したり何度もページをめくったり
表紙だの次号予告だのをチェックしつくしたりした後で、
「しゅ〜ん……」と音が聞こえてくるくらいに肩を落としていた。

じーさんじーさん、幼稚園児並みに感情ダダ漏れですよ(萌)!

その様子に、私はちょっと感動してしまった。
このリアルな世界で「読み手が小説を待っている」ということ。
そのことを、こんなふうに実感できる機会はほとんどない。

編集者は自分の作っているものが売れていく過程をほとんど見られない。
作った本や雑誌を舐めるように読む人を見かけることは、滅多にない。
商品を手で渡して「ありがとう」や「ごちそうさま」を言われはしない。

いくらネットで感想をあさっても書評をスクラップしても、
パン屋さんや八百屋さんのように、レストランや美容院のようには
受け手の喜びを直接感じられないのが、ちょっと寂しいと思うことはある。

普通は電車の中で本を読む人が感情を露にすることもほとんどないわけで、
こんなおじいさんを愛読者に持つ小説が、なんだか羨ましくなった。

聞けば、その雑誌での掲載が最後というだけで話は続く様子。
最後の文句も「他紙誌での継続を模索中」といった一文で、
車田正美が未完と書いたり武井宏之がみかんを描いたりしたような
何かの大人の事情を感じてしまう終わり方であった。

楽しみにしていたおじいさんの驚きはなおさらだったのでは。
彼がまた、毎週その小説の続きを読めるようになるといいなと思う。

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やっぱり、あのジャンルはこういう世代が大事なマーケットなんだなあ。
って1人しかサンプルしてないのに(笑)。あまりにもイメージどおりすぎた!